フェイトステイナイト〜verアイス 黒き巨人、理想の行方 「ン〜・・・結構待ったぜぇ」 「おお・・・陛下!今日もなんと麗しい!これも神の思し召しでありましょう!!」 「ジャックス、ヴラド・・・お迎えご苦労様。っていうかその妙ちくりんな信仰は変わってないわね〜ヴラド」 チルノが教会を出ると、赤いマントと鎧に身を包んだ金髪リーゼントと割れ顎が特徴の男と、足元近くまである長いマント真紅のマントを身に纏い、ボサボサの白髪を背中辺りまで伸ばした黒い鎧の騎士が待っていた。 金髪リーゼントの男の名はジャックス・・・騎士達の中で恐らく一番戦闘力が高い騎士である。 そしてボサボサの白髪を背中辺りまで伸ばした男の名はヴラド・・・ジャックスと同等の戦闘力を持ち、チルノに並々ならぬ忠誠心を持つ信仰厚き騎士で、ジャックスの相棒である。 「皆はもう帰ったの?」 「近くで戦闘中だ。凄いのが出張ってるぜ?」 「何と不徳な!その不徳、自らの血で贖わせねばならん!!」 「落ち着きなさいな・・・私も感じたわ。これ、神族じゃない?こんなのを使い魔みたいに使役していたら、自滅するわよ?」 「ン〜多分、人造人間(ホムンクルス)だろ。只の人間が神族を操れる訳ない」 「でしょうね。取り敢えず、援護に向かうわよ」 「■■■■■――――!!」 ゴガァン!! 「っ〜!なんてパワーしてるのよ!?」 「当たれば終わりですね・・・!」 「あの肉体・・・なまなかな攻撃は効かんぞ!」 「くそっ!!」 チルノを置いて先に帰途に就いていた士郎達は、サーヴァント『バーサーカー』とそのマスターとの戦闘になっていた。 ガシャッ 『下がれ。我等が相手をしよう』 『陛下の命は厳守せねばならんからな』 『厄介なものよ・・・』 『堕ちし神の子よ・・・理性を失ったか。哀れなり』 『弓兵、援護せよ。騎士姫、子供らを守れ。こ奴は我等が討ち取ろう』 「「分か(りました)った」」 「ちょっと待ってよ!私も手伝うわ!」 『好きせよ。しかし、無理はするな。死んでは元も子もない』 ゲオルグと騎士達は、士郎と凛には荷が重いと直ぐ様判断し、二人を守るように立ち塞がる。 ・・・負けん気の強い凛は、気遣いを無視して前に出たが。 「・・・貴方達、サーヴァント?」 『我等は剣。主に刃を向ける者を切り捨てる剣だ』 「よく分からないけど、邪魔をするなら・・・やっちゃえ!」 「■■■■■――――!!!」 ブオン! 『来るぞ!散れ!!』 バッ! ズウゥン! 『突撃!』 『『『『『えやああぁぁ!!!』』』』 バーサーカーの攻撃を散開して回避すると、騎士達は咆哮を上げて肉薄していく。 「行くわよアーチャー!Vier Stil Erschieung!」 ドンドンドン!! ギリッ・・・ 「ああ・・・行けっ!!」 バシュシュシュッ! キンキンキン! 「■■――!」 「そんなの、バーサーカーには効かない!」 「くっ、やはり効かんか・・・!」 「あの宝石高かったのに〜!」 『元より手傷を負わせられるとは思っておらん!やれ!』 『『シャアァ!!』』 ザゴン!! 「■■■―――!?」 『両腕を切り落とせば何もできまい!』 『『でやあぁ!!』』 ドスドスッ!! 「■■■―――!!?」 『そして・・・』 ジャギン!! 『これで終わりだ』 ゲオルグと騎士達は凛とアーチャーの援護を受けながら接近し、両腕を切り落とし剣で突き刺し一刀両断するという、見事な連携を見せた。 元々騎士達は一体一体がサーヴァントに匹敵する能力を持っているが、その半数(この場で戦っている騎士達がそれに当たる。ゲオルグは名の知れた英雄なので除外)は単独では大英傑や神族には太刀打ち出来ない。 それを補う為に連携に磨きをかけ、神族にも対抗出来るようになったのだ。 「凄い・・・」 「見事な連携です。彼等は戦いを熟知している」 「あの見た目は伊達ではないという事だな」 「これが・・・騎士の戦いか」 離れた場所で連携を見ていた者達は、一様に称賛を送る。 それ程までに見事な連携だったのだ。 「・・・へぇ〜。凄いね、バーサーカーを倒しちゃった」 『家に帰りなさい。