フェイトステイナイト〜verアイス
赤と蒼
月 月面国家レイヤード 首都アヴァロン・バレー 議事堂内五老聖の間
月軍、元老院双方の最高権力者である五老聖専用の部屋であるこの白に統一されたこの場所に、5人の老人が居た。
特徴を現すならば、頭に痣のある白い口髭を蓄えた男 黒い帽子を被った左目付近に傷のある巻き髪の杖を持った男、長い白髪と長い白髭の背の高い男、坊主頭で眼鏡を掛け刀を手入れしている白い着物姿の男、金色の髪と金色の髭体格のよい大柄な男である。
「冥王の墓所に亀裂が入ったらしい」
「むう・・・それはいかんな。態々メシュティアリカを諭して建造させた意味が無くなってしまう」
「だが、公にするのは避けねばならん。元老院に圧力を掛けよう」
「元老院議長は頑固な男だ。お前の娘は議長の秘書だろう?何とかならんのか?」
「ふん、なるようになればよい。どのような結果になろうとも、輝夜・・・地球に流されたバカ娘よりは遥かにまともだ」
順番に痣のある男、杖を持つ男、長身の男、体格のよい男、刀を持った男が言葉を口にする。
「とにかく、これ以上状況の悪化は避けねばならん。月人至上主義者やギンガナムの件もある」
「月光蝶システムか・・・月人至上主義者共はそれを狙っていると聞く」
「アレは人の手に余る物。連中に絶対に渡してはならん」
「今は見守るとしよう。奴らが表立って動かん限り、我々は動けんからな」
「もし連中が地球に降りるならば、儂が赴き片付けよう。この刀でな・・・」
五老聖は今しばらく見守る事にした。
そして有事の際には動くと断言した男の刀には鋭い目付きをした男が映し出されていた。
ところ変わって穂群原学園2年C組ではチルノが転入の挨拶をしていた。
「今日から転入する事になったチルノ・トレバーです!よろしくね!」
あの後チルノはフェラーリ・612スカリエッティで学園の近くの駐車場に向かい其処にフェラーリを停め、そのまま学園に向かい手続きをした後転入生として教室にに入った(士郎と同じクラスになったのは完全な偶然である)。
「それじゃあ、空いている衛宮君の隣の席に座ってね」
「はい」
偶然クラスの担任であった大河に促される形でチルノは席に向かう。
本人は全く意識していないのだが、席に向かうチルノの歩き方は極めて魅力的で、極一部の者以外はその姿に釘付けとなった。
「よいしょ・・・よろしくね、シロ君」
「まさか同じクラス、しかも隣の席になるなんてなぁ。後で友達を紹介するよ」
「おっけ〜」
その後、授業が始まったのだが、その際のチルノはまさに完璧であった。
元々チルノは科学者である為、知識を蓄える事を大いに好む。
その為分からない(というより知らない)日本史等について何度でも質問し、それを凄まじい速度で吸収していくのだ。
尚、日本史等の日本特有の教科は銀河と殆ど相違が無く、問題なくその頭脳チートぶりを見せ付けた。
そして・・・
「チルノ、紹介するよ。親友の柳洞一成だ」
「よろしく頼む、トレバーさん」
「チルノでいいよー」
「む?そうか・・・ではチルノ、お前には傾国の美女のような雰囲気が有るのだが、もしや九尾の妖狐ではあるまいな?」
「へ?何それ?」
「・・・自覚が無いのか?さっき席に座る時にクラス中の男子が魅了されていたのだぞ?」
「そうなの!?じゃありゅーどー君も・・・?」
「いや、俺は寺の子だからな。そういった物を防ぐ術は習得している。衛宮も魅了されてなかったんだろう?昔から興味が無いようだしな」
「・・・すまん、一成。実は俺も魅了されてた」
「ええ!?」
「なんと!?」
昼休みになり、チルノは士郎から親友の柳洞一成を紹介される。
挨拶もそこそこに、一成はチルノが『九尾の妖狐ではないのか』と言ってくる。
勿論チルノはそんな物ではないし、何か怪しい術を使った訳ではない。
