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フェイトステイナイト〜verアイス
神の御名の元に、深夜の策謀
間桐邸襲撃の約1日半前

「よく来てくれましたね、ゲッセバルネ枢機卿」

「お元気そうで何よりで御座います聖下。これも聖母マリアのお陰で御座いましょう」

日本から遠く離れたヴァチカンの教皇庁の一室で二人の人物が相対していた。

一人は質素ながらも上品な服を着た穏やかな風貌の老人・・・ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世。

そしてもう一人は紺色の神父服(言峰が着ている物と同タイプ)の上に、同色で両肩と背中に金の十字架が描かれたコートを着た長い金色の髪と髭を称えたやや気難しそうな老人・・・エンツォ・ゲッセバルネ枢機卿である。

ゲッセバルネ枢機卿はヨハネ・パウロ2世に呼ばれ、出向いて来たのだ。

「貴方にここまでご足労願った理由をお話しましょう。聖杯戦争はご存知ですね?」

「存じております。もしや、聖杯を御所望でしょうか?」

「いえ、そうではないのです。寧ろ逆と言いましょうか・・・」

「聖杯の破壊を御所望でしたか・・・確かに、教会の者達に渡すよりも遥かに賢い選択ではあります」

「聖杯は汚染され、災厄を撒き散らすだけの存在と化しています。これを破壊出来るのは教会では貴方しか居ない・・・それ故、貴方にここまでご足労願ったのです。ゲッセバルネ枢機卿、どうかお願いします。世に悪をばら蒔く聖杯を破壊し、聖杯の力を悪用せんとする者達を退けで戴けないでしょうか?」

ヨハネ・パウロ2世はゲッセバルネ枢機卿を呼んだ理由・・・聖杯の破壊を伝えた。
そしてゲッセバルネ枢機卿の手を取り、聖杯の破壊と悪用しようとする者達を撃退してくれと頼んだ。

それ程までに、彼は優秀だったのだ。

ゲッセバルネ枢機卿は、『聖銃』、『信仰の大盾』、『神の寵愛を受けし者』等と呼ばれる教会の騎士兼悪魔祓い(エクソシスト)で、齢86という高齢の身でありながら常に戦場に立ち、数多の戦いを潜り抜けて来た。

しかし、態度その物は一貫して穏健で、魔術協会との友好を出張しており、狂信的で視野の狭い者がのさばる聖堂教会内では特異な人間であった。

彼はヨハネ・パウロ2世と協力して教会の暴走を押さえつけており、狂信者の集まりである埋葬機関を嫌って厳しく監視している。

又、教官としても優れており、ヴェステル弦楯騎士団を精鋭に鍛え上げた。

この他にも様々な功績を挙げてきた男・・・

それかエンツォ・ゲッセバルネ枢機卿である。

「その依頼、受けましょう。必ずや主の名の下に完遂し、戻って来る事を誓います」

「おお・・・感謝します!しかし、貴方一人だけを戦わせるのは忍びない・・・日本に居る代行者が居た筈なので、彼女を向かわせます。可能ならば魔術協会からも幾人か都合してくれるように掛け合ってもみましょう」
そのゲッセバルネ枢機卿が、教皇の依頼を断る筈が無かった。

「お心遣い、感謝します聖下。私も弟子を二人連れて行きますので、3人以上での行動になりそうですな」

「分かりました・・・貴方達が無事に戻って来る事を祈らせて貰いますよ」

そしてゲッセバルネ枢機卿は部屋を出て行った。

己の使命を果たす為に。



それから1日後

空戦艦隊ブリテン・フリート旗艦『ブリテングローリー』

「目標地点上空です」

「よろしい。そのまま待機せよ」

「はっ」

バタン・・・

「・・・フッ」

チャプッ・・・

誰もが寝静まっている深夜の冬木市。

その遥か上空に大小十数隻からなる空中帆船艦隊が展開していた。

この艦隊の名はブリテン・フリート。

イギリスが極秘に組織した特務艦隊である。

その司令官で、先日ジャニックに『挨拶』を行なったリョース・アーチボルトは、照明が一切点灯していない私室で到底値段が付けられないような木の椅子に座り、それと同程度の価値の机に置かれたワイングラスを掲げる。

ワイングラスに入った液体は深い赤色で、部屋の窓から射し込む月の光によって美しく輝いていた。

「やはり赤ワインは月の光で照らすのが一番栄えるな。そう思わないか?」

「・・・」

「おいおい。せめて何かしらの反応をしてもいいだろう?」

「俺は収集家(コレクター)じゃねえ・・・『破壊者(クラッシャー)』だ。趣味が合う訳がねえだろうが」

「それもそうだな。が、それでも友情は築けた。だろう?」

「ふん・・・」

ゴツ・・・

「で?何だってこんな東洋の田舎に出張ってきたんだ?」

「此処は聖杯戦争が行われている地だ。我々は戦争を行う為に必要な魔力を生成している『大聖杯』を手中に収め、イギリスの利益とする。大聖杯は汚染されているらしいが、それに対する対策も有る。そしてもう一つ目的が有る・・・それは、この地を訪れている我が宿敵パチュリー・ノーレッジを捕らえるか・・・或いは殺害する事だ」

「聖杯戦争か・・・て事は、時臣のガキが管理してる地だな。話によれば衛宮が潜伏してるって話だ。しかもあの紫娘までも居るとは・・・潰していいか、この土地?」

スッ

「こんな風に」

ゴゴゴゴゴ・・・

「よさないか」

「・・・」

スッ

「お前が遠坂や衛宮、ノーレッジと因縁が有る事は知っている。だが全ては利益の為ため・・・今は堪えてくれ。気が熟せば好きなだけ暴れても構わん」

「ふん・・・その言葉を忘れるなよ。もし予定外の事態に陥ったら独断で動くからな。2年前に半真祖とその配下のホモ野郎やら犬っころやらと戦って以来、まともな相手と巡り会えていねえんだ」

