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恐怖感染
冬の檻

学校から家に帰ると、俺は真っ先にこたつの電源をいれた。

こたつが暖まるまでには時間がかかる。
それまでに準備をしておくか。

台所に行き、お茶とみかんを出す。

ここ最近の日課を済ませると、急いで居間に戻った。

暖まったであろうこたつに足を入れる。


「おおっ……!」


毎度の事ながらこの瞬間はたまらない。

俺はみかんを一口食べ、お茶をすすった。

ああ、幸せだなあ。


「ノブ兄ただいまぁ!」


どうやら幸子が帰ってきたようだ。

幸子はふたつ離れた妹だ。

いつもなら部活の時間のはずだが、ずいぶんと早いな。


「あ、こたつあったまってる?」


「もちろんだ。誰が好き好んで冷たいこたつなんか入るか」


去年の冬、高校に慣れ始めた俺はこたつを買った。

駅の近くにあるリサイクルショップで売られているのを見て一目惚れしたのだ。

今となってはこれが無いと冬を越せる気がしない。


「ちょっと待ってて」


幸子はそう言うと、ばたばたとどこかへ行った。
しかしすぐに戻ってきて何かを取り出す。

ごとり。

皮を剥いて凍らせたみかんだ。

幸子はこたつに足を入れると、それをしゃくしゃくと食べ始めた。


「幸子、それなんだ?」


「えへへ、冷凍みかんです!」


ほう、なかなか俗なことをするんだな。
確かに旨そうだ。


「はい。おすそわけ」


例に習ってしゃくりと食べる。
食感も味も、シャーベットのようで悪くない。

これは明日から日課が増えるな。


「それで、今日の部活はどうしたんだ?」


俺は次のみかんを剥きながら聞いた。


「顧問の先生が風邪でお休みなの」


この時期に風邪か。

もうじき冬も終わるっていうのに運が悪いな。


「お前は大丈夫か?」


「たぶん大丈夫。それよりも花粉症がつらいかな」


花粉症ねえ。
なったことが無い俺にはわかんねえな。


「じゃあ私、着替えてくるから」


そう言って幸子は階段を上がっていった。

相変わらず元気だなあ。
反抗期が来たら立ち直れないかもしれない。

俺も着替えようと思い、体を引く。

しかしそこで、違和感を感じた。

腰の辺りが引っかかって抜けないのだ。


「あれ?おかしいな」


もう一度体を引く。
やはり抜けない。


「なんだこれっ!?」


こたつには引っかかる様な所なんてない。

それなのにがっちりと腰を固定している。

何度か体の向きを変えてみるが、これも駄目なようだ。

そうだ、こたつを持ち上げるのはどうだろう。

ふちに手を置き、思いっきり力を入れる。

だがこたつは鉛のように重く、びくともしなかった。


「……駄目だねこりゃあ」


解決策が思い浮かばず、倒れるように横になる。

いっそ友達でも呼ぼうか。

俺は携帯を取りだし、電話をかけた。

ぷるるるる。

発信音を聞きながら考える。

なんて説明すりゃいいんだ?

こたつから出られないとか、馬鹿丸出しじゃないか。
下手したら頭を疑われるぞ。


「きゃあぁぁぁぁぁ!」


五回目のコールに差しかかったとき、二階から悲鳴が聞こえた。


「幸子!どうしたんだ!?」


幸子の返事はなく、かわりに暴れまわるような物音が響く。

俺はこたつの足を蹴りつけて、無理矢理こたつから出ようとする。

それでもこたつは、俺を離さないかのようにまとわり付いてくるのだ。

あせればあせるほど冷静さを無くし、頭が真っ白になる。

無様に暴れていると、階段をかけ降りる音が聞こえた。


「ノブ兄助けて……ってなにやってるの?」


幸子は間抜けな顔をしているだろう俺を見て、呆れた顔を浮かべている。


「あんまりこたつに頼ってちゃいけません」


幸子がこたつのコンセントを抜くと同時に、腰が自由になった。

固くなった体を軽く動かす。

……助かった。


「で、部屋で何があったんだよ?」


「あっ、そうだ!部屋にゴキブリが出たの!助けて!」


少し間をおいて俺はため息をつく。

心配して損した。

不意に携帯の着信音が鳴る。

あいつ、やっと電話に気づいたのか。
もう遅いわ。

俺は電話に出ると、こう切り出した。


「もしもし里中か。お前って虫平気だっけ?」



12/03/25

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