チルノ本人にも溢れ出る魅了スキルが制御出来ない上、それを意識出来ていないのだ。
元々妖精という物は、力を付けていくにつれ成長し、美しくなっていく。
チルノもそれに漏れず、成長し美しくなった時、突発的に魅了スキルが発現したのだ。
最初は戸惑っていたが、ある程度の年齢になると(無意識にだが)完璧に制御出来るようになり、困った事態に陥る事は無くなった。
が、今回若返った事により制御が出来ずに実質暴走状態に陥っているのだ(暴走と言ってもいつもより男が寄ってくるだけだが)。
「うーん・・・男の子にこんな事言われるの滅多に無いから照れるなぁ・・・まぁこの話はさておき、りゅーどー君、最近変わった事はない?」
「切り替えが速いな・・・変わった事、と言えるか解らないが幾人か居候が増えたな」
「居候?」
「一人はこの学園で教師している葛木宗一郎。次にその奥方。最後に武芸者と思われるオルギュス殿だ」
「・・・りゅーどー君の家でお世話になってたんだ・・・放浪癖が有るのも考え物だよね〜」
「知り合いだったのか?」
「うん、身内。りゅーどー君ゴメンね〜その内フラっと居なくなるから!」
「構わんさ。オルギュス殿には色々と世話になっている」
「そうなんだ・・・あ、そろそろコウバイ?って所に行って昼ご飯を買ってこなきゃいけないから行ってくるね」
「うむ。俺は衛宮が色恋に興味を持った事が嬉しいので、そこらへんを衛宮から聞き出そうと思う」
「マジかよ!?」
「アハッ!楽しんで頂戴ね!」
話が終わると、チルノは席を立ち教室の入口に向かう。
「やあ可愛いお嬢さん。僕は間桐慎二っていうんだけど一緒に昼食でもどうだい・・・って、あれ?」
そこに士郎の友人の一人である間桐慎二が現れ、一緒に昼食を取らないかと持ちかけてきた(体の良いナンパである)。
が、チルノはそれをガン無視して去っていき(その時チルノは購買の場所が何処だったかと考えていたので、無視した訳ではなく単に聞こえていなかっただけである)、一人残された慎二の姿に哀愁が漂っていたのは言うまでもない。
数分後・・・
「うう・・・まさかコウバイがあんなに人で溢れてるなんて・・・なんにも手に入らなかったし、反射的に蹴っ飛ばしちゃった人は大丈夫かなぁ?」
購買というのは、得てして戦場と化しやすい。
生徒が我先にと好みの食べ物や飲み物を奪い合い、勝者と敗者が生まれる。
チルノも敗者の一人で、何も得る事が出来なかった。
しかも人の波に翻弄されているさなか胸を揉まれ、ビックリしたチルノが男子生徒を蹴っ飛ばしてKOするという事件も発生した(その男子生徒は偶然つまずいて胸を揉んだ為全く他意は無かったのだが、反射的に放たれた後ろ蹴りが男子生徒の股間をクリーンヒットし、痛みととてつもない衝撃を受けて吹き飛び壁にぶつかって気絶した。因みに、既に保健室に運ばれている)。
「あ〜あ・・・お腹すいたなぁ。無断で学校から抜け出すのは流石に不味いし、我慢するしかないかなぁ・・・はぁ〜」
「お?そんなに落ち込んでどうしたんだ?」
チルノが途方に暮れていると、後ろから声を掛けられる。
「え〜と・・・あなたは?」
「あたしは3年A組蒔寺楓。男子が噂してた転入生ってお前だろ?」
「多分そうだと思うけど・・・何の用?」
「いやな?購買で大勝ちしてクラスに戻ろうとしたら、何かえらい落ち込んでるのを見付けてな?スルーるのもどうかと思って声を掛けたんだ。で、何を落ち込んでたんだ?」
「生まれて初めてコウバイに来たんだけど、何も手に入らなくて・・・」
「そりゃ災難だったな〜」
「うう・・・お腹減ったなぁ」
「・・・一緒に食べるか?あたしの友達も居るけど」
「ほんと!?ありがとう!このままじゃ死んじゃう所だったよ〜!!」
「それじゃあ・・・屋上で食べようぜ。友達を連れてくるから先に行っててくれ」
「オッケ〜♪」
10分後・・・
「おいし〜!本当にありがとうね!」