「構わん。その時は都市を全滅させようがもみ消してやるとも・・・」

リョースは幻想的な美しさを持つ赤ワインに満足し、それを部屋に居る『友人』に同意を求める。

月の光で腕しか見えないものの、その声で男性だという事が解る。

男は趣味が違うと答えて、冬木を訪れた理由を問う。

リョースから目的を聞いた男は不快だったのか、片手を机に置き魔術と思われる力で振動させ始める。

それもリョースに諌められ、時が来れば好き勝手動いてよいという事で落ち着いた。

コンコン

「入りなさい」

ガチャッ

「閣下、時計塔からの火急の知らせが入りました」

「穏やかではないな。吸血鬼でも攻めてきたか?」

「いえ・・・聖堂教会に動き有り。聖杯破壊の任を得たエンツォ・ゲッセバルネ枢機卿がヴァチカンを出立。それとほぼ同時に時計塔のエルメロイ『兄妹』が冬木に向かったと報告が」
「・・・これは、驚いたな。あの老人に私の親類が動くとは」

「予想外の事態ってヤツか?」

「ああ。どうやら予想よりも大分早くお前の出番が来そうだな」

「約束通り好きに暴れるぜ」

「いいとも。こうなった以上不安要素は、取り除けるだけ取り除くに限る・・・」

だが予想外の事態が発生した。

部屋に入って来た士官の報告で厄介な者達が動き出した事が判ったのだ。

これにより男は好きに動くと言い、リョースはそれを了承した。

誰も知らぬ所で、不穏な動きが加速し始めていた・・・



それから幾らか時間が経ち、間桐邸制圧完了直後の穂群学園の屋上では・・・

『私はリンクス(思考するもの)、星だって破壊出来る♪私はレイヴン、撃つ事しか出来ない未熟者よ♪心かき乱れ、飛び出しそう♪この想いを感じて♪この戦場で何を思うの?貴方の答えを聞かせてよ♪』

チルノがエレキギターをかき鳴らしながら英語である曲(原曲に比べてアレンジされている)を歌っていた。

 「私は騎士、悪を討ち果たす事が出来た♪私は、狩人君を捉えたら離さない♪この心が震え、今にも飛び出しそうよ♪この想いを感じて欲しいわ♪貴方は無限の宇宙(そら)みたいね、ねえ私と話をしてくれないかしら?』

屋上には防音と人払いの結界が張られているようで、咎める者は居ない。

そして当のチルノも周りに対して何の興味を抱かず、只全力で歌う。

『私は戦場を駆ける氷精、貴方をいつまでも求めている♪全ては貴方の思考の果てに♪誰かが待っている時、私は飛び出すわ♪ジェット音が響き渡り、やがて空へと溶けていった♪』

その歌は強い魔力が込められており、聞く者が居ればたちまち元気になれる力に溢れていた。

『私は愛深き女、いつまでも貴方を愛している♪貴方の想いが私の全て♪誰かが待っている時、私は飛び立つわ。貴方の為に、歌を響かせて♪』

そしてチルノは歌を歌い終える。

その顔は達成感に満ち溢れ、笑顔を浮かべていた。

「はぁ〜♪やっぱスッキリするには歌うのが一番だよね!」

パン、パン、パン・・・

「御見事。歌が上手いのね、アンタ」

「聞いてた我々も元気になったぞ」

「あれ?リンにアーチャーじゃん。どしたの?」

「あんたを探してたのよ。えーと取り敢えず・・・」

スッ

「ごめんなさい!」

「?何でいきなり謝られてんのアタシ?」

「あの時私は自分勝手な理由で貴方に喧嘩を売った・・・それを謝りたかったの。許してもらえるかは分からないけどね」

「いいよ〜」

「そんなにアッサリ!?」

「朝桜の機嫌が良かったから、仲直り出来たんでしょ?」

「え、ええ・・・散々言われたけどね」

「だったら問題無し!元々それが目的だったから良いよ♪」

「・・・」

「フッ、我々の完敗・・・だな?」

「・・・フフッ。そうね、勝てない訳だわ」

チルノが歌い終えた時、軽い拍手が聞こえた。

振り返ると其処には凛とアーチャーが居り、彼女の歌を賞賛してくれた。

そして・・・

凛はチルノに深々と頭を下げ、感情に任せた愚行を謝罪した。

それをチルノはアッサリと受け入れ、凛は心底驚いた。

チルノは元々桜と仲直りさせたかっただけであり、彼女からすれば凛を叩き潰したのはその過程に過ぎないのだ。

それを聞いた凛は頭を上げ、苦笑にながらこう思った。

ああ、最初から勝てる訳なかったんだ、と。

「さて、これからは共闘関係って事でOK?」

「OKよ。私も衛宮君の家に住まわして貰った方が良いかしら?そっちの方が都合が良いでしょうし」

「あそこはまだまだ部屋に空きが有るから大丈夫だと思うよ。シロ君にはアタシが言っとくし、アーチャーの部屋も用意出来ると思うよ」

「俺に部屋は・・・いや、言葉に甘えさせて貰おう」

「それじゃあ今はこれで解散ね。後で荷物を纏めて行くわ」

「分かった!出来るだけ早く伝えとくね!」

「了解。それじゃあね」

「失礼する」

バタン

「・・・よし!アタシもマキジ逹に合流しますか!」

和解した二人は共闘関係を実質的に結び、凛達は後で衛宮邸に行くと行って屋上を後にしチルノもその少し後に屋上を後にした。

チルノの心は、とても晴れやかだった。


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