フェイトステイナイト〜verアイス
朝の風景
月 嘆きの都ロマ・ディナシア王城内 冥王ヴィンセントの墓所
「・・・」
月面国家レイヤード。
かつて崩月戦争の折、冥王ヴィンセント・エーゲハルト・フォン・アナスタシア率いる聖王国エンデレイシアが旧月王国を打ち倒おし、その領土を吸収して生まれた国家である。
ヴィンセントには4人の子供がおり、最終決戦で戦死したヴィンセントに変わり聖王家を率いたリヒター・ガルガンディア・クレダ・ヒュラッセイン、その弟で綿月依姫と何度も刃を交えた猛将ジェラール・アルキュオネ・ヘイズ・オルズライン、二人の妹で唯一アナスタシアの名を受け継いだ『聖女王メシュティアリカ』ことメシュティアリカ・エンジェレイティア・レイ・アナスタシア、末娘でこと体術と魔法では兄達おも超える実力を持っていたオリヴィエ・シュヴァイツァー・アウラ・ゼーゲブレヒトが戦争後も力を合わせ、レイヤードを治めてきた(オリヴィエは戦争終結直後に謎の失踪を遂げている為、参加できなかったが)。
それから幾星霜、ヴィンセントの子らは死に、その子、或いは孫が政を行なっていた。
ヴィンセントの墓所の前に立つ彼、ヴァレッファ・レザス・オルズラインもそんな中の一人であり、ジェラールの息子であるヴァレッファはオルズライン王家の当主にして元老院議長であった。
極めて高価であろう王族のローブを身に付けたヴァレッファは王兎特有の銀髪を背中辺りまで伸ばしており、兎耳が生えている。
そして鼻が高く彫りの深い顔立ちは威厳を醸し出しており、腰に差された長剣から彼が剣の腕に覚えがある事を物語っていた。
そんな彼がヴィンセントの墓所に来た理由・・・それは心の平穏を得る為である。
ヴァレッファの心をかき乱される理由となったのは、姪で次期王位継承者であったマリアン・ヴィンセント・レイ・アナスタシア姫の暗殺事件(実際は生きているのだが、それを知る物は誰も居ない)である。
レイヤード建国前の聖王国時代から存在する歴史ある軍、王立近衛師団の長にして冥王の使徒ことジ・ヒルベルト教団枢機卿であった彼女は、国民からの人気が極めて高く彼女の死は国民のみならず王兎にも大きな悲しみをもたらした。
勿論ヴァレッファもその一人で、マリアン姫の幼き頃に剣を教えた事等を思い出し嘆く日々が続いた。
又、王位継承権を得ていたのがマリアン姫だけであった事が災いし、マリアン姫暗殺後の元老院の論争は専ら次期王位継承者の選別となった。
しかしマリアン姫程の能力を持った王族、貴族は中々居らず時間だけが過ぎていった。
ヴァレッファはそれに嫌気がさし、心を落ち着かせる為にヴィンセントの墓所に訪れたのだ。
「・・・始祖よ。幾年か前、貴方の後を継ぐに相応しい者が死にました。これは貴方の望んだ物なのですか?聖王国の血を絶やしかねないこのような事を・・・」
その言葉に対する返事はない。
当然である、既にヴィンセントは死んでいるのだ。
というより、ヴィンセントは最終決戦で乗艦ごと消滅している為遺体は回収出来ていない。
この墓所も『せめて魂だけでも安らかに眠れるように』と聖女王メシュティアリカが建造させた物なのだ。
ジャリッ・・・
「死者に語りかけても言葉は返ってきますまい?」
「森羅か・・・」
「探しましたよ、ヴァレッファ閣下。姫猊下(※鈴仙の事)の死を報告されていたので?」
其処にレイヤードでは珍しい着物に身を包んだ若い女性が現れる。
彼女は蓬来山森羅・・・地球に追放された蓬来山輝夜の姉にして、上級貴族蓬来山家の当主である。。
無と有を操る程度の能力を持つ彼女はヴァレッファの秘書的な立ち位置に居り、ヴァレッファを探しに来たのだ。
