黒の教団編
Study boy
*Study boy*
「リーチ短いからな。もっと下から入って顎を狙ってけ」
「うんっ」
「躯もっとちゃんと捻れよ」
「んと……こうして、こうして、……こう?」
「そう、上手いな」
「へへっ」
嗚呼、なんて素敵な光景だろう。愛する夫と可愛い子供が仲睦まじく戯れている。父の背を見て育つ子供の姿といったら。
「おーい、そろそろ休憩にしましょー。サンドウィッチ作ってきましたよー」
「モヤシ」
「姉ちゃんっ」
裏手の森で稽古していた神田とティモシーに大きく手を振った。
柔らかく眼を細めた神田と、嬉しそうに手を振り返したティモシーが微笑ましい。
抱えていたバスケットには具だくさんのサンドウィッチが山ほど詰まっている。
持参したシートに座って、三人で遅い昼食を取った。まるでピクニックにでも来たような気分だ。
「いっただきまーすっ」
「はい、いただきます。いっぱい食べるんだよ」
「美味いーっ」
さすがに蕎麦を持ってくることは出来なかったけど、ティモシーがいる手前、神田は文句を言わなかった。ちょっと不満そうではあったけど。
「コラ、神田。ちゃんと野菜食べなきゃダメですよ」
「兄ちゃん、野菜嫌いなの?」
「………好きではない」
「もー、子供の前なんだからちゃんと食べてましょうよ。あ、あとねデザートにリンク作のカボチャプリンもあるんですよ。カボチャは好きでしょう?」
「なぜ私が………」
うっさい黙りなよ、空気。
親子水入らずの時間を邪魔立てしないで。
「俺のは!?俺の分もある!?」
「ちゃんとありますよー。ゆっくり食べていいからね」
「うんっ」
もそもそと小動物のように食べるティモシーを見てると、口元が緩む。
自分の悪ガキ時代に重なる部分があるからっていうのと、単純な母性本能だ。
「ねぇ、兄ちゃんと姉ちゃんはどっちのが強いの?」
本人は素朴な問いだったらしく、お茶を飲みながら首を傾げた。
神田とリンクは唇の端を引きつらせ、苦虫を噛み潰したような顔をした。僕は笑いたくてしょうがなかったけど。
「ねぇ、どっち?」
「そりゃ、神田が強いですよ」
「そうなの?」
「組み手とかは大抵、手加減してくれるから指導みたいなもんだし、色々な面から見た戦闘力を総合すると神田が強いってことになるんですよ」
まぁ最も、戦闘において正々堂々とか貫いてらんないし、卑怯で姑息な手段で勝負したら圧倒的に僕が勝っちゃうだろうね。汚かろうが何だろうが、結局最後は勝ち残ったもん勝ちだ。それにほら、僕、女だし。
「「……………………」」
「へーっ、やっぱ兄ちゃんはスゴいんだねっ」
「ねー♪」
「じゃあ、俺もっと兄ちゃんから色んな技教わるよっ」
キラキラと希望いっぱいに拳を固めたティモシーはこの後も色々と鍛練するつもりらしい。
「さっきは何を教わったの?」
「んとね、下段から入って顎を突けってとこまでっ」
「うーん……普通だなぁ。ねぇ、神田、次は僕が教えてもいい?」
「あ゙?ああ、構わねぇが………あんまエグいのは教えんなよ」
「オッケ。ティモシー、僕が戦闘に有効な技を伝授してあげましょう」
「本当っ!?」
「ええ。強くなってエミリアを守れる男になりましょうね」
それにはまず、目潰しと金蹴りと仕込みナイフの扱いは必須だ。
あとは敵の欺き方と、精神を貶める話術、それから弱みを握るコツとそれを使った追い詰め方。
「……エグいのは駄目だって言ってんだろ」
「これくらい序の口だと思うんだけどなー」
「「「…………………」」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
なんたって稀代の悪女ですから。
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