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蜘蛛の仮面
公演
あぁ・・・・

さっきの気合! 戻ってきて!

あたしは、ステージの裏のカーテンのそばにいた。
そこに行くまではあたしは気合を体に込めていた。
しかし、いざそこに行ってみるとさっきまで体の中にあった気合はすべて抜けてしまった。

「フレア! 自信持って! 今のフレアなら出来る!」

「大丈夫だよ、フレア。 あたし達がついてるから」

「あ、ありがとう・・・」

二人から励ましてもらうが、一向に体の震えが止まらない。

「おい!」

ガヤガヤしている中で、凛とした声が響く。
あたしはそんな声に構っている暇もない。
体の震えを抑えるのに必死だった。

「そこのお前」

落ち着け・・・落ち着くんだ、フレア

ここまでした以上やるしかない!
逃げ出すな、フレア!

「フレア!!」

「はいっ!?」

一瞬、自分で自分を呼んだのかと思った。
だがあたしを読んだのは見知らぬ男性だった。
・・・・すごーく、睨まれてる・・・。

「お前が俺と踊るのか?」

「ら、ららららしいです」

どーしよ、この人、怖いよ

先ほどの緊張とは違う震えが体に走り、思わず身構える。

そうすると、男性は静かに笑った。

「俺はタツだ。 俺のリードについてきたらいいから。」

「わ、わわかりました」

「緊張するのは誰でもあることだ。 俺に任せとけって。」

そのルックスには合わない少年のような笑みをあたしに向けた。

あたしも釣られて笑う。
その時、タツさんの背後からサブリナさんが走ってくるのがみえた。

「タツ! フレア!」

「おぉ、サブリナ」

「フレアさん・・・本当に申し訳ありません。 お礼は必ず!」

必死に頭を下げるサブリナさん。

「気にしないでください! あたし、頑張りますから!」

自分なりに精一杯笑ってみた。
するとサブリナさんは、ほっとしたのか硬かった表情を和らげた。
そこへサンドラさんが声をかける。

「サブリナ! カーテン開けるよ、さっさと位置ついて」

「ああ、わかりました。 ・・・では失礼します。」

サブリナさんは美しいお辞儀をしたあと、スポットライトが当たるステージへと歩き出した。

「本日はサーカス『蜘蛛の仮面』へようこそおいでくださいました! 私、団長のサブリナと申します。 蜘蛛の楽園へと皆様をお連れする片目の蜘蛛の、案内人でございます。」

大きな声ではっきりと言い放ったサブリナさん。
観客が少し歓声をあげる。

「さて初めにご覧になられますは、火吹き男ならぬ火吹き女と息ピッタリの空中ブランコ! ・・・・どちらもスリル満点でございます。 それでは! 心ゆくまで、我がサーカスをお楽しみください。」

と、サブリナさんが言い終わると、サンドラさんがアルコールを口に含み松明を口元に掲げ、火を吹きながら登場した。

サンドラさんは火をつけた棒を周したり、投げたりして観客を圧倒させた。

そしてまたアルコールを口に含んだサンドラさんはフローゼルを呼び出し、氷のつぶてを空中に降らせた。

それに目掛けてサンドラさんが火を吹く。
たちまち、氷は雨となりサンドラさん達に降りかかる。

サンドラさんが一礼すると観客からは拍手が送られた。

「すごい・・・」

あたしはおもわずつぶやいた。

「サンドラは俺らのサーカスの2番目のメインさ。 1番のメインは空中ブランコと、演舞」

「へぇ・・・って、え? 演舞がメイン!?」

「・・聞いてなかったのか? 次で俺たちだぞ?」

・・・今度こそ体から正気もろとも抜けた気がする。
サーカスって猛獣使いとかがメインとかじゃないのかっ

頭が真っ白になりつつある。

「あぁ・・・どうしよう」

それしか言葉が出なかった。
その時、何やら暖かいものに包まれた。

「心配すんな、俺がリードしてやるから。 さっきもいっただろ?」

抱きしめられている、と頭が気づくまで時間がかかった。
それとともに心臓がはちきれそうなぐらいに早く動く。

「あ、あの・・」

「落ち着けよ。 大丈夫、心配するな」

なんだか妙にその言葉に落ち着いてしまった。
もう体の震えは止まり、あれほど真っ白だった頭も徐々にいろいろ考えられるようになる。

「ありがとうございます・・・タツさん」

「いいってことよ」

気づけば空中ブランコはもう終わっていた。
ステージを見れば、サブリナさんが演舞について話しているようだった。

サンドラさんに背中を押され、なれないヒールの高さでこけそうになるが、なんとか踏ん張る。

サンドラさんの方を振り向くと、にっこり笑って頑張れよと口パクをしてくれた。

・・・・大丈夫、あたしはもう大丈夫だ

「それでは、魅了されていただきましょう。 美しい蜘蛛達の円舞曲です」

あたしとタツさんは、同時にステージへと足を踏み出した。

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あきゅろす。
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