DMC4 短編
家族の温もり、想い《前編》
家族の温もり、想い ネロ+All
ガキの頃、何故自分には両親が居ないのかとずっと悩んでいた。
初めは“きっと一時的でその内迎えに来てくれる”とか“きっとやむを得ない事情があったんだ”とかと勝手に自分で自分に言い訳してた。
でも歳を重ねていく内に色々な事を覚え初めて。
現実(リアル)をしっかりと見れる様になった頃には、ガキの頃無意識に考えない様にしていた答えを遂に胸に秘めてしまっていた。
『俺は捨てられた。用済み、いらない子・・・』
しかしもうその頃には両親が居ないということを特に気にしては居なかった。気にしても両親が現れるワケでも無いし興味も無かった。
俺にはキリエも居るしクレドも居た。だから特に寂しかったワケでも無い。親から受けた訳では無いこの“ネロ”という名前も気に入っている。
だからこの日まで家族についてこんなにも真剣に考えた事は無かった。
普段と同じ様に下に降りると目が点になった。
ダンテーズとバージルは既に一階に降りていて朝食も2様によって既に出来上がっていたのだ。
いち早くネロに気づいた2様が“おはよう”と何時も通りのトーンで顔で告げてくる。
少し若干たじろいで慌ててそれに返す。洗顔を済ませて椅子に着いた時幾つか普段と違うことに気がついた。―――それは。
ダンテーズの表情が固く。口数が少ないこと。そして皆、喪服の様な黒い服に身を包んでいたことだ。
今日何かある日だっけ・・・?とカレンダーに目をやった所で2様が席に着き朝食を食べ始めた。
何処か居心地の悪さを感じながらもそもそとホットケーキを食す。
因みにホットケーキと言ってもオヤツなどに食べる様な甘くメープルシロップなどを掛けるホットケーキではない。
ハムやレタスなどを挟んだタイプのモノだ。
チラリと目の前で同じくホットケーキを食べる若を見る。普段は半裸なのに今はワインレッドのワイシャツに黒いジャケットとスーツを着ていて(本人には失礼だが)らしくないビシッとした服装で、ついガン見してしまった。
ネロは口に含んだモノを飲み込んで横で同じく食事をしているおっさまの耳に唇を寄せて小声で話しかけた。
「なぁ・・・今日って何かあったっけ?」
「ん。あぁ、坊やにはまだ言って無かったな。今日は命日なんだよ」
質問におっさまが笑顔で答えてくれた。
でもやっぱりその笑顔は悲しげで。ネロは“命日・・・?”と聞き返すとおっさまではなく2様が教えてくれた。
その答えにネロは目を見開いた。
「エヴァ・・・俺たち“ダンテ”の母親の命日だ」
††††††††
空は広く澄んでいた。
雲はゆっくりと進み、何処か心地よさをも感じる温度の風。深呼吸をしたくなる様な、そんな朝。
ネロはダンテ初代達の墓参りに着いていく事にした。初代達にも許可をとって。
おっさまから以前にエヴァさんのことは聞いていた。写真も見た事がある。
金髪ですごく美しい人。写真からもその人が持つ包容力・・・というのだろうか?それが伝わって来て。微笑んだ顔にこちらまでも笑顔になってしまう。
おっさまの相棒、トリッシュという人はそのエヴァさんに似ていて驚いたことがある。
一度おっさまに聞いてみた。
『エヴァさんは今何してるんだ?』と。その時は何も考えていなかった。その時はまだ知らなかったし。
デスクにあるエヴァさんの写真を見ている時、おっさまの顔は今までに無い程に穏やかで優しくて。きっと大好きなんだろうなと思った時、だったら会いに行けばいいじゃないかと思っての言葉だった。
するとおっさまは悲しげに微笑んで。
「何してるかねー・・・親父と幸せに笑っていればいいが・・・な」
エヴァさんはまだおっさまとバージルがまだ幼い頃。アミュレットを残してムンドゥスという悪魔に殺された。
母親の冷たい死体。真っ赤な血だまり。取り残された幼い子供。
それを見てしまった二人の心はズタズタに酷く傷ついただろう。
何年・・・何十年と時を、歳を重ねても忘れることなど出来ない過去だ、と。おっさまは俺に語ってくれた。
――――あの時、俺は何度もおっさまに謝った。そして泣いた。
その時は“何で坊やが泣くんだ?”と苦笑されてしまった。でも悲しかった。自分のことでもないのに。
まるで・・・自分の中の何かが、魂そのものが悲しんでいるかの様に。
「ネロ、何をしている。行くぞ」
「ぁ・・・ああ。」
こうして凛としているバージルでさえもそんな過去を持っているだなんて予想出来る訳が無い。
若やおっさまはあんなにも元気なのに。初代も2様もあんなに・・・。
―――皆、俺なんかよりも・・・強い。
††††††††††††
エヴァさんのお墓は案外近くにあった。
