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黒の教団編
空腹が齎らすもの



キュ―――………グルルル………


可愛らしい鳴き声が哀れな少女の腹部より発生した。アレンは発生源の腹部を撫でて、哀しげに呟いた。



「お腹空いたな………」



汽車内で軽い昼食は済ましたが、量が少なかったので、かなりの空腹感がアレンを襲っている。僕にとってはサンドウィッチ五人前など少ない少ない。



時刻は十五時。おやつ時だ。


未だに神田と落ち合えていない。よくよく考えれば(認める気はないけど)方向音痴の僕は下手に動かない方がいいのかもしれない。


一方の神田が迷っているとはつゆ知らず、アレンは一度、手近な家屋に身を潜めた。ブッ通しで罠を張っていたので、流石に足腰がだるい。



グ―――――……………



その上、エネルギー切れともなればテンションガタ落ちだ。いやいや、未来の子供と休暇のためなら踏ん張ってみせるけどさ。



「………みたらし団子食べたい」



現状で叶わないことを呟いても何の足しにもならない。


「チャーハン、グラタン、ユッケ、ナシゴレン…………」



駄目だ、虚しくなってきた。膝を折って丸くなり、溜息を零す。独りは好きじゃない。



「神田………」


―――逢いたいよ………。



膝に顔を埋め、瞳を閉じる。思い起こすのは黒髪と鋭い目。僕を撫でる骨張った大きな手。照れを必死で隠す不機嫌な表情。


嗚呼、僕は病的なほど彼に夢中なんだな。


思わず苦笑が漏れた。





――………カタン。





「っ、!」


部屋の奥から微かな物音がしたのをアレンは聞き逃さなかった。無音で立ち上がり、身構えながら壁沿いにドアへと向かう。


「……………」


緊張の面持ちでドアノブを捻り、一気に開け放つ。


「誰っ!?……………って」


扉の先には四人掛けのダイニングテーブルとレンガ造りの竃。それから木材の食器棚があるのみ。



テーブルの上に置かれた蔦の籠から顔を覗かせたのは………


「ネズミ………さん」


アレンが呆然と呟くと、人の気配に驚いたネズミは一目散に食器棚の後ろへと隠れてしまった。


テーブルには食い散らかしたドライフルーツの食べかすが点在し、籠の中には他にもたくさんのドライフルーツがあった。


リンゴにバナナにマンゴー。
美味しそう。凄く凄く美味しそう。



「ひとつだけなら………っ、いただきます!」



誰もいない空間に言い訳しながら、欠片を口に放り込む。酸味の効いたリンゴは食べやすく、適度に甘い。


これは他のも食べねばなるまい。


「オイシ――――ッ♪♪」


頬を弛ませて至福の時を送るアレンはフルーツに夢中。迷子の恋人のことなど、すっかり忘れ去られていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


食欲≧神田。



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あきゅろす。
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