「いいって!困った時はお互い様ってな!」
チルノは蒔寺とその友人である氷室鐘、三枝由紀香と一緒に食事を取っていた。
チルノの性質は三人に合ったようで、すぐに打ち解けられた(蒔寺をマキジ、氷室をかねちー、三枝をゆきちゃんと呼んでいる)。、
「へぇ〜チルノはイタリア出身なのか」
「うん。だけど英語や日本語も話せるよ」
「うむ、現に今話しているからな」
「そういえば、チルノちゃんって兄弟とかいるの?」
「兄弟は居ないよ。婚約者は居るけどね(実際は結婚して子供も居るけど)」
「こ、婚約者!?」
「う、羨ましい!!」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「ちょ、アタシばかりに聞くのはフェアじゃないって!三人の事も聞かせてよ!」
「ん?そうだな〜・・・あたしは詠鳥庵(えいちょうあん)っていう呉服屋が実家だぞ」
「私の父はこの冬木の市長だ」
「私は普通の家の生まれだよ」
「見事にバラバラ・・・ってか、呉服屋!?ねえねえ和服とか有る!?」
「まあ呉服屋だからな」
「アタシ、和服を着て見たかったんだ〜♪」
「・・・すまん、それは無理だ」
「え〜何で〜?」
「別に着せるのは問題無いんだよ。でも、チルノが着ると・・・色々とアウトなんだよ」
「どのへんが?」
「どのへんが、だと?その馬鹿デカいが胸だよ!ちっくしょう、何で外人ってのは皆胸がデカいんだ!半分あたしによこせ!!」
「何その八つ当たり!?全然理由になってない・・・って、バカ!いきなり胸を掴むな!痛たたた!」
「止めんか蒔の字」
ゴスッ
「オウフ!?」
「さて、蒔の字が大人しくなった所で、私的に和服を着るべきではない理由を考えてみた」
「ちょ、おま・・・脇腹にひじ打ちはねぇだろ・・・」
「聞こえんな・・・続きだが、理由として挙げられるのはトレバー女史自身の容姿と魅力だろう。これは仮説だが、過去に異性が群がってきた事は無いか?」
「よく知ってるね〜。今も歩いていると男の人がすごい数声かけてくるんだよね〜」
「それが問題なのだ。詠鳥庵で和服を買ったら、恐らくそれを着て帰るだろう?そうするとその姿に魅了された者逹が集まって混乱状態になる」
「じゃあ家で着るのは良いんだよね?」
「そういう事だ。家で着る限り、着崩そうがなんだろうが問題無い」
「成程・・・じゃあそうするね!ありがと、かねちー」
「うむ・・・もうそろそろ教室に戻った方が良いな。蒔の字、起きろ」
「いや、痛くて動けないんですけど・・・」
「もう一発行くか?」
「よし、教室に戻ろう!」
「蒔ちゃん・・・」
「マキジぃ・・・お詫びに今度甘い物を奢りなさいよ!」
「え〜!?」
「少しは申し訳なさそうにしろってのバカ!」
「わ−ったよ!・・・明日は一緒に購買に行こうぜ!じゃあな!」
昼食は色んな事を話し、ふざけ合い、楽しい雰囲気のまま終わり、三人は帰っていった。
「アタシも帰ろうかな・・・アレ?」
チルノも教室に戻ろうと扉に近づくが、何か違和感を感じる。
「壁から何か感じる・・・解析!」
シュン!
「これは・・・ギリシャ神話で描かれていた、形なき島を覆った血の結界?って、事は・・・サーヴァントの中にメドゥーサが居る?」
違和感を感じたチルノは辺りを調べ始め、一番怪しい壁を調べると何かの魔方陣が現れ、チルノはその魔方陣が自分の知っている物だと確信した。
チルノは、ジェダイ時代から任務で星に長期滞在するたびにその星の歴史を根ほり葉ほり調べる事を好む。
それは地球に来ても同じで、ギリシャ神話や北欧神話などあらかたの歴史は調べ終わり頭に入っていた。
その為すぐに確信が持てたのだ(前に別の星でも似たような代物を見たというのも有る)。
「このタイプは、一つオーバーロードさせれば全部おしゃかになるはずだから・・・よっと!」
バチッ!!
