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フェイトステイナイト〜verアイス
王の歌(前編)
日本 東京都内 高級ホテルスイートルーム

『・・・モリガンの開発状況ですが、およそ50%といったところです。半年以内には完成する予定です』

「存外手間取るものだな。もう少し速く完成すると思っていたが」

『機動兵器としては軍の開発した物の中で最大の物です。ですのでやはり時間が掛かってしまいます』

「仕方あるまい。戦争が始まる前に完成すればよい」

『・・・そこまで深刻なのですか?』

「中国の代表め、我々を侵略者などとのたまいおった。朝鮮や中東、アフリカ大陸の奴等も同じだ。いずれ、いや半年以内に必ず戦争が始まる・・・その時にモリガンが必要となる。人は力を持つ者に従う、モリガンはその象徴となろう」

『・・・必ず半年以内に完成させます』

「頼むぞ」

ガチャン・・・

深夜、都内に有る某高級ホテルのスイートルームで、ジャニックは椅子に座り机に置かれたアンティークな西洋の電話を使ってモスクワ司令部の技術主任と通話していた。

何かの兵器についてのようだが詳しくは不明で、話を終えるとジャニックは受話器を置いた。

リリリン・・・

「・・・?」

ガチャッ

「儂だ」

それから殆ど経たぬ内に再び電話が鳴り始め、訝しみながらジャニックは受話器を取る。

『敵襲です!』

「・・・何?何処の手の者だ?」

『使ってくる魔法・・・いえ、魔術とでも申しましょうか、とにかくその事から例の協会の者達であると思われます!数は魔術師30人と傭兵と思われる柄の悪そうな男達が40人で、我々と一般人の区別せず無差別に攻撃しています!』

「食い止めろ。装備も、練度も、こちらが圧倒的に上だ。これ以上被害を出さずに処理しろ」

『そ、それが・・・誠に申し上げにくい事なのですが、攻撃を受けた際に当直のガードが死亡したせいで数分間程混乱していたらしく、その間に魔術師5人と傭兵20人がエレベーターで閣下の元に向かったようです』

「ふん、こちらに向かってくるのは手練だな・・・儂自ら片付けよう。他はジェネラルとお前達に任せる」

『はっ!』

ガチャン

通話の相手は警備をしている筈のガードで、『協会』の暗殺者が大挙して攻撃を開始し、その一部がジャニックの元に向かっていると伝えた。

聞き終えたジャニックはガード達に敵の制圧を命じ、受話器を置く。

そして・・・

ガガガガガガガガガガッ!!!

バン!

「ジェラス・ジャニック元帥だな?アンタに恨みは無いが、仕事なんでね・・・死んでもらう」

ガシャッ

受話器を置いた瞬間、スイートルームの扉が大量の銃弾で蜂の巣になった後ドアを蹴破って3人の傭兵が侵入し、ジャニックに自動小銃を向ける。

が、そんな状況であってもジャニックは一切動じず、椅子に座ったまま後ろで銃を構える傭兵を見ようともしない。

ガタッ

「・・・儂を殺すか、聞き飽きた言葉だな。そう言った者達は皆屍(かばね)と化した。儂の手によってな」

「なら、俺達がアンタを殺して有名になってやるよ」

「馬鹿共が・・・」

ヒュン!

「これだから欲に駆られた愚か者というのは救いがたいのだ・・・!」

ギュイン!!

ジャニックは背を向けたままゆっくりと立ち上がる。

そしてコートの両腕の裾から両刃で通常の物よりも明らかに長く、そして豪著な王冠を被ったドクロのエンブレムが刻まれたナイフを取り出す。

そして背中を向けた状態で飛び、空中で回転しながら傭兵に襲い掛かった。

「ッ!?撃て!」

ガガガガガッ!

「遅過ぎるわ、阿呆め」

キィン!

スタッ

ブシュウッ!

ドシャッ

「ば、馬鹿な!話が違う・・・これが只のジジイの動きなわけ・・・」

「まず二人・・・そして」

クルン

ビッ!

