黒の教団編
さて、行くか
「なー、ティエドール元帥」
「んー、何だい?」
間延びした赤毛兎と変人芸術家の囁き声。縛られ、背中合わせの状態のため二人の会話は見張り番の探索部隊には聞こえていない。
「俺、『囚われごっこ』飽きたさぁ」
ラビはあっけらかんと言った。拘束されたこの状況をものともしてない口調だ。そして、応じたティエドール自身も別段、驚きもせず同意する。
「おや奇遇だね。私もだよ」
「よっしゃ。んじゃ、俺に任せるさ」
「若者が動いてくれると年寄りは楽が出来ていいね」
「元帥、言うほどジジイじゃねーじゃん。そういうセリフはウチのパンダが言うべきさ」
背中越しにティエドールが小さく笑い声を立てた。穏やかな人だが、溺愛されるとウザいのはよく知ったところなので、これ以上気に入られるように仕向けることもない。
ラビは見張りと称してこの場に残されていた三人の探索部隊に声を掛けた。
「なぁ、おたくらもアレンと寝たいクチさ?」
「「「は?」」」
さらりと質問したラビに、探索部隊たちは呆気に取られ、間抜けな顔をした。言葉の意味が理解出来ない歳でもあるまいに。
「だーかーらー、アレンを抱きたいんかって聞いてるんさ」
含みなく言ってのければ、三人揃って面白いぐらい狼狽えてくれた。ただ、手持ちのライフルを振り回すのは止めて欲しい。誤って発砲されたら今は逃げられない。
「な…っななな、何を急に言い出すんですか、ラビ殿!!」
「そそ、そうですよ!ウォーカー殿をだだだっ、抱きたいかだなんてっ」
「あああっ、あからさま過ぎますよ、ラビ殿!」
「「「抱きたいに決まってるじゃないですか」」」
頼むから目を血走らせんないでくれ。必死過ぎてヒクから。
「息ぴったりさ………気持ち悪いぐらい」
「素晴らしいね」
ティエドールがのんびりと感心する。ラビは余りに呑気な発言に小さく嘆息した。あなたが喋ると場の空気が崩れるので黙ってて下さいとは言いたいが言えないから気にしない方向で行こう。
「そんじゃさ、こんなトコいたらヤバくね?」
「「「へ?」」」
ラビは得意げな笑みを浮かべた。地面に座っているからラビの方が視線が上向きなのに、その眼差しは完全に見下す位置にある。
「いやさ、アンタら結構大人数で組んでたみたいだから。見張りって名目打って、ていよく厄介払いされてんなーって思って」
「なんとっ!」
「あ、あいつら!」
「どうりでっ!」
「早くしねぇとヤバいんじゃねーの?ユウは野放しのまんまだけどまだ合流できてないかもしんねーし、流石のアレンも単独でイノセンス無しじゃ非力だし、案外もう捕まって連行されてたりして……」
ツラツラと口上を垂れているが、内心ではあの二人はそんな簡単に掌握出来るタマとは思っていない。なにせ天下の白百合と、その騎士様だ。
だが、余裕など始めからない探索部隊はそれに気付かず、それどころか目に怒りが宿した。
「くつそ、ウォーカー殿は渡さん!」
「こうしちゃいらんねぇ!行くぞ!!」
血相変えた彼らはラビ達に見向きもせず、武器を手に駆け出した。
「いってらっしゃーい♪」
にへーっと相好を崩し、彼らが建物の角を曲がるまでその背を見送る。
その瞬間、二人のエクソシストは同時に立ち上がった。縄脱けなんてお手の物。あれだけ厳重に縛っていたはずのロープはいとも容易く地面にハラリと落ちた。
「縛りプレイも悪くねぇけど、相手が野郎じゃなぁ……」
自由になった手足を動かし、ラビはうんざり悪態を吐いた。どうせなら美人な姉ちゃんにされたい。というか、アレンにされたら最高だとかなんとか、いかがわしい愚痴を零す。
「「さて、行くか」」
二人は人気のなくなった道を歩き出した。
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アレンを捌けるのは神田だけなんだってば。
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