ピシッ・・・
パキイイィィン!
「これでオッケー!それじゃあ教室に戻りますか!」
魔方陣を修復不可能なレベルまで破壊(正式には自壊だが)すると、機嫌良く校舎に入っていく。
これによりえげつない結界は消滅し、メドゥーサのマスターは大いに混乱するはめになるが、チルノからすれば知ったこっちゃないしのであった。
「あ〜楽しかった!学校て最高だね!!」
「そりゃ良かった・・・疑問なんだが、チルノは学校に通った事は無いのか?」
「無い訳じゃないよ〜。まあアタシの場合は騎士の養成学校だけどね。内容は普通の学校と大体同じだけど、地球(ここ)でいう中学校くらいまでしか無かったからね〜。卒業したらそのまま戦地に送られるってのも珍しい話じゃなかったんだよ?実際アタシがそうだったしね」
「そうだったのか・・・そういえば、結界用の魔方陣を見付けたって言ってたがやっぱ探したほうがか?」
「そこらへんは抜かりないよ!結界用の魔方陣はね、昔になればなるほど方式や術式が複雑になるんだ。だからそれだけ結界も強力になるし、複数設置された場合は設置された魔方陣を当時に破壊しないと無力化は出来ないの。でも弱点が無い訳じゃなくて、複数の魔方陣が構築されると全ての魔方陣が一斉にリンクされる。だから許容量を超える魔力を一度に注ぎ込めば、勝手に自壊して消滅しちゃう訳」
「強力なのも考え物だな」
「そういう事♪」
魔方陣を破壊した後、チルノは午後の授業を満喫した(元々勉強は大好きである為、尚更である)。
そして授業が終わり、、二人は帰る為に廊下を歩いていた。
「見付けたわよ、衛宮君」
階段に差し掛かった時、上の階段の踊り場から声を掛けられる。
「・・・遠坂?」
「・・・」
声を掛けてきたのは凛であった。
「衛宮君、別れる時に逝ったわよね?今度会ったら敵同士だって。それを知った上でノコノコと・・・覚に悟は出来てるんでしょうね?」
キュイイィィン・・・
二人を見下ろす凛は、冷たく冷酷な表情で睨みながら言葉を続け、右腕を掲げ代々受け継がれてきた魔術刻印を発動させる。
「へ〜それがトオサカの魔術刻印なんだ!友達の刻印に比べれば不格好だけど」
「・・・不格好?私が父祖から受け継いだ魔術刻印が・・・不格好、ですって!?」
「それに魔術師ってのは家系が古ければ古いほどエリートってされているらしいけど・・・それって進歩が無いって事でしょ?家系の新しい魔術師はゴミクズ同然ですよ〜って?ハッ、ばっかみたい!そんなボンクラ貴族みたいな連中なんて、一掃したほうが世の為ってね!」
「・・・ッ!!!」
「元々、魔法の出来損ないで身を固めただけで満足して偉そうにしてるってのが間違いだよね!だから魔法に至れないって何で気付けない訳?・・・あ〜そっか〜!だから『魔術師』なんだ〜!ごめんごm「黙れッ!!!!!」」
魔術刻印を発動させた凛に対し、チルノは挑発じみた言葉を口にする。
凛はたちまちに冷酷な表情から怒りの表情に変わっていく。
それは冷静さを失わせるチルノの策であったが、その中には多分に毒が含まれていた。
元々チルノは魔術師に対して良い感情を持っていなかった。
それが朝に聞いた桜の話で嫌悪から侮蔑と失望に変わった。
そして凛に対してもそれは同じで、強い怒りを感じていた。
「ここまで腹が立ったはアンタが初めてよ!!魔術が魔法の出来損ないで、魔術師は消えた方が世の為?ふざけるんじゃないわよ!妖精で魔法使いのアンタに、人間の魔術師の何が解るってのよ!?」
「魔術師のくだらない前口上はどうでも良い。来なさいよド三流、格の違いを見せてやる」
「・・・アーチャー!!」
スッ・・・
「此処に居る」
「衛宮君の相手をして!私はあの妖精の相手をする!」
「な・・・無茶だぞ凛!実力差が有りすぎる!」
「黙って従いなさい!令呪を使われたいの!?」
「・・・クッ!」
