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フェイトステイナイト〜verアイス
吐露する憎しみ、迫る死
「ここが冬木か・・・なる程、一般人には分からんが強い邪悪な魔力を感じる。聖杯の変異は想定以上のようだ」

「大仕事になりそうだな・・・ああ、面倒くせぇ。こういうのは埋葬機関の連中にやらせておけばいいんだよ」

「お尻いった〜い!エコノミー席の座り心地最悪!経理部門の連中、せめてビジネスクラスを予約しなさいよね!!」

「・・・まったく、我が弟子ながら何とも困り者だな。先が思いやられる」

ヨハネ・パウロ2世が聖杯の破壊を依頼してからある程度経ち、ゲッセバルネ枢機卿は弟子二人と共に冬木の地に足を踏み入れた。

ここで弟子について少し説明しようと思う。

まず面倒そうにしている四十代後半の不精髭の男性・・・名をトゥルーマン・ソワレと言う。

悪魔祓いと吸血鬼ハンターを兼任しているトゥルーマンは、そのどちらに関しても聖堂教会最強クラスの実力を誇る。

が、極端に怠け者であり、今回の仕事に関してもその態度は変わらないようだった。

そしてお尻をさすりながら文句を言っている背中よりやや下まで伸ばした二十手前の金髪美少女・・・名をリリアナ・ラインブルム・レイナーズと言う。

魔法使いパチュリー・ノーレッジの親戚筋の魔術礼装製作と及び運用と神代魔術の名門として大元のノーレッジ家ど同様神代から存在するレイナーズ家出身で、パチュリーの姪に当たる。

又、魔術協会に在籍していながら敵対組織に在籍しているゲッセバルネ枢機卿の弟子でもあるという変わり種。

魔術師としては血筋が血筋なので極めて優秀であり、水と風の2属性を得意とする。

その他にも手を出した系統全てで輝かしい功績を挙げ、恐らく最年少での講師就任の他襲ってくる魔術師殺しを全て返り討ちにしている事から『魔導元帥の再来』、『ケイネスの転生体』、『魔術師殺し殺し』と持て囃される事となる。

