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兎探しの旅へ出発




アリスはわざとらしい程の盛大な溜息を吐きだした。



「でも、やっぱりずるしちゃダメみたい。卯紗義さんは時計を持ってなかったし。」

あ、そう。悪かったな、貧乏で。

「で、なんで俺は兎になってんの?あんたがやったのか?」

アリスは顔を曇らせる。
そんな顔しても俺の同情は買えねぇんだよ。何たって自分で蒔いた種なんだから。

「ごめんなさい。うさぎさんになったら、時計を貰えると思ったんだもの。(持ってなかったから意味なかったけど)だから、だからね、うさぎさんになる薬を、卯紗義さんにぶっかけちゃったの。」

わざとやったのか。ヤケになってわざとやったのか。

「……ホントに、ごめんなさい!!……でも卯紗義さん、その姿の方がかわいいから、許て?」

かわいいとかそういう次元じゃないだろ!
謝るより先に元に戻せ。ってか、てめーが兎になってろ。時計ぐらい自分で買え。

「で?元に戻んの?」

冷たく言い放ってみると案の定、アリスの顔はさらに曇っていた。

おいおい。戻れねーとかほざくなよ。

アリスは両人差し指の先を合わせて、イジイジと動かしている。視線は床に向けられて、兎を見ようとはしない。

「あの、アリスったら、うさぎさんを探すのに必死で、元に戻る薬、買い忘れたの…。だから、卯紗義さんが寝てる間に、もう一度お店に行ったんだけどね、そのお店、無くなっちゃってたら……。薬、無いの。」

……おい、今なんて言った?薬がない?元に戻せない?
このアリスもどき!!アリスはこんなやつじゃねーんだよ!変な国に逃げた兎を自分で追いかけるんだ!
てめーもそんぐらいの努力しやがれ!!(言ってること滅茶苦茶)

兎は一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「………それで、なんで俺があんたの手伝いなんかしなきゃなんないわけ?」

アリスの顔に少し明るさが戻る。

俺、元に戻れる気がする。でもぜってーめんどくせぇ事になぞ…。ってかまず兎になってる事がめんどくさい。

アリスは眼をキラキラ光らせて兎を見つめる。

「そう、そこなのぉー!アリスね、お店に行ったのはいいんだけど、帰り道が分からなくなっちゃって。取り敢えず、動かずに救助信号出して、助けを待ってみたの。それで来たのがこの大きな乗り物(飛行船)で、助けに来てくれたんだと思って船に入ってみたんだけど、この中何でか知らないけど誰もいなかったの。」

と言うと、寂しそうに俯いた。

「あ、この船ね、最後尾に大きな入り口があるんだけど、そこからアリスの船ごと入って来たんだよ。入った途端に閉まっちゃったんだけどね。」

と、困ったように笑いながら言った。

「こんな広いとこにいても誰も相手してくれる人がいない(暇だった)から、ちょと中を模様替え(改造)したり、ここでいろいろ(どう改造するか)考えてたりしたの。そしたらね、アリスビックリしちゃったぁ。この乗り物、勝手に動き出したのぉ。浮いたよ、このおっきい船が。」

アリスは胸の前に手を組み、驚いたという様に目を大きくしているが、何故か楽しそうにも見える。

「それで、感動してたらね、ある事に気づいたんだけどぉ、この船から降りられなくなっちゃっの。操縦の仕方も分らなかったし…。今は何とか、強い魔力で動かしてくれてるんだけどね。」

兎はアリスのマシンガントークに引き笑いをしつつ、呆れていた。

……阿呆らしい。

「あら、卯紗義さん、呆れてるのぉ?でも聞いててね。まず、アリスは家に帰りたいの。家に帰ればいろんな魔法の本があるから、卯紗義さんを元に戻せると思うの。でもね、アリスはここから出られないじゃない?しかも、帰り道も分からないし……。魔法陣の転送魔法は自分に使えないし……だ。だから、卯紗義さんを元に戻してあげるから、アリスのお手伝いをしてほしいの。協力してもらえるかしら?」

必殺!!
アリスの上目い!!!…は、兎には通用しなかった。

っは〜やっぱめんどくせぇ。て事は何?俺はいろんなトコに跳ばされて?兎狩りをして?アリスを家に帰さねーと?人間の姿に戻れないわけ?

