黒の教団編
暗黒白百合
気持ち悪い顔だな、全く。
美しさの欠片もない。
「断ったらどうなるんですか?」
腕を捕まれ、男たちに包囲された絶対不利な状況でも、あえて挑戦的に言う。なにせ、天下の白百合ですから。リーダー格の男は気圧されながらもキッパリと言った。
「申し訳ありませんが、気絶させるまでです」
「ふっ……ふふふ………」
アレンはこれから起こる出来事を想像して、可笑しくなって吹き出した。それを不審げに見やる隊員たちに『違うでしょう?』と眼差しだけで物申した。
「断ったらココで楽しいコト、するんでしょう?」
艶めかしい笑みに、隊員たちの喉が鳴る。全員もれなく生唾下しやがって。キモいこと考えてんじゃねぇぞ、カス共。
いまだに掴まれていた男の手からやんわりと逃れ、背後の剣もスルリと躱す。
団服の釦を上からゆっくりと外し、男共の視線を釘付けにした。足跡ストリップライブに夢中になっている彼らは気付かない。
いつの間にか輪の中から抜け出されていたことを。
アレンは大振りに団服を脱ぎ捨てると同時に、先ほど奪ったナイフで壁に伸びていた紐をブッツリと切断した。
―――刹那。
ガシャァァァァアァンッ!!…………………ガラガラ………
「ぎぃやぁぁぁぁぁあっ!!?」
「ウグァァァァァッッ!?」
家屋の上から無数の植木鉢の雨が降り注ぎ、隊員の頭に直撃した。今日はお昼から所により鉢植えが降るでしょう……なんてね。
二階の屋根に設置した罠だし、死ぬことはないだろう。たとえあったって知りませんよ、そんなの。僕を相手にするんだったら、それぐらいの覚悟はしてもらわなきゃ。
ドクドクと頭から血を流して地面に伏した隊員に笑顔で手を振る。
「じゃあ、僕はこれにて失礼します」
もう聞こえてないだろうケド。
鼻歌を奏でて、脱ぎ捨てた団服を着直し、その場を立ち去るアレンに声が掛かった。
『アレン君、殺り過ぎはダメだって』
「いやだなぁ、これぐらいは序の口ですよ………コムイさん」
静かに羽根を揺らすゴーレムが頭上を旋回する。声の主は通信の向こう側で呆れている。
「ハンターの皆さんに伝えておいて下さい。本気で来ないと死にます・・・って」
『全く・・・キミという人は・・・』
『兄さん、代わって♪アレン君、頑張ってね。見守るぐらいしか出来ないけど応援してるからっ!』
「そんなこと言って、凄い楽しんでる声音ですよね」
『いやだわ、気のせいよっ』
キャピキャピとハイテンションで笑うリナリーは余裕綽々で悪びれてる。僕の親友としてはそれぐらいの方が付き合いやすいけど、今回ばかりは腹立たしい。
「じゃ、僕は逃げますので」
『は―――い♪健闘を祈ってるからね――っ♪』
通信はそこで途絶えた。結構な数のゴーレムが飛び交っているから兄妹との連絡は随時可能だろう。その逆で、随時居場所が特定されてる事実は目を背けるとしよう。
とりあえず騒ぎすぎたから、ここから離れなければ。
瀕死の隊員はコムイが医療班を派遣するだろうからギリギリ助かるだろう。
「よし、頑張るぞっ」
アレンは細い裏道に身を投じた。
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見た目よりずっと頑丈な白百合。
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