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フェイトステイナイト〜verアイス
復讐する者と宝石製の老人
凛とアーチャーが戦闘を開始する数分前

地球 日本国内冬木市 遠坂邸前

「此処が遠坂邸・・・貧相な屋敷。雰囲気も悪いし手入れも行き届いていないし、先代が死んでから落ち目って噂は本当だったのね。あ〜やっぱりこんな弱小魔術師に頭下げるの嫌だわ〜!」

「遠坂は一応それなりの家の筈だぞ・・・っていうか、お前の実家と比べたら何処でも貧相で弱小だろうが!」

「レイナーズ一族は魔術礼装の売買でとんでもない財産を築いているからなあ・・・確か協会の全資産よりも多かったよな?」

「は?何言ってんのよ。協会の資産の半分は一族が保有・管理してるのよ?残りの半分だって一族からの借金とかだし・・・ま、ハッキリ言えば協会は一族に依存してるし、一族が協会を抜けたら協会は瓦解するわ」

「バルトメロイでは維持しきれないと?随分大きく出たなぁリリアナよ」

「お人形のローレライが次の協会トップなんてのはただの噂よ、う・わ・さ。ご自慢のタロンの大隊を維持する為に一族から借金をして、魔術礼装を買い込む為に更に借金をして・・・最終的に借金で首が回らない連中を一族が容認する筈無いでしょ?次のトップは多分一族の誰かか、エドワーズ家の爺様辺りでしょうね」

「レイナーズ一族からの借金か・・・そういえば一時的にアーチボルト家もしてたな。家を立て直す為に」

「利息無し、期限無し・・・だが返せなかったら根こそぎ物を奪われる、まるで闇金だな」

「自業自得でしょ。そうならなくて良かったわねウェイバー」

「どうも・・・そういえば、エドワーズの爺様と言ったな?もしかして『あの』爺様か?」

「そ、あの爺様よ。情報によれば冬木(ここ)に居るらしいわ」

「厄介な事になりそうだな・・・」

凛達が男と戦闘を開始する少し前、魔術師達は遠坂邸に到着した。

が、リリアナはやれ貧相だのやれ手入れが行き届いていないだのと言い始め、しまいには弱小魔術師とまで口にした。

実際はそんな事はなく、遠坂はそれなりの家系なのだが・・・リリアナの実家であるレイナーズ家とは差が有り過ぎた。

レイナーズ家は有史より遥か以前より存在しており(その大元たるノーレッジ家は更に歴史が深い)、名こそ違えど神話や魔術協会創始者名簿の中に名を連ねている程の大家である。

しかも作った魔術礼装を売って圧倒的な資産を保有しており、世界中に有る数多の土地を手に入れている上それによって事実上協会を牛耳り、支配している一族として君臨していた。

当然だがそのような地位にいると敵も多く、協会の中でもかなりエリートの部類に入るバルトメロイ家との仲は最悪で、幾度も衝突を繰り返している。

が、バルトメロイ家はレイナーズ家から多額の借金をしており、頭が上がらない為か本格的な殺し合いに発展した事は無い。

そしてリリアナが口にしたエドワーズという名・・・

魔術師なら誰もが知る名である。

本名カイン・エドワーズ。

宝石魔術レイナーズ家の大元たるノーレッジ家とほぼ同等の歴史を持つ宝石魔術の名門エドワーズ家の初代当主。

齢既に数千を数えるも未だ健在で、その体は宝石で構成されているとも噂される伝説の魔術師。

当然実力は高く、触れるだけで相手を宝石に変える魔術などを使えるとも言われるが、真偽の程は分からない。

表舞台に出る事は滅多に無く、出る時は必ず何かが起きると噂されている。

「さて、と」

ジッ

シュボッ!

「ぼちぼち行きますか」

「・・・堂々と葉巻を吸ってるな」

「リリアナよ、何処産だ?」

「もちキューバ・・・しかもコイーバよ。モンテクリスト、ロメオ・イ・ジュリエッタ、アップマン、オリヴァ、ロッキーパテル、シーエーオー、サン・ルイ・レイ、パルタガス、パンチ、フォンセガ、トリニダッド・・・あらゆる葉巻を吸ってきたけど、コイーバくらいしかしっくり来なかったわ」

「相も変わらず葉巻へのこだわりが半端じゃないな・・・そういえば、叔母君は煙草はだった筈だな?お前は吸わないのか?」

「あんな安物を吸うなんてあり得ない。何だってパチュリー叔母様は煙草なんて不味い物吸ってるのかしら?」

「・・・一応聞くが、19歳だよな?」

「未成年が葉巻を吸うなって言いたいんでしょ?お生憎様、一族じゃ大体未成年で喫煙してるわよ。じゃないと魔術も使えないし」

「煙魔術・・・だったか?レイナーズ一族のみ使えるっていう」

「実際は誰でも使えるけど、単に教えて欲しいって言ってくる奴が居ないだけなのよね。まあ器用貧乏な奴だと確実に習得出来ないみたいだけど・・・っと、ラッシュ」

グニャリ

ズドドドドドドドドドォン!!