……あーめんどくせぇ。
そんな事してたら俺高校卒業出来ねぇじゃん。
ってか、こんな事になったら高校どころじゃねーわな。
『一人暮しの高校生男児 行方不明』新聞のトップ記事。
わーい俺の顔アップで載るぞ〜!これで一躍有名人だ!
………虚しい。


でも兎姿じゃ意味ねーじゃん。
早く戻らねーと…。今の姿じゃ誰も俺だって事分かんねーし。
俺だって言っても信じて貰えそうにない…。悲しいぜ……。

ってかまず誰が俺の事信じるわけ?
俺を信じてる人って誰だよ。
家族とか?
つっても今は殆ど会わねーし。
俺は家族に見放された存在。
家族も俺の事信じてなんかいい。
俺だって誰の事も信じてねーんだから。
人間なんて簡単に信じるもんじゃねぇよ。

……どうでもいい事だが。


…また悪い癖が出た。




「そーしないと元の、人間に戻れねーんだろ?」

ちらっとアリスを見上げる。

「そういう事なのかな。協力……して貰える?」

また出た、アリスの上目使い。
…別に何も感じないが。

「めんどくせーけど、兎は嫌だし(あ、しゅんとした)、元に戻りたいし、仕方ねーじゃん。」

アリスは頬を紅潮させる。
ぱあっと花が開くかんじ。

実際アリスの周りに花が散っているような気がするが、目の錯覚だと思い込む事に徹した。


すげー嬉しそう……。

「ありがとう!!卯紗義さん大好き――!!!」

アリスは勢いで机を跨いで兎に抱きついた。
えらい勢いだったため、兎はそのまま椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。

「うわっ!」


椅子の背が高かったおかげで後頭部を打たずに済んだ。
しかしアリスが上に乗っかっているので重いし苦しい。

正直な所心臓バクバクものだったが、兎は動じていないかの様に振舞う。
自分の気持ちに言い聞かせる様にして。

本マもんのアリスなら嬉しいけど(それもどうかと)、こいつはアリスもどきだし。

「重い。どいてくれ。」

別に嬉しくない。
こいつに好かれても。


実際の所どうなのかは本人の了承を得てから語らせてもらおう。

さて、何時になるやら。




「じゃあ早速だけど、もう行ってもらうわね。」


兎は話の展開の早さについていけない。

おいおい、こいつ何て言った?今から行くって?何も準備とかしてねーのに?

アリスは何処からともなく白い手のひらサイズの小さな箱を出してきた。
蓋を開けると、これまた小さなコルクの瓶が幾つか並んでいる。
その中から赤い粉状の物が入った瓶を取り出した。
取り出した瓶には複雑な模様(魔法文字らしい)がびっしりと描き込まれていた。

「確かこれが移転魔法用だったはずなんだけど……。違ったっけ?多分これだよね。」

とか何とかブツブツ言いながら(それが兎の不安を一層大きくしているとは露知れず)キュポっといい音を立ててコルクの栓を抜いた。
薄く赤い煙が立つ。

マジで大丈夫なのかよ…。


アリスはテーブルと椅子を部屋の端に寄せて広い部屋の真ん中に立った。

コルク瓶を傾けると赤い粉がサラサラと落ちた。
小さな瓶に赤い粉の量が比例していない事に気付いたが、これも魔法の一種なのだろうと思った。
瓶を傾けたままで部屋の中央に大きな赤い円を描く。
その円の半分ぐらいの同心円を描くと、瓶を直立させて蓋をした。
赤い粉の二重円は発光しているように見える。(見間違いでなければ)

これが魔法陣ってやつか。
結構単純なもんなんだな。
これでちゃんとワープとかできんのか?いっけな〜い、間違えちゃった〜!…とか言って変なとこ飛ばされたりしねーよな……。
極寒極熱地帯とか鯨の腹ん中とか…(俺はピノ●オじゃねぇよ)ぜってーヤダ。
そんな事になったらアリス絞めるからな。



「あ、そうそう。これあげるね。」

と言って渡されたのは、兎からして手のひらサイズの(かなり小さい。
サイコロより一回り大きいくらい)、針金のような物が一本付いている黒い箱型の機械。

何コレ。…アンテナ着いてるし。

「これ持っててくれる限りは迷子にならないから安心してねv」

渡された物は、どうやら発信機らしい。

あーそう、これを使えば俺の位置が分かって、ちゃんと無事(ここ強調)、迎えに来てくれるってわけね。

「でも絶対無くさないでね。身に着けてないと、卯紗義さんの居場所が分からなくなって、見つける事が出来なくなっちゃうから。」

不吉な事言うんじゃねーよ。
……ってか兎の俺にポケットなんてもんはねーんだぞ!?身に着けろってぇ?よく考えてものを言え。

「……何処に着けるんだ?」

そう問い掛けると、アリスはどこに隠し持っていたのか、黒い輪っかを取り出した。

「大丈夫大丈夫!首輪を着けてあげるからね。発信機の裏っ側にクリップがついてるから、これで首輪に着けていれば落ちないでしょ?それに飼い兎って事もすぐ分かるし〜。ハンターに狙われる事も無いよねっ。」