チルノの挑発に乗った凛がチルノと戦おうとするをアーチャーだったが、凛の横暴な命令には逆らえずやむを得ず命令に従う。
凛は完全に冷静さを失っていた。
又、チルノが凛に敵愾心を持つ様に、凛もチルノに並々ならぬ敵愾心を持っていた。
凛はそれなりの歴史を持つ遠坂家の現当主である。
幼い頃から天才持て囃された彼女は、五つの属性全てを兼ね備えた「五大元素使い(アベレージ・ワン)」と呼ばれる超一級の魔術師に成長した。
だが、それが知らず知らずのうちに凛に傲慢さと高過ぎるプライド、そして遠坂家の格式による奢りを植え付けてしまい、無意識の内に格下の相手を見下す様になってしまう。
そのさなか、チルノがイレギュラーサーヴァントとして召喚された。
最初凛は妖精である彼女に強い興味を持ち、友好的に接したが、チルノが魔術師を貶す発言をした事によりプライドを傷付けられ、強い怒りを抱く。
後に和解するも、凛の怒りは治まっていなかったが、更に彼女を追い詰める事が発生する。
それは、チルノ本人の圧倒的な戦闘力である。
凛ではバーサーカーに手も足も出なかった。
しかし、チルノはそれを容易く叩きのめし、生け捕りにしてみせた。
凛はその姿に今まで感じた事の無い劣等感と嫉妬を抱いた。
その姿だけではない。
凛はチルノの全てにに嫉妬したのだ。
チルノの容姿、無限の財力と権力、心身の強さ等・・・
嫉妬を抱く項目には事欠かない。
が、それは無理からぬ事である。
かつてチルノが軍を率いていた時も、似たような者達が数多く存在したのだ。
このように、心に黒い物が芽生え、それを解消する方法が分からないまま今日を迎え、対峙したチルノから浴びせられた自分を完全に否定するような言葉によりチルノに向けられた怒りや劣等感、嫉妬は憎悪に変わってしまった。
信じられない事だが、凛は魔術師としては天才的であっても、精神的な強さや感情をコントロールする能力は半人前以下だったのだ(これは古い家系の出の魔術師にはよく起きる問題である)。
この事を彼女の父親やその師が知れば、大いに嘆くことだろう。
もっとも、当の凛はそのような事は頭の片隅にも無く、只チルノを叩き潰す事しか頭に無いのだが。
「シロ君、アーチャーの相手は・・・」
「俺がやるよ。大丈夫だ、何とかしてみせる」
「オッケー。それじゃあ・・・行くよ!!」
その言葉を合図となって、戦闘が開始される。
アーチャーは士郎を引きつける形で此処から離れていき、士郎もそれを追いかけていく。
「「ガンド(アイシクルランサー)ッ!!」」
ドンドンドンドンドンドン!!
ガヒュヒュヒュヒュン!!
残された二人は全く同じタイミングで指を指し合い、凛は得意な魔術であるガンド(フィンの一撃)を、チルノは氷の槍を撃ち出すアイシクルランサーを発射する。
お互いの攻撃は互いにぶつかり合って相殺され、それによって生じた煙がチルノの視界を奪う。
「さて、どう攻めてくるかなっと・・・」
「正面からよ!」
ヒュッ
「シッ!」
ヒュイン!
ガシィ!
「「・・・ッ!」」
シュッ、ガガガガガッ、パシッ、ガシィ!
「当たれ!」
ドンドンドンドンドンドン!
「直線的ににしか飛ばない弾幕如きに当たるか!」
シュンシュン、タン!
チュンチュンチュンチュン!
「ウロチョロと・・・動くな!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!
「ああ・・・もう!うざったい!!」
タン、シュンシュンシュン、ダンダンダン!
パシッ!
「スモークグレネード&スタングレネー・・・」
「取ったァ!!」
「引き寄せられた!?させるかッ!」
ヒュイン!
チッ・・・
「崩掌ぉ!!」
ガッ!
「〜ッ!この程度じゃ・・・!?」
ドン!
ガシャアン!!
「ッ!!」
「このまま一気に潰す!」
「(身体が埋まって右手以外動かない!・・・でも!)させるかっての!」
バン!
