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東方僧侶録
鬼狩りと陰陽師
私が旅に出て数百年経ち、平安時代になった。

私は今、ある武家の家で厄介に・・・というか、義理の息子として暮らしている。

その武家とは・・・

「頼光様、ご武運を」

「うむ。では、行こうではないか・・・鬼退治にな」

まだ衰退していない源氏である。

そこで私は源頼光として暮らしている。

それは何故か?



それは今から遡る事20年前、平安京に向かう道中で妖怪に襲われていた源満仲殿を助け、それが縁で長い付き合いになり10年前に「養子になってくれないか?」と切り出された。

当然私は断ったが、「息子達では、とてもじゃないが任せられない。しかし貴殿には一族を率いる器と能力が有る」と押し切られ、渋々承諾する事になったのだ。

その満仲殿も先日亡くなられ、私は源氏の棟梁となった

他所者である私が後継ぎになれば、争いが起きるかと思われたが、何故かそんな事は無く平然と受け入れられた。

どうやら僅かに漏れていた神力が原因の様だ。

そして源頼光となった際に、私は拳による攻撃を自ら封じ、代わりに刀や弓矢を使う様になった。

理由は侍が刀も使わずに、拳で戦うのはおかしいと思ったからだ。

霊力、法力、神力は出来るだけ抑えているが、必要な時には使うようにしている。

それに伴い、口調も変えた。

平安時代に居るのだ・・・口調も変えんと、怪しまれるからな。

後、ここ数年の内に急に髪が生え始めたので、頭上一髻にした。(ついでに髭も生えた。)


三国志と言い、今の立場と言い・・・何だか、史実とかなり違いが有るんだが。

・・・いや、気にしたところで何が変わる訳でもないか。



私は今大江山に向かっている。

目的は大江山に居る鬼の討伐だ。

史実ではいくらかの兵を率いて討伐に向かっていたが、私は一人で討伐に向かっている。

本当は兵を率いるはずだったが、それを私が断ったのだ。

一人で行った方が良い鍛錬になるしな。

因みに今私が着ているのは、法衣ではなく黒糸威の大鎧だが兜は被らずに鳥帽子を被り、武器は背中に背負った白鳳荘大弓と安綱と言う太刀である。




2時間程経ち、大江山に到着すると、私は山を登り始める。

山頂近くまで登ると御殿が有り、その周りを塀が囲み見張りの鬼が巡回していた。

そして御殿の中からは騒ぎ声が聞こえる・・・恐らく宴会でもしてるのだろう。

「ふむ・・・見張りが居るな。鬼は生来、無知で浅慮の筈であるが」

取り敢えず見張りを潰すとするか。

私は背中に背負っていた白鳳荘大弓を持つと、見張りの鬼に向かって構える。

ギリリ・・・

「我が弓の冴え、その身で味わうが良い」

バシュッ

放たれた矢は真っ直ぐに鬼の眉間を射抜き、射抜かれた鬼は塀の中に落ちていった。

そしてすぐに塀の中に居た鬼達が外に出てくる。

「およそ百匹と言うた所か。まだ中にも居るであろうから、疾く片付けるとしようぞ」

私は再び弓を引き絞り、鬼に向かって放つ・・・




1時間後、御殿の中では相も変わらず宴会を続けていた。

「いや〜やっぱり酒は美味えなぁ!」

「おい、誰か!人間攫ってこい!」

「・・・にしても、外に出た連中遅いな」

「その内帰って来るだろ」

ギイィ・・・

「ほらな?こっち来いよ、飲もうぜ!」

「・・・」

しかし声を掛けられた鬼は反応を示さない。

よく見るとその身体は傷だらけで、左腕が切り落とされていた。

「おい、どうしたんだよ!?」

「逃げ・・・ろ・・・」

「は?」

ヒュッ

ズブッ!

「がっ・・・!」

「余計な事を言うでない。手間が増えるではないか」

何かを伝えようとした鬼の胸を、後ろから謎の男が太刀で貫いた。

ズッ・・・

「ぐっ!!」

ヒュッ

ザン!!