「ゲヒャアアアァァァァ!!?」

リリアナは葉巻をくわえ、火をつけてその味を堪能する。

リリアナは葉巻が大好きだった。

こだわりも深く、金に糸目は付けない。

レイナーズ家で一般的に使われる独特な魔術である煙魔術を使うには葉巻や煙草が最適とされ、ある程度の年齢に達すると未成年でも喫煙する者が多く存在し、リリアナもその一人である。

因みにリリアナは煙草が大嫌いで、煙草を好むパチュリーに疑問を持っている(もっとも今のパチュリーは酷い喘息を患っており、何年も煙草を吸っていないのだが)。

そんな事を話しながらリリアナは吐き出した煙を多数の拳に変え、遠坂邸の玄関に向けてラッシュを叩き込ませる。

すると醜悪な叫び声を上げてフードを被った人物が転がる。

「何だ・・・コイツは!トカゲか!?」

「いや、リザードマンといった方が正しいだろうな・・・それでも、有り得ない存在であるのは変わらないがな」

「・・・違うわ」

「何?」

「コイツは合成獣(キメラ)。しかもパチュリー叔母様の前の第3魔法の到達者・・・創造主(ライフメイカー)作のね」

「・・・創造主?聞いた事が無いな」

「・・・待て、確かなのか?」

「ノーレッジの家に、創造主が作り出した合成獣の図鑑が有るのよ。その中にコイツの絵が有ったわ」

フードを被った人物の正体は・・・この世には居ない筈のリザードマンと呼ばれる生物だった。

エルメロイ兄妹がその未知なる存在を見て驚く中、リリアナだけは冷静さを保っている。

リリアナはこのリザードマン(正確には合成獣)に見覚えが有った。

創造主・・・

希代の魔術師にして希代の錬金術師であり、世界最強の暗殺者。

そして第3魔法の到達者。

その偉業は星の数程に有り、暗殺者した人数は億を超えるという。

特に生命に関する事に関しては他の追従を一切許さず、作り出した合成獣の出来は神々の業と評される。

しかし・・・それらはあくまで噂に過ぎない。

名は分からず、姿形も分らず、実在したという文献も見つからない・・・

何しろ神代の人物で既に死亡してから何千年も経過している為、今では創造主の名前を知る者なぞ殆ど居ないのだ。

リリアナもそんな一人で、子供の頃にノーレッジの家に何故か有った創造主作の合成獣図鑑を見た程度である。

しかし、その合成獣は自分達の目の前に居る。

それはつまり、創造主が実在するという事を意味していた。

「クソッ、偵察に来たのが仇になったか!まあいい、面白い物が見れたしな」

「・・・面白い物?」

「自分の目で確かめな・・・早くしないと手遅れになるかも、いやもう手遅れだな!ゲヒャヒャヒャヒャ!!」

ジャッ!

「ふむ・・・恐るべき逃げ足だな」

「・・・何だか嫌な予感がするわ」

キュポン

「出ておいで、私のペットたち」

グニャリ・・・

『ハッハッハ・・・』

「いい?扉をぶち破って、中に怪しい奴が居たら襲い掛かりなさい」

『ヴォフ!!』

シュッ

ドカァン!

「行くわよ」

「少し待て」

カチャカチャ・・・

ジャキッ!

「もういいぞ。これで風穴開けてやるぜ」

リザードマンは意味深な事を口にし、馬鹿笑いをしながら姿を消した。

リリアナは水銀の入った小瓶を取り出し、栓を抜いて声を掛けると水銀が動き出して数頭の猟犬になる。

これは銀の猟犬(シルバリオ・ハウンド)という魔術礼装で、値段は高いが人気のひと品である。

リリアナは銀の猟犬に簡単に命令し、水銀の猟犬が競うように遠坂邸に殺到するのを確認した後、ウェイバーが幾つかのパーツから小振りなショットガンを作り上げるまで待った上で一行は遠坂邸に乗り込む。

そして・・・

「水銀だと?誰だ」

「今度は、この私が相手をしてあげるわ」

両者は相対した。

「フン、銀の猟犬・・・レイナードのガキにエルメロイ兄妹か。何故此処に居る?」

「そのまま返すわよ、何で此処に居るのよ・・・って、此処はアンタの両眼を潰した奴の家だったわね。大方復讐にでも来たんでしょ?ね、金真龍(キム・ジンロン)」

「復讐だと?下らん・・・俺がやる事は只一つ、壊す事だ。天も地も人も神も国も世界も・・・全てをな。ここを訪れたのは只の気まぐれだ。奴の娘が如何程の物かと思ったが、たかが一撃で肉袋と化しおった・・・出来損ないもいいところだ」

