東方僧侶録
赤壁の戦い
私が禍津日神からこの村を開放してから、100年程経った。
この100年間を、私は神力の鍛錬と村人の育成に当てた。
まあ、神力は数年で自在に操る事が出来る様になったが。
どうやら素養が有った様だ。
そして残りの時間の全てを村人達の育成に当てた。
この村の者達は才能に溢れており、私の教えた事をすぐにやってのけた。
そして100年経った今では、彼等の孫や曾孫が私に教えを請いに来ている。
こうして成長を見るのは、やはり良い物だな・・・
「救世神様」
「ん・・・佐保姫か」
彼女の名は佐保姫。
春の女神で、私付きの巫女の様な立場に居る。
彼女は今から20年前にこの村に生まれた神で、美しい容姿をしている。
その容姿に違わず、可憐で儚い雰囲気を持つが、曲がりなりにも神・・・しかも季節を司る神なので、強さは折り紙つきだ。
「何か御用ですか?」
「少し村を留守にする。留守中の事は頼むぞ」
「どちらにお出かけになるのですか?」
「大陸で大きな戦が有る様でな。少し観てくる」
「分かりました。留守中の事は御任せ下さい」
私は佐保姫に後を頼むと、そのまま飛び立って行った。
「此処が赤壁か」
数日後、私は目的地である赤壁にたどり着いた。
凄まじい数の船が浮かんでいる・・・
見たところ、まだ始まってはいない様だな。
どれ・・・気配を消して、まずは魏の本陣に忍び込むとするか・・・
(・・・ふむ)
何かがおかしい。
何故こうも女子が多いのだ?
と言うよりも・・・
(女子が軍を率いているのか?)
私がそう考えながら奥に進むと、複数人の女子が居た。
(予想が当たった様だな)
一人の兵士が、中央に居る小柄な女子に向かって「曹操様」と呼んでいた所を見ると・・・
・・・どうやら、あれが曹操の様だ。
「まさか・・・かの曹操が女子であったとはな」
「誰だ!!」
いかん・・・口が滑った。
もう気配を消す意味が無くなったな。
「そう殺気立つな・・・私はお前達と戦うつもりは無い」
「「なっ!?」」
「・・・へえ」
流石は曹操・・・驚かんとは。
「貴様っ、どうやって入ってきた!?」
「落ち着け。短気は損気と「ええい、訳の分からぬ事を!叩き切ってくれる!!」・・・やれやれ」
ブン!
パシッ
「何っ!?」
「人の話は・・・最後まで聞くものだと教えられなかったか?」
トン
「ぐっ・・・」
「姉者!?」
「安心しろ、気絶しているだけだ」
元より殺すつもりは無い。
「くっ!!」
「秋蘭、止めなさい」
「華琳様!?」
「貴方じゃあの男は殺せないわ」
「賢明な判断だ」
「それで、何の用かしら?」
「お前は・・・覇道を極めてどうする?」
「愚問ね。解りきった事でしょ?」
「力で治めたとしても、長くは続かんぞ」
「民は強い王に付き従う物よ。これからもずっとね」
やはり、強い意思と力を持っているな。
だが・・・三国を治めるべきでは無いな。
「・・・やはり、お前にはこの国を任せられん。私はこれで去らせてもらう」
「待ちなさい。ここまで好き勝手やった挙句、私を罵倒するんなんて・・・ただで済むとは思っていないでしょうね?」
「・・・よせ、無駄な犠牲は出したくない」
「なら、大人しく殺される事ね」
「断わる」
フッ・・・
気配を消せば、殺す事は出来んだろう。
まあ、私は不死だが。
兵達が混乱している内に連合側の本陣に移動させてもらおう。
(ううむ・・・)
やはり此方も女子ばかりか。
男には、なんとも肩身の狭い状態だな。
・・・?女子に紛れて、一人だけ男が居るな。
それにあの格好は、学生服か?
・・・少し声を掛けてみるか。
『・・・英傑達よ』
「「「!?」」」
今回は姿を現さない。
また切り掛られるのは御免だからな。
『我が名は救世神。汝らの中で、最も位の高い者は誰だ?』
「救世神って・・・」
「確か・・・弱き者を助け、悪を滅ぼすっていう神様です!」
・・・どういう伝わり方をしてるんだ?
『どうした?名乗り出んのか?』
「お、俺です!」
ふむ・・・意外だな。
てっきり、誰かの補佐かと思ったが。
因みに、私は口調を変えて話している。
一応は神だからな。
『名は何と言う?』
「北郷一刀です!」
『問おう。汝は、この乱世をどう変えたい?』
「俺は・・・みんなが、笑って暮らせる世界にしたいんです!」
『其処に至るまでの道は、険しく遠い。それでも進み続けるか?』
「元より覚悟の上です!!」
うむ・・・この若者になら、良き世界を創れるだろう。
『その覚悟、受け取ったり。我が汝らの戦いを勝利に導こう』
と言っても、助言程度だがな。
それでも神が味方したとなれば、士気は大きく向上するはずだ。
『汝らに我が必勝の策を授ける。目の前に広がる船団に対し、火責めを行うが良い』
「ひ、火責めですか?」
『然り。その炎は、悪しき者達を焼き滅ぼすであろう』
「でも風が・・・」
『その問題は無い。汝は気兼ねなく戦うがよい』
風を変える位は造作もない事だ。
「分かりました・・・みんな、行こう!!」
さて・・・手並み拝見と行こう。
戦いが始まってから、2時間ほど経ち、戦況は魏に傾き初めていた。
・・・頃合だな。
『むん!』
私が神力を使い風向きを変えると、魏の船団に火が放たれみるみる内に広がっていった。
これで連合の勝利が確定したな。
最早私は必要あるまい・・・帰るとしよう。
若者よ・・・その信念を曲げずに進み続けるのだぞ・・・
その後、乱世を平定した北郷一刀は、晩年『救世神の力が無ければ、こうして私は三国を治めてはいなかっただろう』と語り、後世に残すために赤壁の戦いを描かせたと言う・・・
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