Hello, fine days
Hello,fine days<1>
なぜ彼女を一人で生活させてはいけないのか。
未成年とはいえもう彼女は高校生で、寮の空きが出るまでの間くらいマンスリーマンションで一人暮らしさせれはいいのにと、思っていた。
けれど、担当マネージャーも社長もみな口を揃えて無理だと言う。
しばらく首を傾げていたが、その理由は自宅に置いてすぐに分かった。
生活能力が皆無だ、この子。
洗いものを頼めば必ず皿を割り、風呂は湯を溢れさせるし、洗濯機は空回り、ガスコンロでは小規模な火祭りを開催していた。
「つまり、お前は体のいい託児所ってことじゃん。事務所もやりますなあ」
「やめてよ、タイ兄。受け入れまいとしてる事実なんだから」
近い友人に未成年の女の子と暮らしているなんて言えるはずもなく、僕はこの溜め込みに溜め込んだやるせなさを吐き出したくてたまらなくなり、結果勢いに任せて、休憩中の父親の職場に押し掛けてしまった。
生憎、父は取材があって一時抜けているらしく、ベースの太陽兄さん――タイ兄と呼んでいる――が僕の話を聞いてくれている。
持参したコーヒーショップのカップに口を付ける。少し冷えたカフェラテの味はそんなにいいものじゃない。ここへ来たときには熱かったはずなのに、そんなに話し込んでしまったのだろうか。
「珍しいよなー」
「なにが?」
「お前のポーカーフェイスが崩れんの」
「……僕、そんなに無表情だっけ」
まるで自覚のない指摘に眉をひそめる。これでも会社では営業職に就いてるんだけど、これから仕事大丈夫だろうか。
「そうじゃねえよ」
「ええ? 意味が分からないけど」
「分かんなくていんだよ、浩は」
タイ兄は僕の頭をガシガシと乱暴に撫でると、意味深な言葉を残したままレコーディングブースに戻っていった。僕は来たときよりも複雑な気持ちで、ベースラインを試行錯誤しているタイ兄を見つめていた。
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