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黒の教団編
哀れなバカップル



「ニヤけ過ぎ」



上級車両の窓から景色を眺めていた恋人に嗜められ、アレンは口元を覆った。



「だって、一緒に任務なんて久しぶりじゃないですか。最近は単独ですれ違いばっかりだったし」



嬉しくないんですか、と上目遣いで見やると神田はたじろいだ。



「ね、隣り座ってもいいですか?」

「好きにしろ」

「えへへ、好きにします」


向かいの席から立ち上がり、隣りに寄り添う。


膝に投げ出された骨張った手にオズオズと触れ、握り締めると、僅かな力をもって握り返される。



嗚呼、幸せ………っ。



この汽車が一生終着駅に辿り着かなきゃいいのに。


「任務はちゃんとこなせよ?」

「分かってますって。心配性なんだから」



今回の任務はスペイン―バルセロナにイノセンスによる奇怪現象有り。早急に現地に向かい回収することだった。


やたらとご機嫌なコムイに指令を与えられ、翌朝に出立した。


後数時間で到着してしまうと思うと残念でしょうがない。


貪るように貴重な移動時間を満喫せねば損というもの。


アレンはここぞとばかりに神田の左半身に凭れた。



「お前な………」

「はい?」

「そういうことすると犯すぜ?」

「腰痛で足腰覚束ない僕を神田がフォローして任務に勤しんでくれるなら大歓迎です♪あ、もちろん任務中はずーっとお姫様抱っこで」


牽制のつもりで放った球を投げ返されて、神田は溜息を吐いた。


その横でお姫様は優雅に笑う。



口喧嘩で勝てるほど彼の頭は良くないのだ。

ましてや『毒舌姫』や『暗黒皇女』の異名を持つアレンに勝てる訳もない。


猫被りしている気はない。

どの面を取ってもそれがアレンの本質なのだ。



「にしても、不自然でしたよね」

「あ?」

「教団ですよ。食堂もガラガラだったし、廊下でも隊員さん達見かけなかったし」

「朝早ぇからだろ?」

「そうかなぁ……?」



訝って顔を顰めたアレンだったが、押し寄せる眠気に目蓋が重くなる。


汽車の独特の揺れは必要以上に眠気を催すのだ。



――クソッ……眠ってたまるか。
折角のゆとりある時間を睡眠なんかに使うなんて……そんな勿体ない真似できるかっ!



必死になって頬を叩いたり、目蓋を擦ったり。



突然、奇怪な行動をしだした恋人に神田は肩を震わせた。



――子犬みたいで可愛らしい。


口が裂けたってそんなことは言えないが、基本的にムッツリな神田は胸中で打ち拉がれた。



「着いたら起こしてやるよ」


「ん――………」


「ばっ……おまっ……」



神田の膝元を枕にすると、彼は面白いくらい狼狽えた。



相好を崩して『おやすみ』を告げて、瞳を閉じる。
意識はすぐに薄れていく。


白髪を撫でる掌の熱に、アレンは深い眠りの淵へと誘われた。




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