「議会が始まります。さあ、参りましょう」
「うむ・・・!?」
ゴゴゴゴゴ・・・
森羅から議会が始まると伝えられヴァレッファはこの場を立ち去ろうとするが、その瞬間大きな地震に見舞われる。
地震はすぐに収まったが、地震は不吉な結果を残す事となった。
「閣下、お怪我は有りませんかえ?」
「大事無い・・・が、始祖の墓所に大きな亀裂が入ってしまった。なんと不吉な」
「これ以上レイヤードに不吉な事は起きますまい・・・・墓所は妾が直す故気兼ねなく行かれませ」
「頼む」
この時、墓所の亀裂の中から一瞬光が見え、消えていったのだがそれに気付く者は誰も居なかった。
場所は変わり地球、ロシア連邦首都のモスクワでは・・・
「ジャニック司令!この時期の日本訪問の意図は何ですか!?」
「日本に対する威圧行為なのですか!?そうだとすれば各国からの抗議は避けられないと思われますが、そのあたりの事をお聞かせください!」
「司令!何か一言だけでもお願いします!」
「ノーコメント。機密に関わる故、話す事は出来ん・・・儂は答えたぞ、道を開けてもらおうか」
雪降るモスクワの銀河統合軍アジア方面軍司令部前には多くの記者が待ち構え上級将校数人と共に出てきたアジア方面軍司令ジェラス・ジャニック元帥にコメントを求める。
事の発端はジャニックが突然日本を訪問する事を正式に発表した事で、その発表に各国は騒然とし様々な憶測がながれた。
日本訪問の目的が明らかにされぬまま日本訪問当日となり、少しでも真意を知りたい各国のマスコミ逹はこの最後のチャンスに賭けるが如く説明を求めた。
が、ジャニックはノーコメントと答えただけで移動用の車に乗り去ってしまい、マスコミ達は一つの情報も得る事は出来なかった。
「・・・閣下、実際の所日本訪問の目的は何なのですか?」
「表向きには視察という事になっている。だが、真の目的は政府高官に兵の出兵等を要請する為だ」
「日本は自国の憲法を盾に、兵の出兵を拒否していますからなぁ・・・」
「平和主義が悪いとは言わん・・・だが、人類は争う事を止める訳にはいかんのだ。争う事を止めれば世界は停滞し、やがて醜く腐り落ちる。故に、我々は戦い続けねばならん」
「それを人々受け入れるかは分かりませんが・・・」
「受け入れざるを得まい。今の状況下では、いつ戦争が起きても不思議は・・・!」
ッドオオオォォン!!
それから幾らか経ち、車に乗ったジャニックと上級将校3人は護衛の車4台に囲まれた状態で空港に向かっていた。
空港のへ道の中間辺りになると、若い上級将校が今回の日本訪問の真意を問う。
ジャニックはそれに簡潔に答え、人類とは戦い続ける運命にあると付け加えた。
それは彼自身が信念としている言葉であり、今までも、そしてこれからも変わる事のない物であった
その言葉から1分経たずに乗っていた車が爆発を起こし、炎上する。
「閣下ッ!!」
「爆破テロだと・・・何故誰も気付かなかった!?」
「司令部の方も混乱している様で、まるで分かりません!取り敢えず閣下を救出するのが先決・・・」
ガゴォン!
「「!?」」
ゴツ・・・ゴツ・・・
「・・・」
「閣下!?」
ジャニックの乗っていた車が爆破されると、周りの護衛達は慌てて助け出そうとする。
が、その前に座席の扉が蹴破られ、ジャニックが3人の上級将校を抱えた状態で出てくる。
上級将校逹は火傷などを負い重傷だったが、ジャニックには怪我どころか汚れすら無く、苛烈さを滲ませた顔は、更に険しくなっていた。
「閣下、お怪我は・・・」
「無い。儂よりも此奴らの手当を」
ドサッ
「はっ・・・閣下、何故車の方に戻るのですか?」
「儂にはまだやる事が有る」
バキャッ!