「やれやれ、まだそんな事言ってんのね・・・悪いけど、私達はその子に用が有るの。だから殺させないわよ」

ガシャッ

「冬木のセカンドオーナーが死ねば、色々と面倒な事になるからな。悪いがお前を始末するぞ」

「私は後方支援・・・というか、セカンドオーナーの治療に当たる。殴り合いは得意じゃないからな」

「ウェイバー・・・相変わらず甘い、魔術師には向かない奴だ」

「くっ(まだ動けないか・・・誰かは知らないが、頼む!凛を守ってくれ!!)・・・」

一行は巨漢の男・・・金真龍とは面識が有るらしい。

幾らか言葉を交わした後、一行は瀕死の凛を守るべく構えを取る。

その光景をアーチャーは呆然と見ていた。

彼等が何もかは知らない。

だが味方である事は確実だ。

動けない自分の代わりに凛を守ってい欲しい・・・

今のアーチャーはそれだけを願っていた。

「・・・興醒めだ」

「・・・は?」

「そこの出来損ないを殺すのは、今回は止めてやる」

フッ・・・

「なんなのy「凛!!」・・・喋ってるんだけど」

しかし、戦いが始まる事は無かった。

真龍曰く『興醒め』とのことで、音もなく消え去る。

それにより身動きがとれなかったアーチャーも動けるようになり、凛の元に駆け寄る。

「・・・内蔵にかなり酷い傷が幾つも有る。奴め、どんな馬鹿力で殴りつけたのだ?」

「ライネス、治せるか?」

「応急処置はしたが・・・駄目だな。死ぬのは時間の問題だぞ」

「ちょ、ヤバいじゃないのよそれ!どうすんのよ?」

「・・・一つだけ、望みが有る」

「はあ?」

「凛は連れていく!場所は衛宮邸だ!来たければ来るがいい!!」

シュン!!

「・・・衛宮邸って何処よ?」

「日本は初めてなのだ。知る筈が無い」

「・・・多分、知ってる場所だと思うぞ。前回の聖杯戦争の時に確か二、三回・・・」

「ラッキー!案内よろしくね!」

凛の傷は、魔術でどうこう出来るレベルを超えていた。

このままでは凛の命が・・・

しかし、アーチャーには一つだけだが確実な望みが有った。

アーチャーは凛を抱き抱えると、己の出せる全力である場所・・・衛宮邸に向かう。



「ただいまー」

「お帰りなさい。衛宮の坊っちゃんはもうお帰りになってますよ」

「リン達は?」

「まだですね・・・時間的にはもう来てもよいくらいなんですが」

シュタッ

「チルノ!」

「あ、来るってどうしたのリン!?」

「恐ろしい奴に襲われて、リンの内蔵が酷い傷を負っている!頼む、凛を助けてくれ!!」

「・・・分かった!ついてきて!」

「すまん・・・!」

それから五分程経った衛宮邸。

その時丁度チルノが帰宅し、門で護衛と軽く話していた。

すると瀕死の凛を抱き抱えたアーチャーに助けを求められ、チルノそれに応じる。

その後凛は何とか一命を取り止めた。



「・・・ジ!シン・・・!」

「・・・ぅ」

「シンジ!しっかりしてください!!」

「・・・ライ、ダー?」

「ああ、良かった・・・眼が覚めたのですね。シンジの身に異変が有ったと感じ、駆けつけるとシンジは倒れていました。一体何が有ったのです?」

「そうか・・・僕は、あの薬を飲んで」

場所は更に変わり、冬木市のとある路地裏。

人一人訪れる事は無いであろう場所で、紫の長髪と眼鏡が特徴的な美女が倒れ伏した青年にしきりに声を掛けていた。

声を掛けているのはサーヴァントの一人であるライダーで、倒れているのは慎二である。

慎二はチルノから貰った薬を早速飲もうと考え、帰宅の途に就いた。

が、いざ自宅の近くに来ると見慣れない男達が自宅を包囲しており、とてもではないが入れない。

仕方なく慎二は薬を飲んで倒れても安全な場所を探すが、意外に見付からずに時間が過ぎていき、ようやく安全な場所・・・というか路地裏を見付けた時には大分日が傾いていた。

とりあえず安全な場所を見付けた慎二は、薬を一息に飲み干す。

最初は特に身体に変化は無かったが、突然今まで感じた事の無い壮絶な激痛が慎二を襲った。

チルノの言った通り血を吐き、激痛に苛まれた慎二は意識を手放し・・・ライダーに起こされた。

「・・・何だか前髪が邪魔だな。こんなに髪長かったっけか?」

キイイィイン・・・

「何だ・・・力が湧いてくる!それにこの感じ、これが魔術回路ってヤツなのか!?」

「シンジ・・・貴方は一体何をしたのです?今の貴方には凄まじい魔力を感じます。ですが魔術回路は存在しない筈・・・」

「ある奴のお陰さ・・・さて、少し試してみるか」

「魔力を手に集中・・・多分、こうだな。そして、そのまま振り抜く!」

ヒュッ

ズガガガアァン!!

