Hello, fine days
Hello,fine days<2>
同居生活をはじめて二ヶ月。やっと彼女の生活パターンを掴めた。
鉢合わせにならないよう、こそこそと身支度を整えていると、不意に馬鹿らしくなってしまった。
なんで自分の家でこんなに気を遣わなくてはならないんだ。茗が来てから朝のリズムがすっかり変わってしまった。
歯を磨いて、朝食をとって、ゆっくりしてから顔を洗って最後にコンタクトレンズを着けたいのに、今は何はなくともコンタクトレンズを着けるのが優先になっている。
たまにならいい。
恋人が泊まりに来た翌朝くらい早めに起きて支度することは苦ではなかった。たまにだから。
それが毎日、平日休日問わず続くのだ。僕にとってこれ程苦痛な習慣はない。
鏡に映る顔は瞳の色が違うだけなのに、まるで別人。日本人と外国人。長い間コンタクトレンズに慣れてしまって、もうどちらが偽りかも分からない。
「……仕方ないよなあ」
生きやすい方へ逃げたのは自分だ。この黒いコンタクトレンズは僕が『僕』である為の枷であり、味方なんだ。今さら手離せない。他人にこの瞳を晒すことなんてもう一生出来ない。
あの地獄をもう思い出したくはない。
固い思いを再確認して、仕上げの目薬を点すと、洗面所を後にした。
今日は茗にとって初めてのレコーディングの日だった。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!