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あの日、喉の糸を抜糸したあの日からシンクは来ない。


その間に着々と退院の準備は始まってる。薬の説明から専門的なことまで。まだ生活する術も見つかってないのに。私…どうしたらいいのかな。


ここを出れることは嬉しい。生活には困るけど何かあったときのために貯めておいた貯金を切り崩してやりくりをして、その間にリハビリして行こうと思っている。


歩けるようになれば何でも仕事はあるだろうし、声の方をなんとかするのはその後でも大丈夫だと思うから。

ここの治療費とかは多分シンクが出してくれてる。その分を返すためにも早く働かないといけない。



ただ…一番辛いことはシンクに会えなくなってしまうこと。足の悪い私にとっては教団に行く道のりは厳しい。もし教団に行けたとしても多忙なシンクに会えないかもしれない。

私が何回も顔を覗かせたりしたらシンクにとって迷惑な行為になるかもしれない。



そうすると私がシンクに会えることはなくなってしまう。シンクがわざわざ私に会いに来てくれることはまず無いだろうから。こうして退院が決まった今シンクは私に会いに来ないから。会いに来てはくれない…から。




シンクとそういう話なんてしたことないからわからないけれど、もしかしたら教団内外に関わらず恋人が居るかもしれない。あれだけ綺麗な人なんだから恋人が居ない可能性は少ないと思う。

そうだとすると何の関係もない私がシンクに会いに行ったりなんかしたらそれは多大な迷惑になってしまう。


もう迷惑をかけることはしたくないし、今が好かれているとかは思ってはいないけど嫌われることだけはしたくないから。…私はどうしていいかわからなくなる。




涙が滲み出てきて目に溜めれる量を越してそのままシーツに落ちて小さなシミを作って染みていく。


私は涙脆くなってしまったと思う。それもシンクが好きという気持ちに気付いた時から。前からそう思ってたけど今は抑えられないくらいに、どうしようもなく好きになってる。


こんな体になってからそういうことはもう諦めようってそう私は確かに決意したのに、優しくされる度に、励まされる度に、好きになっていってる私が居る。


仕方ないからだって、同情だって、わかってるのにこの気持ちは止まらなくなってく。好きだって、傍に居たいよって言ってしまいそうになる。

そんなこと無理だってわかっているけれど、一緒に生きたいと思うの。


でもそれも退院するまで。退院したら会うこともなくなって長い時間が掛かってもいつかはきっとシンクのことを忘れられるはずだから。



なのに溢れてくる涙が本当は離れたくないって思ってることを自覚させるように止まらないの。



いつもシンクは私に道を光を与えてくれた。こんなになるなら死んだ方がましだって思って生きることに希望を捨てた私の傍でいつも優しい言葉を掛けてくれた。


そんな優しいシンクに当たっていつも噛み付いてばかりだった私を見捨てないで、私が前を向いて生きていけるようになるまでずっと励ましてくれた。前を向けるようになってからも少し弱気になったときにはいつも励ましてくれた。




ねぇ私はどうしたらいいのかな。いつもみたいに教えてよ。私わからないの。どうしたらいいのか。どうしたいのかすらも。シンク…貴方が居ないと自分の気持ちさえもわからないよ。



解決しない悩みだけがぐるぐると頭の中で回っていく。


タイムリミットはすぐ其処なのに私はどうしたらいいか、まだ答えを見つけ出せずに居た。











修正090419




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あきゅろす。
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