黒の教団編
ライバル一掃計画
「まさに一掃だな」
「カオスってるわね。周りがいかに普段から白百合に欲情してるかが分かるわ」
「全裸にならなきゃ問題ないだろ」
「ええ。今のうちに倉庫に隔離しましょう」
ものの一時間でミスト掃除機を完成させ、即座に実行に移した俺たちの目の前に薬中共が群がってる。
さすがに薄めたとはいえ、『五秒で飛翔☆理想郷』は才能を持て余した室長のオリジナルだ。
それに改良を加えているから尚のことその効果は絶大。
この惨状は当然の結果と言えるだろう。
うわごとのように『白百合、白百合』と呟く団員たちは各々が望む理想郷に旅立っている。
幻覚とはいえ白百合と戯れる時間を過ごせているのだから、良心はこれっぽっちも痛まない。
外で起こってることは見えも聞こえもしてないから多少手荒に引き摺っても問題ない。あとで数ヶ所すり傷が付いてたって、『イイ夢見たぜ☆』って幸福感のがデカいだろうし。
あらかたの白百合信者を倉庫にブチ込んだら、リナリーが腰に手を当てて満足気に笑った。
「隔離完了。倉庫に残りの霧を充満させておきましょう。これで数時間は持つわよね」
「ありがとうよ、リナリー」
ガスマスクを外して礼を述べると、リナリーは首を横に振った。
「いいのよ。だって面白いもの」
「兄貴分としちゃ、その逞しいまでの成長は嬉しい限りだよ」
「ふふ、ありがと。私はその兄貴分の役に立てて嬉しいわ。さ、行きましょう」
リナリーに手を引かれ、談話室に向かった。休んでてくれと言われ、有り難く言葉に甘えていたら、きっかり十分後、ティーセット一式と白百合を連れたリナリーが戻ってきた。
「リーバーさん、こんにちは。このメンツでお茶会って初めてですね」
「悪いな、オッサンが邪魔しちまって」
「そんなこと。リーバーさんは頼りになるお兄さんですよ」
淡く微笑んだ白百合の君ことアレンは、ごく自然に隣りに座った。あらかじめリナリーと打ち合わせたのかもしれない。
「今日は癒し効果抜群のカモミールにしてみたの。お茶請けはブラウニーよ」
「美味そうだな」
「もちろん。ジェリー先生からご教示されてるもの」
「日に日にレパートリーが増えていきますね。いただきまーす」
フォークで切れ目をいれるアレンを眺め、俺は改めて幸せを噛み締めた。嗚呼、幸せすぎて怖い。
「大袈裟ですよ………科学班ってそんなに枯れてるんですか?」
「ありゃ、酷いぞ。インテリ野郎の群れだからムサい上に暗いからな」
「でも……うん、なかなか……」
銀灰色の瞳が、顔のパーツ一つ一つを見つめてきた。真っ向から美少女の視線を受けることに慣れてないもんだから躯の奥がムズムズする。
「?……なんだ?俺の顔に何か付いてるか?」
「いえ、そうじゃないんですが……リナリー的にどう?」
向かい側に座っていたリナリーがソーサーにカップを戻し、頬杖をついた。洗練された動きは十代の少女とは思えない艶があった。
「私は幼少から馴れ親しんでるから完璧家族だわ。入団時期が遅かったらラビよりイイ線いってる」
「ふぅん……そっか。僕は全てが神田中心だからなぁ。ただ頭脳は惜しいかも。あと、柔軟性」
「何の話だ?」
「「遺伝子を残したいか否か」」
「………もうちょい年相応の話をしてくれ」
俺はもう、演技でも偽りでもいいから癒しが欲しいんだよ。
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常識人、いいと思うよ。
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