そう言って満面の笑みを見せる。
そんなアリスを兎は冷めた目で見ていた。

あ、そう。一石二鳥ってやつなんだ。ふぅーん。
でもその首輪、妙にゴツくてエス●ム(ピヨ)チックなのは何でだろうな。

「そうだ。この後呪文を唱えるんだけど、その間は他の事言えなくなるから質問あれば今のうちに聞いてね。分かることなら何でも答えるよ。」

質問………質問……。

「時計持った兎を探せばいいんだろ?」
「そうで〜す!」
アリスは派手に拍手をした。
少しわざとらしく感じた。
兎の眉間に皺が寄る。
そんな兎をやはり気にも止めず、アリスは説明を続ける。

「その時計を持った兎ちゃんは、いつも首に黄金色の懐中時計を掛けていて、噂によると15・6歳の子供らしいの。見かけの愛らしさとは裏腹に、魔力はすっごく強いんだって。だから攻撃されない様に気をつけてね。例えるなら〜〜、ド●えもんに出てくるスネ●ぐらい…かな?」

アリスは真面目な顔で言う。

説明としてはかなり意味不明だ。全く例えになっていない。
ス●夫はどのぐらい強いのだろうか。いつもジャイ●ンにへヘコヘコしているだけで、どちらかというと弱い部類なのではないだろうか。はっきり言ったなら激弱。

「他にも例えるなら、ぬいぐるみの中ではテディベアで〜、殺虫剤ならキンチョ―ルよ。」

腰に手を当て自信満々に言うアリスに悪気は全く無い。
はぁ?テディベアって……か、可愛いって事か?(おいおい)あとキンチョ―ルとか………………激強いじゃん。
蚊一発で殺すじゃん。六畳で五・六秒間プッシュ。
ゴキブリ等には直接(強制終了)




「……とりあえず、そいつ捕まえて連れて帰って来たらいいんだよな?」
「ええ、そうよ。他に聞きたい事はある?」

わかんねー事ばっかだけどまぁいいや。行けばなんとかなるだろ。

兎は魔法陣の中心に立つ。
一つ深呼吸。

「……無い。」
「じゃ、呪文唱えている間は目を閉じててね。魔力が生じる瞬間に、鋭く発光したり強い衝撃が起こって、失明(失命?)する場合があるから。」

そう言ってアリスは眼を閉じる。


………………それって超危険なんじゃねーか?


返事を聞かずに呪文は紡がれ始める。
いつもより少し落ち着いた声音。別人の様だ。
あの『アリス』とは言わないけれど。

「冷たい太陽  熱い夜。 その狭間に生きる精霊魚。 青き瞳 青き肌 青き鱗。蒼き衣を纏い、同じく蒼く染まった鋭き爪は世界中をも蒼色にかえる、その力をもって我が意に同じなさい。私の名前はシャスターデージー・サイネラリア・ロベリア・アイリス。」


伏せていたコバルトブルーの目を大きく開いた。
蒼い、澄んだ瞳が兎を見据える。


「シヴァ・クレマチス、あなたを召喚します。」


……召喚魔法みたいだな。
移転魔法じゃなかったのか?俺にはよくわかんねーけど。
何だ?シヴァ………なんだっけ?いちいち長ぇんだよ。覚えにくい。
アリスの名前もやたら長ぇし。
アイリスだし。
名前違うし。
…お、俺なんて、由貴卯紗義だ!!!ユキウサギだぁ〜雪兎だぁ〜(木霊)




アリスの呪文が一言紡がれる度に、魔法陣の中に奇怪な文字(魔法文字なのだが)が現れる。
外側の円に沿う様に文字が走り、一周すると内側の円に沿う様に文字を刻み出した。

「!!?」

内側の円も一周すると、強い風が吹いた。
強いと言うか爆風。
開けるなと言われたが目なんて開けていられなかった。
息をするのも難しいぐらいだ。

何、だ……?

兎が最後に視界に入れたもの、それは蒼い双眸に蒼い肌と鱗。
黒い髪だけが違う色で際立っている。
身体よりもはるかに長い矛を持った半漁人のような若い男だった。



「シヴァ、お願いねv」


「…御意に御座います。」


シヴァと呼ばれた半漁人、もといトカゲ男(?)は、右手に持った大きな矛を軽く振り降ろした。
すると兎の立っている足元、魔法陣の中心に、同じく奇怪なもじが一つ、今度は大きく浮き出た。
そんなトカゲ男(?)の光景が兎には全く見えてはいなかった。





何せその頃にはもう意識が無くなっていたからだ。







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あきゅろす。
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