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暁の空
4
まさか転校生が王道を地で行くとは思っていなくてペコリと下げられた頭が上がって表情が見えた時、
何人の女子生徒が撃ち抜かれたのだろうか。

「わーお、すっげー美人だねー」

後ろの席の喜一も彼の端正な顔立ちに反応を見せている。
僕はと言えばただひたすら彼の顔を
じっと見つめ続けていた。

西洋風の美人が喜一だとしたら、
緋山はアジア風の美人といったところだ。
大きめでたれ目な喜一とは正反対の
つり目気味で切れ長な目元、
右目の涙袋には色気を醸し出すホクロがある。

漆を想像させるほど
艶がありつつも真っ黒な髪は
彼の白い肌をより白く際立たせていた。

「綺麗だな。」

何の気なしに呟いた言葉。
この時僕は後ろで眉根を寄せる喜一の姿に
気づくことが出来なかった。

なんせ緋山は男のくせに
僕が一番好む顔立ちをしていたから。


「真柴の隣が空いてるからそこに座るといい。
真柴ー手ぇ上げろー。」

「はぁーい」

池村も何を考えているんだろうか。
美人同士を隣り合わせにするなんて
休み時間の地獄のような黄色い声を想像するだけで気が滅入った。

「ま、真柴くん! よろしくね。」

「よろしくぅー」

たったそれだけの会話に
周囲に座る女子たちが色めき立つ。
騒がしいことが嫌いな僕にとって
緋山がうちのクラスに来たことは
拷問でしかなかった。



「緋山君って帰国子女なんでしょー!? ねえ、英語喋れるの?」
「ねえねえ、学校の中案内してあげるよ!」
「緋山くーん!」


「あれが世に言う肉食系ってやつかなー?」

「うるさい……。」

案の定休み時間はお祭り騒ぎだった。
挙句の果てには違うクラスのやつまで現れる始末。
我慢の限界に来た僕は荒々しく席を立つと、
足早に教室を出た。

「ゆぅちゃん、今日のお昼どこで食べるー?」

「人がいないとこ。」

「裏庭かなー?」

当たり前のようについてくる彼は
僕の二歩分で一歩歩く。
腹が立つことこの上ないが
いずれ僕にも成長期が来ると信じている。

ガシャン!

自販機が盛大な音を立てて飲み物を排出した。
構内の至る所に設置された自販機には
様々なものが置かれており、
ジュース専門、コーヒー専門、
変わり種として何が出てくるかわからない
お菓子が詰め込まれたものもある。
そんな中からスポーツドリンクを買って飲んでいれば後ろから喜一が抱きついてきた。

「暑苦しいからやめてくれる。」

「今日の転校生、緋山って言ったっけー?」

「話聞いてる?」

「ゆぅちゃんのどストライクな顔してたねー。」

人の話を聞かないことに定評がある喜一は僕を抱きしめたまま左右にゆらゆらと体を揺らす。
酔いそうになるから本気でやめてほしい。


長いこと一緒にいるせいか、
彼には僕の好みをだいたい把握されている。

好きなタイプも、好きな食べ物も
嫌いな食べ物も、趣味も何もかも。

「また好きになっちゃうのー?」

「ならないよ。あれは美人すぎ。
っていうか男だし。」

「好きになるのに性別は関係ないんだよー?」

「そうだね。喜一は僕のこと大好きだもんね。」

「うん」

いつもなら きもちわるーい と冗談を言い合うのに今日は違った。
いつもより少しだけ低い声が耳元で聞こえて、
回された腕に力が込められる。

変化に弱い僕は急にこういうことをされると、
脳みその処理が追いつかなくなってしまう。

「喜一? どうし……」

「好きだよ。裕介。」



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