が、性格については少々難が有り、高飛車で我が侭でプライドが高く、魔術師らしからぬ行いをする者や歴史の新しい魔術師を見下し嫌う。

が、人物実験や標本集めといった行為は徹底的に忌避しており、気配りや配慮も出来るので、ある程度のルールや善良さは持ち合わせているようだ。

ゲッセバルネ枢機卿はこの個性的な弟子達に一抹の不安を覚えた。

「・・・で、現地で合流する代行者と魔術師ってのは何処だ?もしナルバレックとかだったら俺帰るぞ」

「私も論文の採点やら実験やらが有るわ。聖杯には興味が有るけど時計塔から招集が来たら帰るからね」

「・・・その辺りに居るだろう「失礼、エンツォ・ゲッセバルネ枢機卿で間違いありませんか?」ああ、そうだ・・・ぬ、貴様は」

「埋葬機関のシエルです。命令により合流しました」

「・・・『弓』、か。機関では最もまともな精神の持ち主だと言うが」

「おいおいマジかよ・・・本当に埋葬機関のおでましかよ」

「よりによってカレー女とか・・・日本には他に代行者が居ないの?」

「・・・枢機卿の埋葬機関嫌いはよく存じていますのでいいとして、貴方達二人の態度はなんですか!?後カレー女って言わないでください!」

「めんどくせ・・・」

「だってカレー中毒なんでしょ?だったらカレー女でいいじゃない」

「た、確かにそれは認めますが・・・でもその呼び方は認めません!」

「だったら改造マニアとかどう?銃剣をパイルバンカーにするとか、センスの欠片も無いのよアンタ」

「いいじゃないですか使いやすいんですから!!」

「双方止めんか。全くみっともない・・・品性が疑われるぞ」

「分かったわよ・・・」

「・・・はい」

そんな時、現地で合流予定の代行者に接触する。

が、ゲッセバルネ枢機卿は代行者の顔を見た途端表情を険しくする。

何故ならその代行者が自身の嫌っている埋葬機関所属のシエルだったのだ。

当然ゲッセバルネ枢機卿は冷たく接し、弟子も嫌そうにする。

シエルはそんな反応を予測していたようだが弟子達には噛み付き、特にリリアナとは子供染みた言い争いを始めたのでゲッセバルネ枢機卿によって諌められる。

「シエル、聞きたいのだが協会の魔術師は来て居らんのか?聖下が協会にも働き掛けると言っていたのだが・・・」

「魔術師・・・いけない!」

「ファック!何がいけないだ貴様!」

「おやおや、随分と下品な言葉じゃないか兄よ。私は悲しくて涙が出るよ」

「白々しいなお前は!顔がにやけてるだろうが!」

諌めた後ゲッセバルネ枢機卿は恐らく来ているであろう魔術師について聞くと、シエルは慌てた様子になる。

どうやらリリアナとの口喧嘩が原因で忘れていたらしく、待たされていた魔術師は文句を言いながら姿を現した。

「・・・まさかあのエルメロイ兄妹が来るとはな。味方としてこれ程心強い事は無いな」

「ほぉ・・・」

「・・・ライネスはともかく、ウェイバーは無理がない?ようやく王冠になったばかりでしょ?」

現れた魔術師・・・それは協会ではかなり有名な二人であった。

かつて第四次聖杯戦争を駆け抜け、今では『ロードエルメロイ2世』と呼ばれ協会本部『時計塔』最高クラスの講師と称されるウェイバー・ベルベットと、第四次聖杯戦争で戦死したパチュリーの教え子であったケイネス・エルメロイ・アーチボルトの姪で、現アーチボルト家当主である『エルメロイの姫君』ことライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。

二人合わせて『エルメロイ兄妹』と呼ばれ、その名が表すとおり殆ど二人一緒に行動している。

「・・・ゴホン!見苦しい所を見せて申し訳ない枢機卿。協会からの出向してきたウェイバー・ベルベットとライネス・エルメロイ・アーチゾルテだ」

「要請を受けて戴き感謝する。この二人は弟子のトゥルーマン・ソワレとリリアナ・ラインブルム・レイナーズだ・・・まあ、リリアナについては知っているだろうが」

「よろしく・・・」

「久し振り・・・じゃあないわよね二人共。何で受けたかは知らないけど、良い事教えてあげるわ。パチュリー叔母様・・・冬木に居るって」

「な、何だって!?・・・あ、いや、今は任務優先だな、うむ」

「憧れの人の名前を聞いて取り乱したな?いい年して初心だなあ兄よ」

「い、いいじゃないか!」

「・・・で、まず何処に行くんだ?何時までも突っ立ってる訳にはいかんだろ」

「まずは教会に行くべきではないでしょうか?」

「嫌よそんなの・・・私はゲッセバルネ先生の弟子ではあるけど教会所属じゃないもの。セカンドオーナーの遠坂に会うべきだわ。『たかだか6代程度』の魔術師に頭を下げるのは嫌だけど、この際仕方ないわね」

