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黒の教団編
Apr.1の過ごし方



血なまぐさい団服で帰還したのが今朝方のことだった。夜通し汽車に揺られた甲斐あって、予定より一日早く戻れた。


足早に司令室へ報告に行くと資料の山に埋もれていた巻き毛室長…もといコムイ・リーがヘラリと笑って出迎えた。


「あ、神田くん、おかえり〜。ご苦労だったね」

「てめーコムイ。ハズレの任務寄越すたぁ、どうゆう了見だコラ」

「あはは〜ごめんね〜……いやいやいや、タンマタンマ、ごめんなさい、首筋刺さりそうだから」

「あら、戻ってたの?おかえり」


背後から現れたリナリーが微笑んだ。盆に乗った複数のカップから沸き立つ湯気は薫り高いコーヒーだ。


「そう言えば、アレン君に逢った?」

「いや、まだだが」

「二人とも状況を無視して会話しないで」



うっせえな。誰がテメェなんかで錆び抜きするかよ。六幻はもっと崇高なんだよ、愚者め。



「神田くん、僕はわりとデリケートなんだよ」

「知るか、ボケ」


「神田ぁ、何処ですかぁ?」

「あ、きたきた。アレンくーん、神田帰ってきたわよー」


噂をすればなんとやら。聞き慣れたいやに上機嫌な恋人の声が徐々に近づいてくる。


「神田、神田、かーんーだっ」


扉の影から顔を出したのは白髪銀目の可憐な少女。『白百合の君』なんて異名を持つ自慢の恋人だ。


「えへへ〜、じ・つ・は、神田に報告があるんですっ」

「あ?報告?」


頭一つ突き出した状態でモヤシ(愛称)ははにかんだ。スルリと司令室に躯を滑り込ませたモヤシは腹部を押さえて満面の笑みで言った。



「デキちゃった」



「…………………あ?」


思考停止。その間、およそ3分。誰かカップラーメンでも作ってろ。コムイが煎れたてのコーヒーを吹き出してたがそんなこたぁ大した問題じゃねぇ。


デキちゃった?デキちゃっただと?あれだよな、やっぱりあれしかないよな。他に意味ないよな。まさかの解答としては『遂に蛆虫を暗殺デキちゃった』だが、あの野郎が死ぬとか皆既日食が毎日起こるぐらいあり得ない。



「きゃー、おめでとうアレンくんっ」

「ありがとーぅっ」

「男の子?女の子?」

「まだ分かんないんです。医務室で調べてもらったら三ヶ月だって……」



少女二人だけ時間停止に囚われず手を取り合って、キャッキャッ騒いでる。いや、コムイは火傷して藻掻いているから硬直してるのは俺だけか。


「神田、どうしたの?嬉しくない……?」

「っ、」



そんなの、嬉しいに決まってる………っ!!!が、キャラ的に相好崩して飛び跳ねるとか大声上げてガッツポーズとか矜恃にかけてゆるさん。


「いや………よくやった」

「ふふ、神田ってばまだ産まれてもいないのに」

「ねー。まだ全然よね」

「それも……そうだな」

「触ってみる?」



腹部を軽く叩いたモヤシにつられ、手を伸ばす。おそるおそる触れた腹部は滑らかでココにもう一つの命があるとは思えない。



などと感慨深く撫でさすっていたトコロ、リナリーが口元に手を添えて言った。口の端がピクピク痙攣している。



「っく……ア、アレン君……わた、私、もう限界……」

「奇遇ですね。僕もさっき、から……っ」



なんか、嫌な予感が………



「「ぷっ………あはははははっ!!」」



リナリーは腹を抱えて、モヤシは俺の肩をバシバシ叩いて、盛大に笑い出した。涙まで流して、そうとう腹筋が痛そうだ。俺は俺で物凄く高クオリティな罠に掛かったことを理解し始めた。


ひとしきり笑ったモヤシは何処に隠し持っていたのか看板を取り出した。
『ドッキリ大成功』……ふざけろ。



「モヤシ………」



どすのきいた声で名を呼び、六幻の柄に手を掛ける。だが、俺の怒りなんてお構い無しに二人は笑うのを止めない。


「や、待って待って。今日はエイプリルフールですよ、神田」

「そーよ。即ち、騙される方が馬鹿なのよ。でも……っふふ、傑作だわ。案外、近いうちにパパになるかもしれないわね」

「ふ、ははっ……神田って意外に子煩悩になりそうですね」

「アレン君には是非とも女の子を産んでほしいトコロだわ」



この怒りどうしてくれようか。二人に敵わないのは嫌と言うほど分かっている。手近にいるのは火傷に苦しむ巻き毛眼鏡一匹…譲歩しよう。



「ふぃー熱かった。水ぶくれになったらどうしよう……ん、神田くん?」

「………………」

「ちょ、え、なになに!?待っ、のぎゃぁぁぁぁぁぁぁあっっっ」



六幻は使わないが、フルボッコだ、この野郎。てめー、便乗犯その@の兄貴だろ、責任とれやコラ。鼻骨骨折ぐらい大目にみやがれ。


「うん、八つ当たり要因は必須だったわね」

「うはー、アレは痛いよ」

「いいのいいの。リーバー班長たちが喝いれてやれって言ってたもの」



のほほんと会話する少女たち。ターゲット(=俺)の怒りが収まるまでコーヒーで一服というわけだ。


たっぷり10分続いた公開処刑の後、もう一人のターゲットへ同じドッきりを仕掛けたのは隠れた事実だったりする。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ラビは大はしゃぎしそうだな。




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