「うう・・・」
「今出してやる」
ズル・・・
「手当を」
「はっ!」
ジャニックは抱えた上級将校を下ろして護衛の兵士に彼等の手当を命じ、自分は車に戻る。
そして運転席の扉を紙を引き裂く如く引きちぎり、運転手を引きずり出して兵士に手当を命じる。
カキンッ
シュボッ
ジジ
パチン
「ふぅ〜・・・このタイミングでの爆破か。ふん、そうまでして儂を殺したいか、蛆共め」
ジャニックがそう言う相手・・・それはイギリスのロンドンに拠点を持つ魔術協会の事である。
統合軍が各地で拠点を造ってからというもの、魔術協会はヨーロッパ方面軍、アジア方面軍と衝突を繰り返してきた。
特に『来るものを拒まず』を信条とするアジア方面軍司令部には封印指定の魔術師が数多く匿われている為そのトップであるジャニックは何度となく暗殺者に襲われてきたのだ。
勿論ジャニックも黙っている訳ではなく、ヨーロッパ方面軍に要請して協会を締め上げてはいるのだが、伊達に長い歴史を持っていない協会へはめげずにジャニックの命を狙っているのだ。
「閣下、今回の日本訪問はお辞めになるべきです!閣下の身に大事があれば、アジアは混沌に支配されるのですぞ!?」
「それでは奴らの思うつぼであろう。日本訪問は予定通りに行う。陸路では何が有るか解らん、ペリカンを此方に回せ」
「閣下!!」
「二度は言わん」
このテロが発生した事で、護衛の責任者が日本訪問を止めるべきだと進言する。
しかしジャニックは意見を変えず、数分後に到着したペリカンに乗り空港に向かっていった。
そしてその翌日、冬木市の衛宮邸では・・・
「シロ君おはよ〜!ゲオルグもおはよ!」
「おはようチルノ。今日は早いんだな」
「おはようございます、お嬢様」
士郎が朝食の準備をしていると、昨日と違い早く起きたチルノが居間に顔を出す(ゲオルグは座って庭を眺めている)。
「ねえねえ見て!制服に着替えてみたんだ〜♪可愛いでしょ〜?」
「あ、ああ・・・」
「似合っておりますぞ」
居間に顔を出したチルノは高校の制服に着替えており、何故かは分からないその姿は士郎の目には極めて子魅惑的に見えた。
目を引いたのはスカートで、通常の物よりもスカートの丈が極端に短く、そこから伸びるしなやかな脚を隠すようにいつも穿いている黒色のオーバーニーソを穿いている。
しかも服の上からでも解る程大きな胸が更に士郎を悩ませた(因みに髪型はポニーテール)。
「・・・(チルノってスタイルいいよな。なまじ昨日の光景が焼き付いてるからなぁ・・・まあ、結婚してるらしいし当たり前なんだろうな)」
「・・・?なんでじっと見てるの?」
「あ、いや・・・なんでもないんだ。それよりもまだ朝飯が出来てないから座っててくれ」
「あたしも手伝うよ。現役ママの腕前を見せてあげる!」
「あー・・・その申し出は物凄い嬉しい。嬉しいんだが・・・毎朝準備を手伝ってくれる後輩が居るんだ。だから、晩飯の準備を手伝ってくれないか?」
「オッケー!そういう事ならそうするね!」
「では、私は庭の警備に戻りましょう」
『せんぱーい、おはようございますー』
「誰か来たよ?」
「今話してた後輩だ」
チルノと士郎は他愛もない話をし、ゲオルグが庭の警備に戻ろうと立ち上がった時、玄関が開く音と共に士郎の言っていた後輩・・・間桐桜が入ってくる。
「おう、おはよう桜」
「はいっ。・・・あの、玄関の靴、藤村先生のでもなさそうですけど、どなたか来ていらっしゃるんですか?それに庭のあっちこっちから視線を感じたんですけど・・・後、そちらの方々は一体・・・?」
「ああ、昨日から何人か下宿する事になったんだ」
「チルノ・トレバーだよ。こっちはあたしの護衛のゲオルグ。貴方が感じた視線は多分あたしの護衛の人達だね。気になったならゴメンね〜・・・とにかくよろしくぅ!」
「あ、はい・・・間桐桜です。よろしくお願いしますねチルノさん」
キチ・・・キチ・・・
「・・・?(蟲が蠢く音?)」
「あの、何か?」
キチ・・・
「ううん、なんでもない!(やっぱり虫の蠢く音が聞こえる・・・しかも身体中、多分心臓からも聞こえる。こりゃ、後で話を聞いた方が良いかもね)」
居間に来た桜と互いに自己紹介をする内、チルノは桜の身体の中から蟲の蠢く音を聞く。