「・・・教会と遠坂の二手に分かれた方が良いな。両組織の人員を分配すれば均等になろう」

「じゃあ接触したら使い魔でも飛ばすわ。行くわよ二人共」

「何故お前が仕切る!?少しは年功序列というものを「うむ、了解した。行くぞ兄よ」って聞けよ!!」

「さて、我等も行こうか」

「ああ・・・」

「教会の場所は既に確認済みです。私が案内しますね」

両組織の合同チームが実質上した後、まず何処に行くべきかで議論となる。

結果両組織所属の人間に分かれてそれぞれの目的地に向かう事になった。

こうして新たな勢力が聖杯戦争に参戦した。


「そうか・・・もう遠坂とは戦わなくていいんだな」

「それで、リン逹の部屋なんだけど・・・」

「好きに使って構わない。部屋の空きは有るからな」

「分かった、そう伝えておくね。あ、これから部活の体験だから行かなきゃ!じゃあね〜!!」

「気を付けて行けよ」

あれから時間は経ち、放課後。

チルノは士郎に屋上での事を話し、それを聞いた士郎は喜び一色であった。

そして凛達の部屋の事を快諾し、チルノはそれを聞くとそそくさと教室を出て行った。

どうやら体験入部をするらしい。

士郎はそんなチルノの背中を微笑ましい表情で見送った。

「ようこそ弓道部へ・・・私は部長の美綴綾子だ。学園中お前の噂で持ちきりだぞ〜?(というか、今この状態においてもそうなんだが。男子共の視線の凄い事凄い事)」

「チルノ・トレバーです!今日はよろしくね!」

「うん。それじゃあ説明を始めるか。えーと、何から話したもんかな?まず・・・」

数分後・・・

「・・・とまあ、こんな感じだな。何か質問は有るか?」

「アーチェリーとは違うんだ〜。ね、ちょっとやってみて良い?」

「いいぞ。ま、そう上手く当たらないだろうけどな」

教室を出てから少し経ち、チルノは弓道部の道場で部長の美綴綾子から説明を受けていた。

その説明は、部活という物をやった事の無いチルノからすれば新鮮な物であり、嬉々としてその説明を聞く。

説明が終わるとチルノは実際にやってみたいと言い出し、綾子が許可したので早速やってみる事にした。

ヒョイ

「わ、軽〜い!競技用の弓ってこんなに軽いんだ!」

「そりゃ竹だからねぇ。実戦用の物とは比べ物にならないさ。あ、他にもグラスファイバー製ってのも有るよ」

「なるほど〜・・・で、貴方誰?」

「おいおい酷いじゃないか!同じクラスの間桐慎二だよ!」

「・・・ああ!ワカメ君か!」

「わ、ワカメ!?何だよその酷過ぎる覚え方は!」

「だって頭がワカメっぽいから・・・」

「んなッ!?」

わははは!!

「た、確かにワカメだな!」

「何かに似てると思ったらワカメだったのな!」

「流石チルノちゃん!いいセンスだ!」

チルノは立て掛けていた弓を手に取り、驚く。

弓の重さが、想像したよりも遥かに軽かったのだ。

その時、ある男性部員声を掛けてきて弓について軽く説明した。

その男性部員こそ、桜の兄である間桐慎二であった。

が、チルノは彼の事を殆ど覚えておらず、思い出しても珍妙な覚え方だった為笑いが巻き起こった。

元々良いとは言えない性格の慎二は喚き散らすかと思われたが・・・

「・・・ははっ、いいよ別に。よく考えたらそんな感じだし、先祖伝来のこの髪型を僕は気に入ってるしさ」

慎二は苦笑するだけに留まった。

その顔は憑き物が落ちたかのように穏やかな物で、かつての彼とは対照的と言えた。

「へー面白い一族・・・あれ?今更だけどサクラと同じ苗字・・・まあ後でいいか。そんじゃま、いっきまーす!」

ギリッ

バシュッ

タン!

「「「「おー!」」」」

「・・・あれ?」

笑いが一通り収まると、チルノは弓矢を的に向けて放つ。

が、矢は当たりはしたものの中心からは大きく外れた。

初撃で的に命中させた事に周りは沸き立つが、チルノ自身は首をかしげる。

「凄いじゃないか!普通なら当てるだけでもかなり時間が掛かるんだぞ!?」

「ああ、うん(おっかしいなぁ?確かに真ん中を狙った筈なんだけど・・・縦撃ちだからかな?今度はいつもどおり横撃ちでよってみよ)・・・もう一本矢を使わせてもらうよ!」

「え?」

「撃ち方変えてもう一回撃つの!」

「真ん中に当てられなかったのがそんなに悔しかったのか?ほら」

「ありがと!」

ギリッ

「あったれぇ!!」

ガヒュン!

ズドォン!!