子供を手に掛ける程愚かではない』 「アハハッ、何言ってるの?バーサーカーは・・・」 ググッ・・・ 「まだ死んでないよ!」 「■■■■■■■■■■――――――――!!!!」 ブゥン!! ガシャアン!! 『『『『ぐわっ!!』』』』 バーサーカーのマスター・・・イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの言葉が号令となり、凄まじい音量と共に倒したはずのバーサーカーが動き出し、いつの間にか再生した丸太の様に太い腕でゲオルグ以外の騎士弾き飛ばされる。 『不死か・・・厄介な!』 「不死とかじゃなくて・・・う〜ん、やっぱり止めた!ヒントは無し!」 『たとえ不死であろうが、細切れにすれば再生には時間が掛かる筈だ!』 タンッ 「バーサーカー!」 「■■■■■―――!」 ブン!ブン!ブン!ブン!ブン! 『なんと大振りな・・・』 ギャリイィン!キィン!ガギン!バチィ! 『いなす事は容易い!そして・・・むぅん!』 ギャン! 「■■■―――!?」 『覚えておけ!お前の放った大振りな剣戟が、お前を殺すのだ!』 ヒュイン!! ガッキイイィン!! 『何!?』 一人となった(実際にはセイバーとアーチャーが残っているが、マスターの安全を最優先にしている)ゲオルグは自らバーサーカーの攻撃範囲に入り、暴風の如く襲い来るバーサーカーの剣戟を全ていなし隙が出来たらそこを崩し、仕留めるという戦法に出た。 途中まではそれは上手く行き、ゲオルグはバーサーカーの斬撃の全てを完全にいなすという神業的な芸当をやってのける。 その姿は、まさに英雄と言っても何ら謙遜していなかった。 斬撃を防ぎ続けていると一際大振りな斬撃を繰り出し、ゲオルグは全力でバーサーカーの斬撃を弾きそのまま首を刎飛ばしに掛かるが・・・ 此処で予想外の事態が発生する。 先程まで効いていた筈のゲオルグの剣が効かないのだ。 「凄いのね、騎士のおじ様。たった一人でバーサーカーと打ち合って、しかもカウンターを出来るなんてね。でも残念だったね・・・バーサーカーは『一度殺した攻撃で再び殺される事は無いんだ』」 『何と・・・知っておれば別の手段を取っていたものを!』 「おじ様とはこういう形以外で会いたかったなぁ・・・バイバイ」 「■■■■■―――!!」 ブオン! 『クッ・・・』 チャキッ・・・ バギイィン!! 『ぬおおぉぉッ!?』 ズザザザザザッ!! イリヤの別れの言葉と共に、バーサーカーは強烈な斬撃を放つ。 ゲオルグは咄嗟に防御するも、大きく吹き飛び士郎達が居る所まで吹き飛ばされる。 「ゲオルグ卿!!」 『騎士姫・・・すまぬ。仕留め損なった』 「いいえ・・・十分です。後は任せて下さい」 「少しでも情報が掴めれば、対策の取りようが有るしね!」 「一度に複数回殺す攻撃をすれば、関係あるまい!」 「・・・何が出来るか分からないけど、俺も手伝うぞ!」 「■■■■■―――!!」 ズンッ!! ゲオルグを弾き飛ばしたバーサーカーは、そのまま突っ込んでくる。 士郎達はそれを迎え撃つために身構える。 「うん、気合入ってるじゃないシロ君。後は任せて」 ギャイン! 「・・・え?」 メリッ・・・ パァン!! 「■■■■■■■■■■――――――――!???」 ヒューン・・・ ゴシャアァ!! しかし、後少しで攻撃が届く範囲に入るという所で、何かが士郎の横を高速で通っていき、バーサーカーの顔面に拳を叩き込む。 拳を叩き込まれたバーサーカーは堪らず吹き飛び、イリヤの目の前に転がるがすぐに立ち上がる。 「あら・・・見た目よりも軽いのねぇ。結構吹っ飛んだわ」 バーサーカーを殴り飛ばしたのはチルノだった。 「チルノ!?」 「遅くなってごめんね〜!遅れた分キッチリ働くからそこで見てて!」 『陛下・・・申し訳ありません。力及ばず・・・』 「良いのよ。シロ君達をちゃんと守ってくれたんだから・・・」 『・・・はっ』 「ン〜、俺達も居るんだが」 「我等の存在が霞むほど、陛下の御威光が輝かれているのだ!おお・・・主よ!