パキィン!
「氷の剣山!?それなら・・・炎で焼き尽くす!!」
ボウ・・・
シュボァ!!
「・・・!!」
互いの視界が奪われてから数秒経ち、どう来ても良いように身構えていると凛が煙の中から飛び出してきて殴りかかる。
短い間ではあったが激しい格闘戦が展開され、ある程度すると凛は距離を取り手でフィンの一撃を乱射する。
チルノはそれを凄まじいサイドステップとバク転を駆使して回避する。
それでも凛は攻撃を避けるチルノに対して怒りを深めながら、怒りによって威力とスピードが倍増したフィンの一撃を乱射し続ける。
速度を上げ、チルノは更に速度を上げてバク転、サイドステップ、壁をつかった八艘飛びで回避し続けるが、いい加減に面倒になったのかどこからかスモークグレネードとスタングレネードを投げようとする。
しかしそれは適わなかった。
凛のフィンの一撃はチルノを徐々に引き寄せる為であったらしく、両グレネードを捨てて両腕で凛の拳を受ける事になる。
その前にチルノは刃物の様に鋭い蹴りで迎撃するが、頬を掠めただけで終わり、受けた技が八極拳の一つ『崩掌』であった為、時間差で吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、その衝撃で壁に埋まってしまう。
凛が追い打ちをかけようと近づいて来るのを、チルノは唯一動く右腕で壁を叩き多数の氷の棘を自分目の前に展開する事で迎撃する。
それを凛は巨大な炎の竜巻を起こし、壁に埋まったチルノごと焼き尽くした。
「はぁ・・・はぁ・・・勝った!!」
一連の攻撃を終えた凛は噴き出す汗を拭いながら乱れた息を整える。
際限無しに乱射したフィンの一撃。
そして魔力の操作なしで放った炎の竜巻。
その二つの魔術の行使で、凛の魔力は殆ど使い果たし強い疲労感に襲われていた。
だがそれでも、チルノを倒した喜びからすれば瑣末事であった。
だが、凛は妖精といくものを理解しきれていなかった。
妖精とは星の自然が具現化した存在である。
その為、『星の自然が存在する限り、消し炭になろうが細切れになろうが瞬時に再生』する。
その再生速度は1秒にも満たず、致命傷を受けてもそれはチルノの行動を妨げる事にはなり得ないのだ。
つまり・・・神々であってもチルノを『殺す』のは絶対に不可能なのだ。
何しろ大戦時には氷の悪魔、動く災厄扱いを受けた事も有るチルノである。
凛よりも遥かに高位な術者との戦いも少なくなかった為、地球では極めて強力な魔術でもチルノを焼き焦がすのには全然足りなかった。
「いったいなぁ・・・」
パキン・・・ガシャアン!
「!!!?」
そしてチルノは動き出す。
炎を凍らせて砕き、廊下全体の温度を急激に下げながらゆったり歩きながら凛の目の前に現れる。
「それに服が汚れちゃったじゃない。お気に入りだったのに・・・どうしてくれるのよ?」
「んなッ・・・嘘でしょ!?」
現れたチルノは幾らか汚れが有るものの、全くの無傷であった。
その表情は笑顔であったが、雰囲気その物は凍えるように冷たく言葉遣いも元の姿の物に戻っていて、縛ってあった髪もほどけていた。
まるで何かスイッチの入った様な変わりようである。
「星の自然を侮らないで頂戴。その程度で焼き焦がせると思っていたの?私を焼き焦がすなら、太陽でも持ってきなさい」
「正真正銘の化け物だった訳か・・・!!」
「化け物、か・・・聞き飽きた言葉ね。そうい言った相手は軒並み殺してきたけど、貴方には聞かなきゃならない事が有るから許してあげるわ。その代わり・・・」
スッ
「半殺しよ」
「ッ!!9番・・・」
「ダージ・ゼロ(葬送歌・零)」
パチンッ・・・
チルノが指を鳴らした瞬間、凛は目の前に居るチルノの姿が一瞬変わった様に見えたが、それを確認する事無く凛の視界は漆黒に塗り潰された。
キン・・・キキキン、ガキィン!
「ふっ、はぁ!」
「ぬっ!」
キンギャリィキキィン!!