事務所から徒歩で大体20分程の距離にある大きな墓地の中に。『EVA』と書かれた白い墓石が立っていた。
墓地は綺麗な緑に囲まれた所だった。あんな荒んだスラム街の近くにこんな所があるなんて知らなかった。
その墓石に一人ずつ祈りを捧げる。
若は墓前にしゃがみこみ手を合わせる。しばらくして上げた目にはうっすら涙が滲んでいた。
2様は用意していた綺麗な花束をそっと添えて手を合わせた。
初代は何も言わず手を合わせて微笑む。おっさまはそっと・・・墓石を撫でていた。
バージルは手を合わせて5分くらいそのままでいた。一体何を思っているのだろうか。
皆の墓参りが終わり後ろでその過程を見ていたネロの肩を2様が軽く叩いた。
“え・・・?”と顔を上げると。
「ネロ、お前も挨拶していけ」
「い、いいのか?」
ふわりと微笑む2様の顔を見る。
そう問うと初代や若が頷いてくれた。ネロはそっと墓前まで歩いて行って、目を閉じて手を合わせた。
はじめまして、とか俺はこんな人間ですとか。一通り話し終えた時右腕が疼いた途端。
脳内にイメージが流れ込んできた。
「ばーじる、手をつなごう!」
「いいよ。だんて、離しちゃダメだよ?」
「あらまぁ・・・仲良しね。ダンテ、バージル」
「良い事だ・・・」
小さい子供が居て。その一人が赤のTシャツを着ていて。もう片方は青いTシャツを着ていた。
どうやら双子の様で顔がそっくり。楽しそうに手を繋いで歩いている。
その双子を包み込む様に挟んで歩くのは銀髪の凛々しく優しそうな男性。そして、エヴァさん。
家族って・・・こういうものなのか。温かくて、優しい・・・。
―――俺には無いモノ。
「ネロ・・・?」
「・・・へ?」
ポンと肩を叩かれて気が付くと初代が心配そうにこちらを見ていた。
どうやら幻覚・・・のようなものを見ていた様だ。・・・一体誰が何の為に?
多分エヴァさんが見せてくれたもの・・・。ダンテとバージルの姿。そして英雄スパーダ。
何故よりによって俺に・・・?そしてあの右腕の疼きは一体?
墓参りを終えた序でに買い物を済ませることにした。
初代達に告げるとおっさまが“暇だから付き合う”と珍しく付いてきた。“早く帰ってこいよ”とだけ言い残しその他は事務所に先に戻った。
ある程度の買い物を終えて二人でひとつずつ食料などが入った紙袋を抱えて事務所に向かう途中。
「わっ」
「うぉ・・・?!」
ぼんやりと歩きながら夕飯何にしようかな、とか考えていたらケツに衝撃。
思わず前に倒れそうになって慌てて踏みとどまる。
何だ何だと後ろを向くと、子供が居た。ぶつかった拍子に地面に尻餅を付いた状態のままこちらを凝視している。
俺の顔に何か付いてるか・・・?
「・・・大丈夫か?ケガは?」
「え・・・。あ、ううん。大丈夫。・・・ごめんなさい、よそ見してました」
このまま無視など出来るワケがないので子供の正面にしゃがんで右手を差し出した。咄嗟にそっちを差し出してしまいマズイとは思ったが今更なので気にせずに。
すると子供はハッとして丁寧な口調で詫びると怖がりもせずに手を取って立ち上がった。
立ち上がった所で母親らしき人が慌てて走って来た。
「すっ、すいません。ウチの子が・・・」
「いや。何とも無いんで。・・・気をつけろよ?」
「うん。」
ペコペコと頭を下げてくるのでバツが悪い。そう答えると2人は去って行った。
手を繋いで母親が“もう・・・気をつけるのよ?”と子供に優しく注意する母親の声がした。
「またまた綺麗な母ちゃんだな〜」
「Fool。なに言ってんだ変態」
おっさまがへへっと笑っておちゃらけて見せた。
それにため息混じりに告げた時こんな会話が聞こえてきた。
「でもね、母さん。あのお兄ちゃん綺麗だったよ!かっこよかった!」
「んう”!?///」
子供というのは、声がデカイ。
話す声も、叫ぶ声も悪口も。なにもかも。
つい反応してしまい、横のおっさんが大きく笑い出す。
「はっは!綺麗でかっこいいってさ、よかったな坊や〜♪」
「・・・う、うるさい・・・」
その子供の言葉に「そうだったねー。貴方もああなるかしらー(*´∀`*)」と答える母親の声も聞こえてきてますます恥ずかしくなる。
それをニヨニヨしながら見るおっさまに(照れ隠しに)デビルブリンガーを食らわせるのだった。
胸がざわついて仕方がなかった。
理由は全くわからない。でも右腕がシクシクと疼くんだ。
『気をつけろ』と己に忠告するかのように。
そして何故だかわからない。何故かあの親子が頭から離れなかった。
後編へ続く。
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