「は・・・はは、ははははは!!軽く振っただけでこれかよ!?やれる、今の僕なら遠坂に勝てる!臓硯にだって勝てるぞ!!」

「あの・・・シンジ?驚かないでほしいのですが」

「あん?何だい、ライダー」

「今のシンジは、先程のシンジとは別人になっています」

「・・・そりゃ、どういう?」

「自分で見た方が良いかと。鏡です」

慎二が意識を取り戻してすぐに思った事は・・・目に掛かる髪の鬱陶しさであった。

しかし、自分の髪型を考えればそれはおかしい・・・

が、今はそんな事はどうでも良い。

何故なら慎二は、沸き上がる凄まじい力や魔術回路の存在をを感じ取ったからだ。

戸惑うライダー傍目に、慎二は自分が本当に魔力を扱えるのかを確かめる。

結果は大成功であった。

魔力を込めた手を軽く振るうと、目の前に有るコンクリートの壁がまるで竜の爪で抉られたかのようになったのだ。

慎二は笑った。

これで凛に勝てると。

臓硯を葬り去る事が出来ると。

気分が高揚していた慎二だったが、ライダーが『今の自分は先程とは別人になった』といい、手鏡を渡してくる。

促されるまま自分の顔を見てみると、確かに別人であった。

まず特徴的な髪型がストレートになり(ついでにある程度髪が長くなっている)、肌が白くなり、瞳の色も赤色になっていた。

「・・・先祖伝来の髪型とはお別れか。気に入ってたんだけどね」

クシャッ

「んー、ヘアバンドが必要だな。持ってる?」

「申し訳ありません、ヘアバンドは・・・」

「じゃあ、買ってくか。ライダーも来なよ、甘い物でも奢るからさ」

「分かりました。お願いしますね」

慎二は、気に入っていた髪型が崩れてしまった事を残念に思いながら後ろに撫で付ける。

そのままにするにはヘアバンドが必要だが、持っていないので二人は買いに行きがてら甘い物でも食べる事にした。

因みにだが、ライダーはきちんとした服装をしており、職務質問をされる心配は無い。

カツ・・・

パキパキピシッ!

「何ッ・・・チィッ!!」

ブンッ

ガシャアン!!

「おやおや、少し見ない内に随分と強くなったようだな・・・間桐の小倅よ」

「いきなり、しかもまだ人が居る時間帯に仕掛けくるとはね。ボケたかい爺さん?」

「相変わらず可愛いげの無い・・・宝石のオブジェにしてやろうか?」

「やってみなよ。今の僕は臓硯だって容易く八つ裂きに出来るくらいに強い。カイン・エドワーズ、流石にアンタのダイヤモンドで出来た身体を砕くには時間が掛かりそうだけど、砕けない訳じゃない」

「おうおう抜かしよるわ。ワシ相手にかような事を抜かしよる者は今では珍しい故、中々に良い気分じゃ・・・さて、小倅よ。その喧嘩は買ってやろう、ワシも聖杯戦争の参加者なのでな。アサシン」

スッ

「・・・」

シャキン

「少し遊んでやれ」

「・・・」

「ライダー!悪いが買い物は少し延期だ!この爺さんを倒すぞ!!」

「・・・状況を上手く飲み込めませんが、シンジをやらせる訳には行きません。アサシンは私が抑えます」

慎二が歩き出した途端、宝石出来た波状の物体が襲いかかり、慎二は慌ててそれを砕く。

攻撃を放ってきたのは、かなりの大きさを誇る杖を始めとした全身に宝石を身に付けた老人であった。

名はカイン・エドワーズ、冬木市を訪れた魔術師達が噂していた伝説の宝石魔術師である。

両者は何か因縁が有るらしく、喧嘩腰で幾らか言葉を交わした後戦闘態勢を構える。

実はカイン、アサシンのサーヴァント(小次郎は不正に召喚されたものであり、本来のアサシンはこちらである)を擁するマスターで、ライダーがアサシン・・・いや真アサシンと、慎二がカインと戦う事になる。

新たな力を得たばかりの慎二は、その力を早くも披露する・・

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あきゅろす。
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