陛下に仇名す者を屠る力をこの私めにお与え下さい!」 「あ〜・・・盛り上がってるところ悪いんだけど、私一人で相手するから。もし私を無視してそっちに向かったら好きに料理していいわよ」 「ン〜、残念だねぇ」 「構わぬ!それが陛下の御命令ならば!!」 「・・・何、貴方?」 バーサーカーが殴り飛ばされ、暫く放心状態に陥っていたイリヤだったが、正気を取り戻し何者かと問い掛ける。 「私?チルノ・トレバー・・・妖精で魔法使いよ。あ、後サーヴァント(実際は違うけど)ね」 「ッ!?」 「?どうかしたの?」 「知らない・・・貴方なんて知らない!私が知らないサーヴァントなんて・・・居ちゃいけないんだからぁ!!」 チルノがわざとサーヴァントだと言うと、イリヤは激しく取り乱し始めた。 何か癪に触ったようだ。 「バーサーカー・・・やっちゃえええぇぇ!!」 「■■■■■■■――――――!!!」 ドン! ブン! ゴシャア!! 金切り声と言ってもいい叫びを上げたイリヤの言葉に応じ、バーサーカーはチルノに向かって飛びそのまま剣を振り下ろす。 ミシッ・・・ 「いきなり切り掛ってくるなんて・・・礼儀がなってないんじゃないの?」 が、チルノは傷一つ負っていない。 重厚な岩剣を片腕で防いでいるににも関わらず、表情一つ変えていないのだ。 「こんなのズィロに踏み潰された時に比べれば痛くも痒くもないのよね〜。んじゃま・・・よっと!」 グンッ 「■■■―――!?」 「そこそこで行くわよ〜」 ヒャガッ!ドゴッ!メキャッ!グシャッ! 「そぉ・・・らっ!」 ズドン!! 「■■――!!」 「おっと!まだ終わりじゃないわよ!」 タン! ガシッ! 「これで・・・!」 グシャアアァッ!! 「終わりよ!」 ヴン! キュイイィ・・・ ドウ!! チルノはバーサーカーの岩剣を容易く弾き、一撃一撃が必殺に匹敵するラッシュを叩き込んだ後、顎に強 烈なパンチを打ち込んだ。 その衝撃はかなりの物で、巨大なバーサーカーの身体が宙に浮く。 チルノは軽く飛び、両腿でバーサーカー首を挟み込み頭を地面に叩きつけるという、男なら確実に羨ましいと思うであろう攻撃を行ない、止めにゼロ距離で魔法を撃ち込んだ。 ・・・オーバーキルとも言えるこの攻撃により、バーサーカーは一瞬で絶命する。 「そんな・・・バーサーカーがこんな簡単に」 「・・・何か驚くほどあっさり倒せたわね〜・・・神族なら、もっと手こずると思ってたんだけど」 「ま、まだ終わってない!バーサーカー!」 ボコッ! 「■■――!」 「あら?確かに倒したと思ったんだけど・・・ああ、成程。貴方、ヘラクレスね?12の試練を成し遂げたギリシア神話屈指の英雄・・・まさかこんな奴を使い魔にするなんてねぇ。案外12の試練に因んで12殺さないと倒せないとかでしょ?・・・ってか、ヘラクレスなら弓持たせた方が良いんじゃない?」 「なっ・・・私は何も情報を教えてないんだよ!?」 「いや、見た目で分かるわよ?そんな格好してる英雄なんて神代にしか居ないだろうし。後は・・・ま、勘ね」 「勘って・・・そんなの認められる訳ないじゃない!!」 殺した筈のバーサーカーが蘇ったのを見たチルノは少し考え、バーサーカーの正体がヘラクレスだと断言する。 しかもそれは勘による物だと言うのだ。 到底認められず、激しく取り乱す。 「神族にはこれよね〜・・・メビウスチェーン!」 ジャラララ・・・ ガシッ! 「■■――!?」 チルノの言葉と共に左右に魔方陣が現れ、蒼色の鎖が飛び出しバーサーカーを拘束した。 「無詠唱での高等魔術の行使ですって1?」 「これは魔法よ。このメビウスチェーンは、神性が高い相手ほど制約・拘束力が高まるの。貴方レベルになるとまともに動けないんじゃない?」 ギリギリ・・・ 「■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――!!」 ガシャ、ガシャ! 「動けば動くほど締め付けるわよ。だから暴れるのは止めなさい」 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――――――――――――!!!」 