ドズッ!

「ぎっ!?」

「3人だ」

ズッ

ブシュウ!

凄まじいスピードで襲い掛かるジャニックに対し、傭兵達は慌てて弾幕を張るが遅すぎた。

ジャニックは一発も被弾する事無く傭兵逹の前に着地し、それとほぼ同時に傭兵2人の首が刎飛ばされ、首を失った傭兵達は力無く地面に倒れる。

そして片方のナイフを逆手に持ち替えると、そのまま最後に残った傭兵の下顎から脳天までを一気に刺し貫き傭兵を殺した。

・・・ジェラス・ジャニックは過去の大戦で『狂王』と呼ばれていた。

そう呼ばれていた理由は大きく分けて2つ有り、一つは敵に対する徹底的な殲滅や粛清、虐殺等・・・

もう一つはジャニック本人の恐ろしさからである。

彼は厳格だが心暖かいな老将軍だが、その実敵に対しては信じられない程に冷酷で極めて素早く軽い動きを見せる。

ジャニックは刃物を用いた暗殺術を何よりも得意としており、それを行う為に長いナイフと長剣を二本ずつ常にコートの中に隠し持っている(その他にも専用の拳銃も有り、腕前は相当な物。又、ナイフに刻まれたエンブレムは彼自身のトレードマークで、これを見た敵が狂王と呼んだのが始まりである)。

ジャニックはその隠し持った刃物で相手を殺すのだが、それは只の側面でしかない。

ジャニックの真の恐ろしさ・・・それは、逸脱した耐久力と如何なる物でも握り潰し、打ち砕く恐るべき腕力である。

生命力の高さでは某大将に劣るものの、彼はそれ程耐久力が高い訳ではない(と言っても人類種から著しく逸脱しているのは間違いないが)。

だがジャニックはおよそ人とは思えぬ程に、硬いのだ。

例え真上から飛行機が落ちてこようが、ライトセーバーで斬り付けたられようが、決して傷つかず歩みを止めないのだ。

そしてジャニックの腕力・・・これは『恐怖』の一言に尽きる。

具体例を上げると、絶対壊れない金属で出来ているらしいエレクトロスタッフを小枝の様にへし折り、自身を暗殺しようとした葬送歌(ダージ)の名を持つ賞金稼ぎの頭を頑丈なヘルメットを装備した状態で握り潰すなどで、チルノや某大将であっても到達出来ないレベルに君臨している。

つまり、傭兵や魔術師程度では相手にならないのだ。

「しくじりやがったか!役立たずが!・・・まあいい、ぶっ殺せ!!」

ガガガガガガガガガガッ!!

キンキンキンキンキンキン!

「ふん・・・効かんな」

「んな・・・テメェ!サイボーグってやつか!?」

「只の人間だ」

ジャッ

ヒュン!

「(17人・・・傭兵は全員居るな)貴様らに付き合うつもりはない。儂の手で疾く消えるがいい」

傭兵3人を始末したジャニックがスイートルームから出て行われた事は・・・虐殺であった。

スイートルームを出た途端、残りの傭兵が一斉に発砲してくるが一切効かない。

ジャニックは無数の弾丸を受けつつもナイフから長剣(エンブレム付き)に持ち替え、飛び掛り首を刎ね、急所を突き刺していく。

その姿は傭兵逹に恐怖を植え付けるには十分であった。

「貴様で最後だ」

「ま・・・待てよ!俺を殺しても何の足しにもならねぇぜ!?」

「・・・」

「俺は只の傭兵だ、金の為にやっただけで別にアンタに恨みが有る訳じゃねえ!だから・・・」

「見逃せ、と?なんと浅ましく誇りなき男だ・・・貴様には生きている価値は皆無だ」

チャキッ

「ま、待っ・・・」

「貴様は死ね・・・!」

ザギン!!

ゴトン

ドシャッ!