「うおおおおッ!」
「チッ・・・!」
チルノと凛が交戦している時、士郎ちアーチャーも戦いを繰り広げていた。
こちらは魔術戦は無く、終始白兵戦であり、アーチャーは愛用の双剣、士郎はチルノから渡され、投影した双剣で戦い続けた。
最初、アーチャーは完全に手を抜いて戦うつもりdrいたが、双剣を投影した士郎は驚く程強く、無闇に手を抜けば危険だと判断したアーチャーはてを抜かずに戦う。
そして士郎も、何故アーチャーと渡り合えているか分からなかった。
実は士郎は無意識に双剣の使い手の動きをトレースしていたのだが、それを士郎は知るはずも無かった。
ガギギ・・・
「驚いたぞ!これ程までに強いとはな!」
「俺にだって分からないさ!でもな・・・チルノを手助けする為に、負けられないんだよ!!」
「・・・失望したぞ衛宮士郎!まさか人妻に手を出そうとするとは!」
「な・・・何言ってやがる!?そんな訳・・・」
「いいか!惚れるならフリーの娘にしろ!貴様の後輩とかな!」
「ッ・・・何でお前にそんな事言われなきゃならないんだよ!」
最初の内は真剣に戦っていた二人も、次第に真剣味の無い話を始める。
下手をすれば怪我では済まないというのに、器用な物である。
ドオオオォォン!!
その時、凄まじい爆音と共に校内が揺れる。
「何だ!?」
「これは・・・いかん!!」
シュン!
「な・・・待て!!」
揺れが収まると、何かを感じたのかアーチャーが慌てた様子で凛とチルノの居る場所に向かっていく。
士郎もそれを追って走り出した。
「かはッ・・・」
自分の視界を取り戻した時、凛は仰向けに倒れ、何度も血を吐いていた。
凛には何が起きたか分からなかった。
視界が塗り潰された後、身体中が押し潰される様な感覚と痛みに襲われ倒れたのだ。
「う・・・げほっ!!」
バシャッ
「ぐ・・・あ・・・(何、今の?一瞬でこんなボロボロにされるなんて・・・)」
「気絶してないわね。聞くだけ聞いたら治療でもなんでもしてやるから、質問に答えなさい」
「・・・ッ」
「何故、サクラを助けようとしなかったの?」
「なん・・・ですって?」
「妹を助けようとしない姉か・・・反吐が出るわね」
「何を・・・桜に何が有ったってのよ」
「教えてあげるわ。胸糞悪い話をね」
説明中・・・
「そんな・・・桜がそんな目に・・・」
「これが貴方達遠坂家やらかした事の結末よ。サクラを汚し、傷付けたのは貴方達・・・自分達が如何に愚かで短絡的な行動を取ったか解るわね?」
「わ、私は・・・!!」
チルノから桜の置かれた境遇を聞いた凛は愕然とし、絶望した。
自分は姉であるにも関わらず、大事な妹が置かれた状況を知ろうともしなかった・・・
その事は凛の中の憎悪を消していき、代わりに後悔と悲しみが心を満たした。
「姉妹仲を修復したかったら、後は自分で何とかする事ね・・・ああそうだ、これを飲みなさい。次の日には全快している筈よ」
カラン
「・・・栄養ドリンク?」
「固形物よりは飲みやすいでしょ?」
「・・・そうね」
チルノにた対する敵意が無くなった凛は、チルノの取り出した治療薬を素直に受け取る。
シュン!
「おお、ようやく見付けたぞ御大将!危うく犬死ぬ所だったぜ!」
「私(わたくし)疲れましたわ〜」
「フェンリルにセレナじゃない。何で此処に居るのよ?」
「ゲオルグに頼まれたんだよ。念の為にってな・・・まあ、道を間違えて今着いたんだが」
「犬のくせに方向音痴なんて笑えますわ〜」
「俺は犬じゃねえ!狼だッ!」
「どっちも似たようなものですわ〜。というか、私の転移魔法を使ったら一発でしたわね〜」
それから少しすると、二人の男女が現れる。
男性の方は、首から上が銀色の毛並みを持つ狼で緑色の軍服の様な服の上に黒色のロングコートを着て、黒色のブーツに手袋、目にはサングラスを掛け葉巻をくわえており、女性の方は美しい金髪を腿辺りまで伸ばし、チルノと同等かそれ以上有る胸を持った美女で、黒を基調としたきらびやかなドレスを身に纏っている他背中には黒色の羽が生えていた。
「凛!!」
そこに士郎との戦いを放棄したアーチャーが駆け付ける。
「凛は生きてるわよ。まあボロボロだけど・・・連れていきなさい。そして凛が持っている薬を飲ませて休ませるの。そうすれば明日には動けるから」
「・・・そうか。自分のマスターを非難するのはアレだが、今日の凛は冷静さがまるで無かった。よく言い聞かせるとしよう・・・ではな!」
シュン!
