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Hello, fine days
Hello,fine days<5>
処置室の簡易ベッドに横たわる茗の腕に繋がる細いチューブを目でおいながら、何度めになるのか分からないため息をつく。

夏場は脱水を起こしやすいので、こまめな水分補給を心掛けてください。と言われ、なんだ…とこぼした僕に脱水を甘くみてはいけません!と看護師が目をつり上げた。
安らかな寝息をたてる彼女の枕元でこんこんと続く叱咤に僕は頭を下げて閉口するしかなかった。


そうして自販機の立ち並ぶ売店前で携帯電話を取り出す。やっとのこと耳の痛いお小言を聞き終えてやっと来られたのだ、いらっしゃいと明るい売店のおばさんが女神に見えた。

電源を切っていた間に不在着信が二件入っていた。ひとつは母でもうひとつは茗のマネージャー川崎から。母からの留守電には僕を心配する言葉しか記録されてなかったが、おそらくそこまで気が回らないと考えて川崎に連絡してくれたのだろう。

大正解だよ、母さん。
見事な首尾の良さにがっくりと肩を落とす。今の今までマネージャーのマの字すら浮かばなかった。それは茗を預かる身としてどうなんだ。

母は川崎の連絡先など当然知らないから、父を経由したに違いない。
父からの着信が無いのは幸いだけど、僕の醜態はまるっと筒抜けだ。

なんと滑稽な……。

未熟な羞恥に居心地悪く落とした視線の先にリダイヤルの履歴に残る三桁がちらつく。慌てて電話を掛けた救急に少し声を荒げてしまったことを思い出した。受け手のアナウンスがあまりにも冷静で淡々としていて、何をのんきなと頭に血が昇ったのだ。
気が動転している人間に対して最善の対応だったのに、と今頃自己嫌悪に陥る。よく見かける、ドラマの中で取り乱す名もない役を演じる役者は誇張しているようで、実はとても写実的な芝居をしていたのか。

冷静に考えると輪をかけて恥ずかしい。こんなに取りみだすなんていつ以来だろう。

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