そして命乞いしてまで生き残ろうとした傭兵の頭領も首を切り落とされ、傭兵は全滅した。

「ふん・・・所詮は下賎な傭兵か。当て馬程度にしか役立たなかったな」

「・・・その物言い、魔術師か」

「御名答。私はリョース・アーチボルト。『時計塔』の講師で王冠級の魔術師だ。後の四人は私のの召使い逹・・・といっても、十分に優秀な魔術師だがね」

傭兵が全滅して、時が経たぬ内に長い金髪のオールバックに仕立ての良さそうな青色の服、そして常に浮かべている笑みが特徴的な30代程の男と、赤色のフードとローブに身を包んだ人物逹が現れる。

「成程、前に聞いた事が有る。話通りなら相当な腕前らしいが・・・どれ、試してやろう」

「おっと、戦う気は無い・・・少なくとも今はな。今回は、一度貴方に会いに来ただけだ。だから帰らせてもらう」

「儂が、逃すと思うか?仮に逃げられても、下に居る兵達が見逃すまい」

ユラリ・・・

「(気迫で背中に骸骨の王が見える・・・成程、狂王の名は伊達ではないか)分かってるさとも。だから・・・前準備をしておいた」

ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・

「起爆装置・・・貴様」

「ホテルの数ヶ所に爆弾を仕掛けてある。後は、分かるな?」

「・・・魔術師は『そういった代物』を嫌うのではなかったか?」

「ごく一部はそうではないという事だ・・・さて、これ以上遅れると色々と面倒な事になりかねん。行かねばならん場所が有るのでな」

「ほう・・・儂の首が目的ではないのか?」

「老人達はそれを求めるだろうが、私は興味が無いのでね。私の目的は冬木市に有る」

「冬木だと?(あれが居る所か。ちょっかいを出すとは思えんが、念には念を入れておくか)・・・知らんな」

「ふっ、そのほうが都合が良い。では失礼する」

「・・・」

リョース・アーチボルトと名乗った男は好きなだけ喋ると去っていく。

ジャニックそれを見届けると、リョースの口にした言葉を頭の中で巡らせながら長剣をしまい、葉巻を吹かした。

その翌日の朝9時頃、間桐邸の前には多くの高級車が止まり、スーツ姿をした男達が各々様々な銃器を持って集まっていた。

数は30人を優に超え、道は完全に使用不可能になっていたが、それを咎める者は誰も居ない。

間桐邸周辺には強力な人払いと防音と認識阻害の結界が何重にも張られており、一般人が気付く可能性はほぼ皆無であった。

間桐邸に集まる男達・・・それはチルノの手の者逹だった。

昨晩、ジャニックと連絡を取り武装面でのサポートを取り付けた後、ゲオルグに間桐邸の制圧(或いは事故に見せかけて全焼させる)と存在するはずの間桐臓硯を『完全に抹殺する』事を命じた。

基本温厚なチルノだが、外道や腐敗官僚相手だと徹底して残酷になる。

その徹底ぶりは戦争末期に混乱に乗じて自分達の思うままに操れる国家を作ろうと共和国から離反した元老院議員百数十人と金で雇われた無数の兵士達(皮肉な事に彼等が使っていた兵器はコルサント星系と全く同じで、分離主義勢力とは比べ物にならない程に強かった。尚、彼等が星系軍と同じ兵器を持っていたのはチルノが普通に売り出していた為。このクローン大戦とは別の内乱は、指導者であったライオネル・ゼイエンの建国した国家から名前を取ってトランスヴァイル戦争と呼称された)を全軍を投入して滅ぼした他、ジャニックに独自に粛清させたり自分の手で粛清したり等、普段とは全く違う一面を見せる。

今回の間桐邸攻撃もその一つであった。

「ン〜、中々に壮観だねぇ」

「それに私達3人を送り込むなんて、本気中の本気ですわね〜」

「美しき乙女を手に掛ける外道め!この私が主の名の元に滅殺してくれる!」

それを率いるのは円卓騎士の中でも上位に位置するジャックス、セレナ、ブラド(全員甲冑装備済み)の3人の騎士である。

本来ならここまでする必要は無いのだが、念には念をというチルノの意向である。

「よし、攻撃を開始しろ・・・一応言っておくが、不用意に先走るなよ。確実に罠が有るからな」

「「はっ!」」

バン!