ガシャ、ガシャ、ガシャ!! 「もう・・・悪い子ね。大人しくしていれば痛くしないのに」 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――――――――!!!!」 チルノはメビウスチェーンを引きちぎろうとするバーサーカーを諌めるが、バーサーカーはひたすらに暴れ続ける。 ピシッ・・・ そして、メビウスチェーンにヒビが入り始めた。 「圧倒的ですね・・・」 「ええ・・・」 『あの方は我等の王・・・負ける事などありえぬ』 「彼女ならば・・・或いは」 「え?何か言った?」 「いや、なんでもない」 「暇だねぇ・・・俺達」 「おお・・何と勇ましい!輝いておりますぞ陛下!」 状況は誰が見るより明らかであった。 圧倒的な力で追い詰めるチルノと、反撃する暇無く追い詰められるバーサーカー・・・ このまま見ているだけでもどちらが勝つかは明白だった。 ・・・もっともこのままいけば、だが。 バーサーカーを縛る鎖は、暴れるバーサーカーに耐え切れず少しずつヒビが入り始めている。 このまま行けば鎖はちぎれ、無防備のチルノに襲い掛かるだろうが・・・その事にチルノも、それ以外も気付いていない。 「やばい・・・鎖がちぎれそうだぞ!」 士郎を除いて。 偶然だが、士郎はメビウスチェーンがちぎれかけている気付いていた。 「くそっ!!」 「衛宮君!?」 チルノが気付いていない事に気付いた士郎はチルノの元に走り・・・ 「チルノー!!」 出せる限りの声で叫んだ。 「おおう・・・ど〜したのよシロ君?そんな大きな声出して」 「鎖がちぎれるぞ!!」 「ッ!!」 バギイィン!! 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――――――――!!!!!」 チルノが気付いたと同時に、バーサーカーを拘束していたメビウスチェーンが砕け散る。 「■■■■■■■■■■■■■――――――――――――――!!!」 ブンッ!! 「やるわね・・・坊や!!」 ヴン! キュイイィ・・・ 「チルノッ!!」 ドン! 「あうっ!・・・シロ君!何するの・・・」 「ッ・・・!!」 「――――何で?」 メビウスチェーンを引きちぎったバーサーカーに対し、チルノは即座に手をバーサーカーに向け蒼色の魔方陣を展開するが、志郎に突き飛ばされる。 文句を言おうと顔を上げると目に写ったのは・・・チルノを庇う形で切り裂かれる士郎の姿であった。 「シロ君!!(内臓の大半が駄目になってる!ここまで酷いと治癒魔法でも治せるかどうか・・・)」 チルノは直ぐ様動き、士郎の容体を確認するが、結果は『酷い』の一言に尽きる程で、内臓が路上に散乱するというスプラッタな状態だった。 「もういい、こんなのつまんない。バーサーカー、帰ろう」 士郎がチルノを庇った姿を見て呆然としていたイリヤだったが、やがておもちゃを壊して拗ねてしまった子供の様にふて腐れ、とどめを刺さないまま、バーサーカーを呼び戻し帰っていった。 「シロウ・・・愚かな!」 「衛宮くん! あんた、何考えてるのよ!もう助けてあげる事、出来ないのよっ!?」 「たわけが・・・!」 『馬鹿者め・・・命を粗末にするとは・・・!!』 「ン〜・・・コイツぁやばいぜ。生きてるだけでもめっけもんだな」 「その忠道、見届けたぞ!安心して逝くがいい!!」 「縁起でもねぇ事言うなよ・・・」 「あぁもう・・・うるっさい!治癒魔法は、コントロールを間違ったらヤバイんだから黙ってて!!」 ヴウウゥン・・・ イリヤとバーサーカーが去っていくと離れていた者達が駆け寄り騒ぎ立てる。 チルノはそれを一喝して黙らせ、治癒魔法を掛け始める。 バチッ!! 「いった!?」 「どうしたの!?」 「治癒魔法が全部キャンセルされた上に逆流してきたわ・・・これじゃ治癒魔法を掛けられない!!」 「そんな!?」 「助かる確率は低いけど・・・手術(オペ)するしかないわね!誰か!