アーチャーはチルノと幾らか言葉を交わすと、凛を抱きかかえて直ぐ様その場から去っていった。
「待て!・・・逃げられたか、くそ!」
「お帰り。ちょっち遅かったわね」
「何だか随分慌ててたみたいだったな・・・って、チルノいつの間に髪を下ろしたんだ?後、この二人は誰だ?」
「ああ、これ?ちょっと待ってね」
キュッ
「ゴホン、あーあー・・・うん、よし!これで元通り♪二人については家に着いてからでOK?」
「いや、良いけど・・・このボロボロの廊下はどうするんだ?」
「あの神父がやってくれるでしょ?その為の監督役なんだし」
「・・・大丈夫か?」
「そんな事どうでもいいから帰るよ!ほらほら行った行った!」
「お、おう」
「はぁ・・・疲れたぜぇ」
「私達殆ど役に立ってませんわ〜」
アーチャーが去った後、少し遅れて士郎が到着する。
少し話した後、チルノは髪をポニーテールに直し、3人を引き連れて帰路に着いた。
それから約1時間後、新都のあるレストランでは・・・
ガシャアン!
「ふっ!」
バキャッ!
「何体来ようとも同じよ。竜牙兵(コルキス)じゃ傷一つ付けられないわ」
「くっ・・・!」
パチュリーとサーヴァントであるキャスターが戦闘を繰り広げていた(パチュリーが竜牙兵をひたすら倒しているだけなので、戦闘とも言えないが)
探索の為に町に繰り出したパチュリーは、色々と調べながら歩き回り、休憩しようと近くに有ったレストランに入る。
そして幸か不幸かキャスターが魔力の吸収を始めたのだ。
「そろそろ魔力が尽きてきたじゃない?ただでさえ神代の魔術は魔力を多く消費する・・・いくら竜牙兵だけを使ったとしても、長くは持たない。そうでしょ?コルキス王の娘『王女メディア』」
「(私を知っている、か。一体何者かしら?)・・・そうね。癪だけど魔力はあまり残ってないわ。だから・・・」
クン
ガチャ・・・
「一気に片付けさせてもらうわ!」
戦闘状態に入ってから十数分経ち、キャスターの魔力は底を尽きかけていた。
キャスターはそれを自覚していたので、転移魔術一回を残してそれ以外の魔力を全て竜牙兵に注ぎ込み、数で押し切ろうとした。
「ふん・・・」
カチャ・・・
ダララララララララッ!!
「なんですって!?くっ・・・」
パキュン!
「ぐあッ!!」
が、やはりというか数で押し切る事は出来なかった。
パチュリーがスカジャンの中からモーゼル・シュネルフォイヤーを取り出し、群がる竜牙兵に弾をばら撒いたのだ。
モロに食らった竜牙兵達は一瞬でバラバラになり、驚いたキャスターは直ぐ様逃げ出そうとする。
しかしそれもスカジャンから新しく取り出したモーゼル・ミリタリー(レッド9)カスタムを取り出しキャスターの左肩を撃ち抜いた。
「逃がしゃしないわよ」
「よくもっ・・・!この借りは必ず返すわ!」
「だから逃がしゃしないって・・・」
カキンッ
「あら?」
シュン
「あちゃー、レッド9に弾を込めるの忘れてたわ。まだ2,3発残ってると思ってたんだけど・・・まあしょうがないか、棲み家らしき場所に目星はついてるし」
キャスターが居なくなってから数分すると気を失っていた人々が気が付き、最近頻発しているガス漏れ事件という事になった。
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