こうして間桐邸攻撃が始まった。

間桐邸内には案の定罠が仕掛けられており、剣山に魔力砲台、毒矢等多岐に渡った。

だが、それよりも厄介な存在が闊歩していた。

それは・・・

ガガガガガッ!

チュンチュンチュンチュン!

『ヴォルルル・・・』

「行くぜ、レディ!」

ゴウ!!

『ヴォルルァア!?』

「ン〜、虫退治には炎が一番だなぁ」

『ギイイィィィ!!』

「不浄な蟲め!報いを受けろ!」

ズン!

『ギャアアアアアァァァ!!!』

「この魂に・・・救い、あれ!」

ザシ、ザシ・・・

『ギチギチギチ・・・』

『キョオオオオォォォ!!』

「まあ・・・この数相手じゃ、あまり意味はないがな。全く厄介だねぇ」

「ええい!きりが無いぞ、厄介な!」

それは人の形をした蟲であった。

人の姿を模しているとはいっても虫は虫・・・

その姿は醜悪で、生理的嫌悪を掻き立てた。

この蟲・・・正式名称蟲人は、間桐臓硯が強い肉体を持つ人間に特殊な蟲を寄生させて造り出した特殊な使い魔で、高度な知能を持つ(言葉は話せないが)。

その肉体は極めて硬質で銃弾をものともしない他、素体となった蟲(カマキリやスズメバチ等)の鎌や針などの特徴を用いて強力な攻撃を繰り出してくる。

が、弱点が無いわけではなく、炎に極めて弱い他、刺突武器に弱いという弱点が存在する。

二手に別れて・・・というより、セレナ以外の全員で間桐邸の1階の制圧を行なっていると、何処からともなく現れ、襲い掛かってきた。

まるで足止めするように殺到した蟲人にはファミリーの攻撃が通用せず、実質ジャックスとヴラドの二人だけで戦っている状態であった。

「火炎弾でも使えば一網打尽なんだが、そういうわけにもいかんしなぁ」

「問題無い!我等二人が居ればまたたく間に倒せよう!」

「ま、そうだな。お前ら、倒せないでも援護はしてくれよ?」

「「了解!」」

1階制圧組は再び蟲人と戦闘を開始する。


「ふん・・・やはり攻めてきおったか小娘。予想通りじゃ」

キュオオオオォォ・・・

その頃、間桐邸の地下に存在する間桐家の悪の巣窟である『蟲倉』の中心に臓硯が立っていた。

床には臓硯を取り囲むように極めて大型の魔方陣が展開されており、膨大な魔力が溢れ出ていた。

桜に寄生していた臓硯は、チルノの性格と能力を桜の目を借りて見ていた。

臓硯とて長い時を生きており、妖精とはいえ40年も生きていない・・・自分から見れば小娘のチルノにも思慮深かさでは負けてはいない。

(今の状態における)チルノの血の気の多い性格を鑑みて攻め込んでくると予見した臓硯は、迎撃準備を取りこの魔方陣を展開し、自身が悠久の時掛けて貯めた膨大な魔力を魔方陣に注ぎ続けた。

この魔法陣はある人物を召喚する為の物で、『地球上では』臓硯以外知る者は居ない禁術であり、臓硯は自分の未来をこの召喚に賭けていた。

「魔力は注ぎ終えた・・・後h「召喚するだけ、ですわよね?」ぬっ!?」

カツン、カツン、カツン・・

「・・・何者じゃ!」

カツンッ!