執刀、或いは助手経験者って居る・・・って居る訳無いわね。こうなったら一人でやるしか・・・」 スウゥゥ・・・ 「な・・・傷が、巻き戻るように治っていく!?そんな事、あり得る筈が・・・」 治癒魔法を掛け始めてすぐ、逆流した魔力がチルノを襲い、弾かれてしまう。 止むお得ず外科的方法で治療しようとした瞬間・・・ 奇跡・・・としか言えない事が起きた。 身体が勝手に治り始めたのだ。 まるで何かの映像でも巻き戻してるように、するすると肉体の再構成が行われ、傷は完全に無くなってしまった。 「治ったのは良いけど・・・何ていうか、そう・・・グロッ!」 「それは私も思ったわ・・・」 「念の為様子を見た方が良いわね。シロ君の家に戻りましょう」 それから1時間程度経ち、何とか衛宮邸に辿り着き、士郎を寝かせると後を凛とセイバーに任せ(騎士達には周辺の警護を任せ)チルノはアーチャーに話が有ると庭に連れ出した。 「話とは?」 「貴方・・・私が魔法使いだって言った時、僅かに反応を示していたわね?この星では魔法使いは秩序と・・・いいえ、世界その物と対峙出来る存在だと友達から聞いたわ。貴方は魔法使いに何か頼み事が有るんじゃないの?」 「何故そう思う?」 「貴方みたいに、震える子犬みたいな感じをした人を何人も見てきたからよ。可能なら手伝ってあげるから、言ってみなさいな」 「・・・お見通しか。確かに私は魔法使いという存在に僅かな望みを抱いている。バーサーカーを圧倒できた君になら、私をこの苦痛から解放してくれるかもしれない・・・君にだけは話そう。私の全てを」 そうしてアーチャーは自分の事を話し始めた。 自分がとある未来の世界の士郎である事、死すべき人々を救うために世界と契約し最期は自分が助けた相手からの裏切りによって命を落とした事、霊長の守護者として世界に命じられるまま拒絶不可能な虐殺に身を投じ続け、その過程で人の暗黒面をまざまざと見せ付けられ、その結果信念は磨耗し尽くし、かつての理想に絶望した事・・・ そして可能性は低いと分かっている上で、士郎を殺しタイムパラドックスを引き起こしてエミヤとぃう存在が消そうとした事を語った。 「・・・歪んでるわね。世界もそうだけど、アーチャー・・・いいえ、シロ君も。全てを救うなんて、神様だって不可能よ」 「・・・ああ、そうだな。分かっていたさ・・・だが、それでも『俺』は!目指したかったんだ!正義の味方を!!」 「馬鹿ね・・・」 フワッ・・・ 「『全て』じゃなくて、『大事な人達を守れる正義の味方』になれば良いのよ。全部自分だけで背負い込まなくても良いの。・・・辛かったわよね?苦しかったわよね?それを全部吐き出しちゃいなさい。此処には、貴方を傷付ける人なんて、誰も居ないんだから」 「そうか・・・そういう事だったのか・・・切嗣(オヤジ)、俺は・・・」 真実を話終え、チルノに真っ向から否定されても尚正義の味方という言葉に縛られているアーチャーを、チルノは優しく抱きしめ、母親が子供をあやす様に語り掛ける。 その言葉はアーチャーの心に染み渡り、アーチャーは涙を流し抱きついたまま声を殺して暫く泣いていた。 「・・・ありがとう。御陰で大分楽なった」 「良いのよ。私が好きでやったんだし」 数分経つと落ち着いたアーチャーは落ち着を取り戻し、チルノから離れる。 「チルノ、単刀直入に聞こう。私を世界から奪い取れるか?」 「・・・無理ね。世界への干渉は可能だけど、抑止力を奪い取るとなると私じゃ不可能ね」 「・・・そう、か」 「落ち込む必要は無いわよ。そっち方面に精通している友達が居るから、彼女に頼めばいいわ」 「本当か!?」 「ホ・ン・ト♪十中八九やってくれるわ。だから・・・絶対に無理はしない事!やられちゃったら元も子もないんだから!」 「そうだな、肝に銘じておくとしよう。・・・ああ、この話は凛達には秘密にしておいてくれないか?混乱させたくない」 「同感ね・・・さて、そろそろ中に入りましょうか?」 「フッ、そうだな」 こうして、話を終えた二人は衛宮邸に入っていく。 ・・・月が綺麗な、夜だった。 [*前へ][次へ#] |