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異形ー3
 ……待てよ。あの人、どっかで見た事あるような…………。

 瞬間、今朝の桜の木の下での出来事が脳裏に鮮やかにに蘇る。

「…浜崎……さん…………?」

 間違いない。絶対にそうだ。

 近付くにつれ、より鮮明になっていくそのシルエットが、疑惑を確信へと昇華させる。

 やはり今日の俺はツイてるのかもしれない。まさか同じ日に二度も彼女に出会えるとは。

 しかし……何故彼女はあんなに疲れているのだろうか。

 既に表情が確認できるほど近くまで来たため、彼女のそれはかなり切羽詰まったものであることが窺える。

 状況から判断するに、誰かに追われていると判断するのが筋だろうが……一つ、問題がある。

 今朝の彼女の話では、日本に引っ越して来たばかりで誰もこちらの知り合いはいないという。つまり、肝心の追い掛けられる相手が存在しないのだ。

 もしいるとすれば身内だろうが、それではあんな表情はしないはず。

 では、誰が……。

 その答えは、以外にもすぐに出た。公園の中から一つの影が姿を現したのだ。

「なんだ…犬か……」

 それは、ゴールデンレトリバーぐらいの大きさの犬。毛はあまり生えておらず、ちょうどシェパードを一回りか二回り大きくした感じだ。

 ただ、そいつの鼻息はかなり荒く、開いた口から覗く舌からは唾液がぼたぼたと地面に滴り落ちていた。

 …あれは怒ってるな、かなり。

 成る程、それで彼女は追い回されていたという訳か。何かの拍子に、あの犬に危害を加えてしまったのだろう。

 何にせよ、早く助けたほうがよさそうだな。いつあの犬が噛み付くかわからない。女の子に怪我させる奴は、犬畜生でも鉄拳制裁。これが俺のモットーた。

 俺はポケットから両手を出すと、小走りで彼女に向かって駆け出した。

 だがその瞬間、それまで彼女との距離をゆっくりと詰めていた犬が、自分の四肢に力を漲らせたのが手に取るようにわかった。

 間違いない。すぐにでも飛び掛かろうとしている。

 その事に気付くや否や、俺は無意識のうちに強く地面を蹴り付け全力で走り出していた。

 低い唸り声を上げる猛獣との距離はもうほとんどない。しかし同様に時間もない。

 間に合えっ……!

「…危なっ――!!」

「…え?」

 犬と俺が彼女に向かって飛びかかるのと、その彼女がこちらを振り向くのとはほとんど同時だった。

「…きゃあっ!?」

 間一髪。

 僅かに俺のほうが早く浜崎さんに到達し、半ば突き飛ばされた感じになった彼女の頭のすぐ上を犬の牙が通り過ぎていった。

 俺はそれを気配だけで察すると、空中で体を半分だけ捻り、彼女を抱き抱えるようにして背中から地面に着地。全身に衝撃が伝わる。


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