「あ、力加減間違えた」

「「「「・・・」」」」

「・・・ヤバイ」

チルノは中心部の当たらなかったのが縦撃ちだからだと考え、もう一本矢」を貰って今度は横撃ちで矢を放つ。

今度は中心に当たったが、矢を放つ際に力を入れ過ぎた為とんでもない速度で矢が飛んで行き、的が吹き飛んだ。

見ていた者は皆呆然とし、チルノは冷や汗をかく。

「えーっと・・・これ、は・・・」

「・・・すげぇ」

「「「「うんうん」」」」

「(あれ!?意外な反応!)ア、アタシ力が強いんだよねー!いやー力加減間違えちゃったよ!」

「なるほど・・・」

「だったらしかたないな。よし、直すぞー」

「アタシも手伝う!」

チルノはどい言い訳しようか考えていたが、部員逹は意外な反応を見せる。

そこでチルノは力が強く、力加減を誤ったのだと嘘をつき、難を逃れた(嘘と言っても怪力である為別段うそという訳でもないのだが)。

1時間後・・・

「さて、入部するか?歓迎するぞ?」

「ん〜・・・今は保留かな。偶に来てもいい?」

「保留か・・・脈ありだな。何時でも来いよ」

それから1時間程経ち、綾子はチルノに入部するかどうかを問う。

チルノはまだ迷っているらしく、保留にしたいと伝え、綾子は了承して別れる。

「さーて、明日は陸上部にでも行って見ようかな〜っと」

「おーい!」

「?ワカメ君・・・何か用?」

チルノが道場へから出て少し経った頃、慎二が追い掛けてきた。

「少し話が有ってね。いいかい?」

「あんまり時間が掛からないなら・・・」

「大丈夫だよ。・・・桜から聞いたよ、刻印虫を取り除いてくれたらしいね?」

「どうしてそれを・・・」

「当然だろう、僕は桜の兄だよ?・・・もしかして、桜から聞いていないのかい?」

「え?サクラにお兄ちゃん居たの!?」

「・・・はぁ。まあそれはいいや。つまり何が言いたいかっていうと・・・桜を救ってくれてありがとう。僕じゃあ桜を助ける事は出来なかった」

慎二はチルノに話が有るらしく、桜の身体について話し始める。

が、当のチルノは桜に兄が居た事すら知らなかったようで、慎二は溜め息をつきつつも桜を救ってくれた彼女に感謝の言葉を口にした。

「僕はね、クズ野郎なんだ。僕は冬木じゃ御三家とか呼ばれる間桐家の跡取りなのに、魔術師として命に値する魔術回路は無い。間桐は既に廃れているんだ。だからだろうね、お祖父様・・・臓硯が桜を連れて来たのは」

「・・・」

「桜はその時から優しくて可愛い娘でね。最初は婚約者だとかなんとかっていう話で、仲良く出来てた。・・・恥ずかしながら初恋だったんだよね。まあ実際は養子縁組だったんだけど、その時の僕にはそう聞こえたんだ・・・でも、あまり長く続かなかった。臓硯が『あんな不良品よりも、桜こそ間桐を継ぐに相応しい』って呟いているのを。それを聞いた僕は絶望したよ。僕は、最初から期待すらされていなかったんだって」

「・・・」

「その日から僕は変わった。桜を罵り、酷い事をした。・・・心の中じゃ『こんな事したくない』って思ってるのにさ!それだけじゃない!桜のサーヴァントであるライダーを無理矢理借りて!学校に結界(あんなもの)を張って!!」

「・・・!(まさかサクラがマスターだったなんてね・・・)」

「世の中ってのは本当に無情だよ!僕は只、一人の女の子と愛していければ良かったのに!その望みを叩き壊した臓硯を僕は許さない!!そして!桜を間桐に送り、桜を苦しめ続けたられる原因を作った魔術師の娘である遠坂も僕は許さない!!!」

慎二は自分の事淡々と話し始めた。

それをチルノ黙って聞く。

最初の内は懐かしそうにはなしていたが、段々と語気が荒くなっていき、結果的には憎しみを篭めた叫びとなっていた。

「(声の感じで分かる。ワカメ君は本気でサクラを・・・)物騒だなぁ。そんなにリンが嫌いなの?」

「好きになれる訳ないだろう!?本当なら今すぐにでも八つ裂きにしてやりたいさ!でも僕じゃ遠坂には勝てないし、何より桜が望まない!だから無理矢理抑えてるけど・・・あの傲慢さには我慢の限界だ!今度遠坂(アイツ)が傲慢な態度を取ったら僕は・・・」

「・・・」

「あ・・・ごめん、関係無い事を言いすぎたね。屑野郎の戯言だから忘れてくれ・・・どうせ桜から散々僕の悪口を聞かされてたんだろ?」

チルノは目の前の少年の放つ桜に対する愛情と凛に対する憎しみの感情の強さに困惑する。

それなりに年齢を重ねているチルノは、これまでの人生で何度も怒った事は有る。

しかし、憎しみで行動した事なぞ(記憶が無い時は除く)本当に数える程しか無かったのだ。

勿論、凛に対する怒りも有った。

が、それは倫理的・道徳的面が強く、憎しみは一切無かったのだ。

それ故に、チルノは理解出来なかった。

存在を消し去ってしまいたい程の憎悪という物を。

「えっと・・・ワカメ君?落ち着いて聞いて欲しいんだけどさ・・・さっきも言ったけど、アタシはサクラにお兄ちゃんが居る事すら知らなかったんだよ?しかもサクラからはワカメ君の悪口なんて聞いた事無いし。昔がどうであれ、サクラが大事なら少しづつでも変えていけばいいんじゃない?」