男は太刀を胸から引き抜くと、痛みのあまり膝を突く鬼の首を切り落とした。

「テメェ何者だ!?こんな事して、どうなるか分かってるだろうな!!」

「鬼共よ、聞くが良い。我が名は源頼光。貴様らを討伐する為に、都から参った」

「一人でか?巫山戯やがって!!」

「やっちまえ!!」

仲間を殺された鬼達は、頼光に襲い掛かる・・・




そして2時間程経ち、立っているのは頼光と小柄な鬼だけになっていた。

他の鬼達は頼光の圧倒的な強さに敗北し、物言わぬ骸となっていたのだ。

「うぬで最後よ」

「ひっ!」

「ん?その身なり・・・そうか、うぬが酒呑童子か。この様な女童が鬼共を率いておったとはな」

チャキッ

「うぬの首を持ち帰れば、大手柄よ。疾く逝くが良い」

「い・・・嫌だ!まだ死にたくない!!」

「なれば・・・うぬはそれを聞き入れたか!?その姿を見て笑い、喰ろうたのであろう!!」

「それは・・・」

「所詮妖は、我等人に害を成す存在でしかないのだ!!さあ・・・うぬも仲間の後を追うが良い!!」

ヒュッ!

「っ!!」

酒呑童子は眼を瞑ったが、いつまで経っても痛みが走らない。

「・・・辞めじゃ。鬼とはいえ、童を斬るのは寝覚めが悪い」

パチン

「こ度は見逃してやる。だが・・・再び悪事を働けば、その細首が胴から離れると思え!!」

そう言うと頼光は近く転がっている鬼の死体の首を切り落とし、立ち去って行った。

残された酒呑童子は、刻み込まれた頼光に対する恐怖に体を震わせ、涙を流し続けていた・・・




「・・・ううむ」

私が都に戻り鬼を討伐した事を帝に伝えると、帝は大いに喜ばれ正三位左近衛大将を任官してくださった。

・・・酒呑童子が死んでいない事が、気付かれなければ良いが・・・



そして数日が過ぎ、私が殿上人として帝に挨拶をして帰る途中、何やら言い争いの声が聞こえた。

「お主、何を企んでおる!?」

「何の事ですか?言いがかりは程々にして頂きたいな、道満殿」

「しらを切るつもりか!儂がお主がやっている事を知らんと思っておるのか!!」

此処で喧嘩はいかんな・・・

「うぬ等、此処は帝が住む神聖な場所・・・喧嘩など止さぬか」

「・・・貴殿は?」

「我は正三位大将源頼光。帝をお守りする武官の長ぞ」

「これは失礼を。私は蘆屋道満と申します」

なんと・・・こんな所で、有名な陰陽師と出会うとは。

「・・・」

「おお、晴明も居ったのか」

道満殿と言い争いをしていた陰陽師・・・安倍晴明は、私の邸宅と一条戻橋を挟んで向かい合う場所に居を構えている為、接点も多く幾度か妖怪退治で共闘した事も有る。

「いかなる遺恨が有るかは知らぬが・・・この禁裏での揉め事は決して許さぬ。良いな?」

「・・・分かりました」

「私は元より争うつもりは無かったのですがね。それでは失礼します」

「晴明、しばし待て。うぬから妖気を感じるのだが、これは何故か?」

「・・・!!」

「返答次第では、うぬを切って捨てねばならぬ。さあ・・・答えられい」

「・・・頼光様の勘違いでは?」

「うぬは我を愚弄するか?この頼光、妄禄などはまだまだせぬわ」

「・・・失礼します」

「晴明!」

・・・逃げる様に去って行ったな。

その行為は、何かを隠していると言っているような物ではないか。

「頼光様・・・あやつめは、裏で妖と繋がっているという噂が有るのです」

「・・・それは真か?真なれば、放ってはおけぬぞ」

「私も探っているのですが、中々尻尾を出さんのです」

「・・・成程、相分かった。晴明めの周りに、我が選別した者を解き放とうぞ。何かボロを出すやもしれぬ」

「有難い。では、この事は内密に・・・」

道満殿は頭を下げると去っていった。

何か・・・悪い予感がするな。

現実にならなければ良いが・・・

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あきゅろす。
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