「貴方に引導を渡しに来た堕天使ですわ」

魔力を注ぎ終えた臓硯が遂に召喚しようとした瞬間、声が響き渡る。

何者かと問う臓硯に対し、高いヒール音を響かせながら現れたのは、単独行動をしていたセレナであった。

「どうやってここまで来た?無数の蟲人が居った筈じゃが」

「ああ、あのゲテモノですの?少しお腹が空いたのから食べましたわ」

「食べた・・・じゃと?」

「酷い見た目とは裏腹に、味は一級品でしたわ。でも今考えると丸かじりははしたなかったですわね。本当はお皿に乗った状態で食べたかったですわ」

「カ・・・カカカ!まさか蟲人を喰うとはのう!その割には口周りが汚れておらんようじゃが?」

「口からではありませんもの。食べたのは・・・」

ズギョル!!

「影(この子)ですわ」

「・・・!!(これが影じゃと!?蟲倉の床を覆い尽くすこれが・・・)」

「本当なら貴方を食べてしまえば終わりなのですけど、流石に腐った物は食べる気になれませんわ。選びなさいな、刺し貫かれるか・・・魔法で消し飛ばされるかを」

セレナは食事を好む。

普段は口から上品に食べるのだが、極稀に影を用いて丸ごと喰らう(味覚を伝わる)。

セレナ自身はしたない行為だと自認しているのであまり使わないが、一度使えば辺りに居る生物全てを食い尽くすまで止まらないのだ(人間や天使族は食べない)。

「儂を殺すか、確かにお主なら容易かろう。じゃが・・・」

キイイイイィィィン!!

「!」

「少し遅かったようじゃな!この魔法陣は、魔力さえ貯まれば自動で召喚する物・・・最早止められんわ!さあ我が主にして原初の月の王よ!今こそ現れ、地球に完全なる平和をもたらしたまえ!!」

カッ!!

自らの勝利を確信した臓硯は、高らかに叫ぶ。

その瞬間、蟲倉は凄まじい光に包まれた。


「おお・・・なんという事だ」

「きょ、教皇様・・・どうか落ち着いて!」

それと同時刻、月面国家レイヤードの首都アヴァロン・バレー内に有る貴族・王族居住街の中心に建つジ・ヒルベルト教団本部『ファリエンヴァル大聖堂』では一人の老人が膝をつき、両手を震わせ、護衛と思われる銀色のドレスを身に纏った少女どうすればいいか分からず、戸惑っていた。

彼の名はロレンツォ・フェンデル。

月人でありながら、教団のトップである教皇の座に就いている極めて優秀な人物な他、伝記の著者としても有名である。

そしてフェンデル教皇と共にいる長いツインテールの少女はミレイナ・シャイデリア・ヒュラッセイン。

ヒュラッセイン王家の16歳の姫であり、優秀ではあるのだが、父親とは違い引っ込み思案であがり症な為、中々実力を発揮できないでいる。

しかし、どんな動物とでも心を通わせられるという希有な能力を持っている他素晴らしく高い記憶力を持っており、王族の名は伊達ではないという事が分かる。

赤を基調とした立派なローブと長い帽子を身に付けたロレンツォ教皇は、礼拝に訪れたミレイナを礼拝堂に案内した所で様子がおかしくなり、恐らくだがロレンツォは地球で何が起きているか理解していた

「地球でエヴェダムの門が開いた・・・陛下が蘇られる!」

「えと、エヴェダムの門・・・って何ですか?」

「知らぬのも無理はない。知っているのは月では私ともう居ないがアナスタシア枢機卿、3大王家の当主逹、国家元首、五老聖のみだからな。エヴェダムの門とは、死したヴィンセント陛下を蘇らせる為だけにある術者が造り上げた禁術だ」