「そう簡単には行かないさ・・・で、それ本当?」

「うん。ワカメ君に恨みが有るなら、普通その恨み言を言って然るべきでしょ?」

「何だよ・・・それじゃあ僕は恥を晒しただけって事か・・・ハ、ハハ」

「それで、何だってこんな話をしたの?別に感謝の言葉だけで良かったんじゃ・・・」

「自分でも解らない。只話すべきだと感じたんだ」

「まあよく聞き上手って言われるからねぇ・・・さて、話は変わるけど、ワカメ君は何本魔術回路持ってる?」

「無いよ。多分跡くらいは有ると思うけどね。そんな僕がライダーを操る事が出来たのは、令呪と同じ役割を持つ偽臣の書っていう本のお陰さ。因みにライダーは、今哨戒に出てるからこの場には居ないよ。もっとも、もう桜に返すつもりだけど」

「なるほど、だから『廃れた』って表現したわけね。ま、跡が有るなら上手く行くかな」

「?一体何の話だい?」

「ワカメ君が魔術を使える様になるって話」

言いたい事を言った慎二は、自嘲気味に付き合わせてしまった事をチルノに詫びる。

対するチルノは戸惑いながらも慎二をなだめ、桜からは一切慎二に対する悪口を聞かなかったと説明する。

実際、桜からは臓硯に対する悪口は聞いたものの、慎二の悪口は一度も聞いた事は無かった。

それを聞いた慎二は乾いた笑いを浮かべ、その姿に構わずチルノは何故心の内を話したかを問うが、慎二から返ってきた答えはかなり曖昧な物であった。

チルノはそこで一旦話を止め、今度は慎二の魔術回路についての話になった。

「ほ、本当にそんな事が・・・本物の魔術師になれるのかい!?ならすぐにでもやってくれよ!!」

「やってもいいけど・・・ワカメ君、一応聞くけど、辛い目に遭う覚悟・・・有る?」

「遠坂に勝つ為さ・・・いざとなったら、片腕切り落とす覚悟くらい有る」

「分かった・・・えっと、どこ行ったっけ?」

ゴソゴソ

「お、有った!ワカメ君!」

ヒュッ

「!」

パシッ

「何だこれ?飲み薬?」

「魔術回路を失っちゃった魔術師用に、アタシが試しに作ってみた試薬でね?飲むと人工的に魔術回路を作り出し、魔術の行使が可能になるんだ」

「凄いじゃないか!じゃあ早速・・・」

「ちょ、ちょい待ち!話はまだ終わってないよ!・・・いい?この薬は『試薬』であって、完成品じゃないの。効果は確実な物だけど、一つ問題が有ってね?」

「問題・・・?」

「副作用が半端じゃないの。予想だとショック死しかねない激痛が一日中身体走り続け、血を吐き・・・他にも有るかも。それでも飲む?」

本当の魔術師になれると聞いた慎二は大いに喜ぶが、チルノはそんな彼に覚悟を問う。

それに慎二はハッキリ有ると答え、それを確認したチルノは小さな液体入りの瓶を投げて渡す。

それこそ世界中の魔術師が喉から手が出るくらい欲しがる秘薬であり、慎二は早速飲もうとする。

それをチルノは慌てて止め、その薬が試薬である事、強烈な副作用が有る事を伝え、それでも飲むのかと問う。

「勿論さ。その程度で音を上げてたら勝てる筈が無いからね」

「お、男前!そんな台詞吐けるんなら大丈夫だね・・・っとと!忘れてた、薬を飲む時は出来るだけ安全な場所でね!もし気絶でもしたら大変だから!」

チルノから副作用について聞いても、慎二の意思は変わらなかった。

その清々しさたるや、チルノに男前と言わせる程であった。

「了解。・・・本当はこんなに時間を取らせるつもりは無かったんだけどね。お詫びといってはなんだけど、ちょっとした事を教えるよ」

「ちょっとした事?」

「カイン・エドワーズには気を付けろ」

「・・・誰それ?」

「詳しくは遠坂に聞いてみな。多分かなり狼狽えるよ・・・それじゃ」

慎二は時間を取らせてしまったお詫びとしてある人物に気を付けろと伝える。

その名前はチルノには馴染みの無い物だったが、詳しくは凛に聞けと言い残して道場に戻って行った。

「カイン・エドワーズ、ねぇ・・・一体何者なんだろ?」

チルノは去っていく慎二を見送り、教えられた名前を口ずさみながら帰路に就く。

