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恐怖感染
白昼夢

ハッと目を覚ました。

全身に汗が張り付き、酷く気持ち悪い。

ベットから体を起こすと、辺りを見渡してため息をついた。

夢を見ていた。

どんな夢だっただろう。
なんだか嫌な夢だった気がする。

しかし、いくら考えても夢の内容は思い出せなかった。
まるで頭にもやがかかっているようだ。


「ま、いいか」


僕は諦めて学校に行く準備を始めた。

今日も一日が始まる。



僕の高校まではずいぶんと距離がある。
そのため、毎日朝早くに家を出なくてはならないのだ。

この時期の朝は身が凍るほど寒く、吐いた息が真っ白に染まる。

僕の利用する駅は小さく、人が極端に少ない。
今日もいつも通りの朝だと思っていた。

駅につくと、そこには見馴れない女性がいた。

黒いコートに黒い帽子、それに黒い手袋と、まるで喪服のような服装だ。
だが、マフラーだけが真っ赤な色をしているせいで、どこかおかしく感じる。


「あれ、あの人どこかで……」


気が付くと僕は、そんな言葉をもらしていた。

目の前の女性は間違いなく初対面だ。
それなのにどうしてそう思ったのだろう。

違和感を感じつつ、僕は隣に座った。

ちらりと女性を見る。

帽子を深く被っているせいで顔が解りづらいが、やはり知らない人のようだ。

僕が見ていることに気づいていないのだろうか。
足元を見つめたまま顔を上げる様子はない。

あまり見るのも失礼か。

女性から目をそらすと、こちらに来る電車が目に入った。

目の前で停まると、開いた昇降口から暖かい空気が流れ出す。

電車に乗ろうとして、僕は女性が動かないことに気がついた。
もしかして眠っているのだろうか。


「あの……電車来ましたよ」


女性の返事はない。
ずっと見ていたから警戒しているのかもしれないな。

僕は仕方なく、そのまま電車に乗った。

今日はいつもに比べて乗客が少ないようだ。

空いている席を見つけて適当に座る。

電車の中では特にすることもなく、自然と車内を見渡した。


「あっ………」


先ほどの女性だ。
乗ったところは見なかったが、いつの間に乗ったのだろう。

女性は目の前で立ち止まると、僕の隣に座った。

どうやら怖がられていた訳ではないようだ。

しかし、隣に座るとは思わなかった。

僕が覚えていないだけで、やはり知り合いなんだろうか。

どうしたものかと考えていると、ふと肩が触れていることに気づいた。

女性が近づいているのだ。

なぜだろう。
悪い気はしないのだが、恥ずかしくてそちらを見られない。

女性はさらに体を近づけた。
寄りかかっていると言った方がいいかもしれない。

視界のすみで、覗き込むようにこちらを見ている。

このままキスでもされるんじゃないだろうか。
そう思うと心臓が激しさを増す。

吐息があたるくらいの距離まで近づくと、果物のような甘い匂いが鼻をついた。

その瞬間。

全身に、ぞわりと鳥肌が立った。

言い様のない恐怖に襲われる。


「……ひっ!」


僕は思わず突き飛ばした。

尻餅をつく女性を置いて、急いで昇降口に向かう。

追いかけてこないだろうか。
びくつきながら、自分の降りる駅を待つ。

早く、早く。

駅までの時間がいつもより長く感じる。

しばらくして、聞き慣れたアナウンスが聞こえた。
駅についたようだ。

僕は押し付けるように電車賃を渡すと、飛び出すように電車を降りた。

すぐに後ろを振り向くが、彼女の姿はどこにも見当たらない。

僕は釈然としないまま学校へ向かった。





僕は風呂を出るとベットに倒れ込んだ。

学校に着いてからは、朝のことがずっと頭から離れなかった。

あれはなんだったのだろう。
宗教の勧誘とも考えたが、それにしては要領が悪い。

そもそもあの女性は何がしたかったのか。
あのまま何もしなかったらどうなっていたのか。

結局、考えても仕方がないことだ。

僕に解るはずがないのだから。

しばらくそうしていると、ベットの心地よさに眠気を誘われた。

何かを考えようとしても頭が働かず、首を振るばかりだ。

しだいに抵抗も薄れ、意識が揺らいでいく。
がちゃり、と扉を開く音がした。
母さんだろうか。

ゆっくりとした足音が近づいてくる。

体を起こすのも面倒で、耳だけをそちらに傾けた。

そいつはベットに腰かけると、僕の頬を撫でる。

冷たく柔らかい肌の感触が、より一層眠気を誘う。

覚えのある甘い匂いがした。
いつ嗅いだのだったか。

思い出そうとして、すぐに頭がとろける。

甘い、匂い。

あまいあまい、におい。

だめだ。
自分が何を思い出そうとしていたのかさえ解らなくなる。

もう寝てしまおう。
明日考えればいいじゃないか。

深いまどろみに落ちていく中で、妙にはっきりとした声が聞こえた。


「おはようございます」


ハッと目を覚ました。

全身に汗が張り付き、酷く気持ち悪い。

ベットから体を起こすと、辺りを見渡してため息をついた。

夢を見ていた。

どんな夢だっただろう。
なんだか嫌な夢だった気がする。

しかし、いくら考えても夢の内容は思い出せなかった。
まるで頭にもやがかかっているようだ。


「ま、いいか」

僕は諦めて学校に行く準備を始めた。

今日も一日が始まる。



12/02/28

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