「禁術・・・ですか?」

「事の始まりは陛下の崩御とメシュティアリカ様の王位継承だ。当時私と彼は王直属の神官で、側近の様な事をしていた。だが、陛下が身罷られると彼は変わってしまった。戦争終結後、新たに王となったメシュティアリカ様は母君のディナシア王妃と同様にお体が弱く、陛下がメシュティアリカ様を溺愛して危険な仕事を一切させなかった事もあり、経験不足なのは目に見えて解った。陛下への忠誠心が異様に高かった彼はメシュティアリカ様を王と認めず、決してしてはならない事をした」

「・・・」

「それは・・・メシュティアリカ様への反逆だ。死霊や蟲の扱いにとても長けていた彼は、強大な魔力を用いて無数の死霊や蟲を使役し、当時まだ聖王国の王都として機能していたロマ・ディナシアを襲わせた。突然の襲撃に戦争の傷が癒えていない軍では太刀打ちなど出来るはずもなく、ロマ・ディナシアは廃墟と化し、メシュティアリカ様も攫われてしまった」

「教皇様の本にも載っていた『王が地に堕ちし時』・・・でしたよね?文献が少なすぎて名前ぐらいしか聞いた事がなかったんですけど」

「記述を書く者が死霊に殺されてしまったらしくてな。それに、あの時の事を知っている者も今では殆どおらん故、仕方のない事だ・・・運良く無事だった私は、リヒター様、ジェラール様、五老聖の8人のみで彼が潜んでいると思われる『アーケイレノス神殿』に向かった。蟲や死霊と戦いつつ最深部で見た物は・・・巨大な魔方陣の中心に横たえられたメシュティアリカ様と邪悪な言葉を唱える彼が居た。我々は全力でそれを阻止し、メシュティアリカ様を助け出した。が、彼には逃げられてしまった上、小型の宇宙船を奪われ地球に降下していった事でこの事件は一応の決着を見た。そのせいか、我々は八英雄と称され、我々を崇拝する宗教や神殿が出来てしまったようだがな」

「8英雄教団ですね。小さい頃からよくパパに連れていってもらいました、『お前のお爺ちゃんは英雄なんだぞ』って何度も言われました。今でも神殿には行ってます」

「御父上は陛下の信奉者ではないからな・・・解決後、エヴェダムの門を調べると信じ難い事が分かった。エヴェダムの門は、馬鹿げた量の生命エネルギーと魔力を糧として起動する物で、メシュティアリカ様はその仕上げに使われようとしていたのだ。メシュティアリカ様を生贄としようとする前は捕虜の月人を使っていたようで、おびただしい遺骸が見付かった。我々8人はエヴェダムの門の術式をロマ・ディナシアのある場所に封印し、関係者に口外する事を固く禁じた」

「・・・王都を崩壊させ、王の命を弄んだ。教皇様に今教えられた事以外は本に書いてあったので大体わかってます。でも、本には『邪悪なる魔術師』としか書かれていなかったし、教皇様は『彼』としか呼ばなかったので名前が分かりません・・・何という名前なんですか?」

「マキリ・ゾォルケンという。もし、ゾォルケンが今も生きているというなら、エヴェダムの門を再度起動出来るのも頷ける」

落ち着きを取り戻したロレンツォ教皇は立ち上がり、ミレイナに聞かれる形でエヴェダムの門にまつわる過去の逸話を語り出す。

王都の崩壊、王の誘拐、アーケイレノス神殿での死闘・・・

大半はミレイナも知っていた物だったが、エヴェダムの門や門を起動するのに必要な生贄・・・そしてマキリ・ゾォルケンという名の術師の事は一切知らなかった。

「陛下が地球で蘇られた・・・この事は五老聖に伝えねばならんな。ミレイナ、すまないが失礼させてもらうよ」

「あ、はい・・・行っちゃった。ミレイナもパパに伝えに帰ろう」

ピッ

「あ、パパ?大事な話が有るんだけど・・・」

ロレンツォ教皇は足場に礼拝堂を去っていき、ミレイナはこの事父親に知らせるべきだと考え、携帯電話ににた通話装置を起動する。

歯車は少しづつ、そして確実に動き始めていた。

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あきゅろす。
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