「・・・ふう。これで荷造りは終わりね」

「案外少ないな。もっと多くなると思ってたが」

「そうね・・・行くにしてもまだ早いし、どうしようかしら?」

その頃凛逹は、衛宮邸に持ち込む荷物を纏めていた。

それも予想より早く終わり、暇を持て余していた。

「・・・なら、俺に殺されるってのはどうだ?」

「「!!?」」

その時、不意に重く低い声が響き渡る。

二人は即座に声のした方に視線を向けると、そこには中年、見方によっては十分老齢に見える男がソファーに座っていた。

「凛、これは・・・」

「な、何よコイツ!?何時から其処に・・・それに結界はどうやって突破したのよ!?」

いきなり現れた男に二人は明らかに動揺していた。

男の風貌は浅黒い肌に見た事の無い程筋骨隆々とした肉体、瞳孔の無い目(つまり白目)の上に漢服のような物(上は赤、下は白。右半分は脱いでいるので肉体が露わになっている)を着て、首には巨大な数珠が掛けられている。

そして何よりも背が高く、座っているだけで二人よりも明らかに高く、立ち上がればバーサーカーに匹敵する身長になるであろう事は明白であった。

「結界(あんな物)程度、何の障害にもならん・・・さて」

スッ

「さっきも言ったが、お前はここで死ね。恨むならお前の親父を恨め」

「(父さんを知ってる!?いいえ、そんな事よりも!)死ねと言われてはいそうですかと死ぬ奴なんて居るもんですか!アーチャー!!」

「ああ!」

「ふん・・・」

ヴウウゥン・・・

「クッ!?」

ヒュッ

ドゴォン!

「ぐはッ!!」

「アーチャー・・・」

ズン!

「ッ!?」

「馬鹿が、他人の心配なぞしおって」

ドォン!!

「かっ・・・このッ!!」

ッボォン!!!

「!?!?」

ヒュン・・・

ガシャアアァン!!

「・・・」

「凛!!」

男はゆっくり立ち上がり、凛に死の宣告を告げる。

が、凛が素直に受け入れる訳もなく、直ぐ様アーチャーを差し向け、戦闘体勢を取る。

それに対して男は全く動じず、アーチャーに向けて左手をかざして紫色の魔力を左手に集め、何かの魔術を使用してアーチャーを壁に叩き付ける。

その様に驚き隙が出来た凛に一息で肉薄し、腹部に強烈な拳を叩き込む。

凛は肺の中に有った酸素を強制的に吐き出させられるが何とか反撃しようとするが、そう上手く行かなかった。

男の打ち込んだのは八極拳の技の一つ『崩掌』であり、凛の腹部に大爆発を起こしたが如き衝撃が襲ったのだ。

凛は腹と背中に巨大なルビーを入れて対衝撃対策をしていたが、この衝撃には耐えられず砕け散ってしまった。

又、凛も八極拳を使用していたが、それとは比べ物にならない威力を誇っていた。

そんな一撃を受けた凛は一瞬で意識を刈り取られ、アーチャーの近くの壁に吹き飛ばされた。

「何だ・・・この程度か?俺の両目を潰した男の娘が只の雑魚とは、失望したぞ」

「凛!今そっちに・・・」

グッ・・・

「くそっ、何故動けん!?」

「黙って見ていろ。コイツを片付けたら、後を追わせてやる」

男はピクリとも動かない凛に歩み寄って行く。

男の言葉から、どうやら凛の父親とかなりの因縁が有るようだが、凛は一切反応しない。

凛は攻撃によって内臓を著しく損傷しており、完全に虫の息だったのだ。

アーチャーは助けに行こうとするが身体が動かず、男の手が凛に止めを刺そうとし・・・

「させないわよ」

ビュン!!

「む・・・?」

すんでのところで銀色の何かが男の視界を横切る。

「水銀だと?誰だ」

男は銀色の何か・・・水銀の刃が飛んできた方向を見る。

「今度は、この私が相手をしてあげるわ」

其処には、水銀で出来た猟犬に囲まれたリリアナが居た。


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あきゅろす。
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