Hello, fine days
Hello,fine days<0>
ミニバンに乗せられて、やって来たのは見慣れた高層ビル。運転手として同行している秘書の正岡に促されエレベーターに乗り込む。黛社長の運営する事務所は十八階なのだが、先に行っててと言われ、社長と秘書正岡は途中で降りてしまった。
やはり嫌な予感がする。
そもそも黛社長に呼び出されて、良い思いをしたことが無いのだ。
「浩、大丈夫か?」
「はは、父さんは心配性だよなあ」
斜め前に立つ父に笑いかける。すらりとした細身の男性は浩太郎ほどの青年が父親と呼ぶには些か若すぎる風貌だが、そう呼ばれるのが当然のようにそうか、と返事をした。
「でも念のため、言っておくよ。俺はお前を傷つけるようなことは二度としないし、させない」
だから心配しなくていいと、筋張った華奢な手が頭を撫でてくれる。それは成人したというのにいつまで経っても子供の頃のまま変わらずに続く親子の印みたいなもので。
「黛さんも事情は分かってるし、きっと大丈夫だろうと思い、たいな」
あの女社長は突拍子もないことばかりを言い出すのを思い出して、語尾が弱くなってしまった。仕方ないのだ。浩太郎は今まで彼女が提案したあれこれを振り返って、父を仰ぎ見る。
「権力とかで捩じ伏せたりできない? アッシュのボーカリストの言うことがきけないのか、みたいな」
「一蹴されるよ」
「そうだね」
そんなことは目に見えていたが、なにかしらの救済策が欲しくてすがった父もこちら側の人だったようだ。
腹をくくろうと、浩太郎はパチン、と両頬を叩いて、開いたエレベーターから力を込めて一歩を踏み出した。
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