チルノはそれに不安を覚え、後でその事を聞こうと思った。
「シロウ、プロフェッサー、ゲオルグ卿、おはようございます」
「おはようセイバー。桜、この子がさっき話した下宿人のセイバーだ。セイバー、こっちは俺の後輩の間桐桜だ」
「セイバーと申します。サクラ、どうぞよろしくお願い致します」
「あ、はい。間桐桜です」
それから10秒経たぬ内にセイバーが起きてきて居間に顔を出し、互いに自己紹介する。
「っと!そろそろ藤ねえが来ちまうな。桜、ちょっと手伝ってくれないか?チルノ逹は座っててくれ、もう少しで出来るから」
「ゲオルグ、庭に行かないで朝ご飯をご馳走になったら?シロ君、ゲオルグの分も用意出来る?」
「問題無いぞ。今回は多めに作ったからな」
「だってさ?」
「・・・では、頂こう」
10分後・・・
「おっそくなっちゃったー!しろー、桜ちゃーん、ご飯出来てるーっ!?」
朝食が完成し、机にそれが並べられ各々が座っていると、士郎の姉替わりで士郎の通う高校の教師である藤村大河が慌てて居間に入ってくる。
「おう、出来てるぞ」
「良かった〜!それじゃあいただきまー・・・って、どちら様?」
大河は素早い動きで座り朝食を食べようとし、チルノ逹に気付いた。
「挨拶がまだでした。私はセイバー、一昨日よりこの家に厄介になっている者です。シロウの父君であるキリツグには以前世話になり、今回はイギリスからの旅行のついでに彼をに会いに来たのです。ですがキリツグは既に亡くなっており、困り果てていたのを見たシロウがこの家に下宿させてくれる事になったのです」
「あたしはチルノ・トレバー。イタリア生まれよ(実際は幻想郷だけど、そんな事言う訳にもいかないしねー)。キリツグに恩が有って、会いに来たのはセイバーと同じだけど、あたしの場合はちょっとした事(ドンパチ)に巻き込まれたシロ君を助けたお礼って形で此処に滞在しているの。あ、後彼は私の護衛責任者のゲオルグ。あっちこっちから感じる気配は全部私の護衛の人達ね。出来るだけ気にならない様にするけど、気になったらごめんなさい」
「あ、これはご丁寧に・・・藤村大河です。士郎の姉替わりで、士郎の通ってる高校の教師をやってます。よろしくね!・・・そっかー、二人共切嗣さんの知り合いなのね・・・それに何か事情が有るみたいだし、良いでしょう!此処に泊まる事を認めましょう!」
「いや、なんで藤ねえが決めるんだよ・・・」
更に数分後・・・
「へーチルノちゃんは今日からうちの高校に通うのかぁ」
「もし校内で会ったらよろしくね、藤村センセ!」
お互いの顔合わせも済み、朝食に舌鼓を打ちながら他愛もない話を楽しんでいた。
「・・・しかし、このハシというのは存外使いにくい物だな。ナイフとフォークならは苦も無く扱えるのだが」
「とか言ってる割に、十分使えてるけどね〜」
「いえ、見様見まねです。証拠にハシの先が震えているでしょう?」
「あ、ほんとだ。逆にセイバーは手馴れてるよね」
「以前に日本に来た事が有るので」
「へぇ〜」
「ねえチルノちゃん、チルノちゃんってマフィア的な人のお子さんだったりする?」
「はい?」
「だってボディガードがたくさん居るし、その服装だって・・・ねぇ?」
「あ、それは私も気になってました。やっぱり一般人じゃないんですか?」
「あたしは『只のお金持ちの令嬢』だよ。『それ以上でもそれ以下でもない』」
「へ?・・・あーそうなんだ!変な事聞いてごめんね!」
「私もすみませんでした」
「?(変だな。こんなにあっさり引き下がるなんて。それに一瞬違和感が・・・)」
「・・・(暗示・・・でしょうか?いや、それにしても何か違う気がするのですが)」
『・・・では次に、昨日爆破テロに巻き込まれたジェラス・ジャニック銀河統合軍アジア方面軍司令ですが、日本訪問を中止せずに本日東京の羽田空港に到着しました。日本訪問をここまで強行した理由は依然明らかになっていませんが、日本に対する威圧行為ではないかとも言われており不安視する声も上がっています』
朝食を取りながら談笑していると、テレビでジャニックが日本に到着したと伝えた。
「・・・(へぇ〜日本に来たんだ。もしもの時は連絡してみようかな)」
「どうしたんだ?ぼーっとして」
「ううん、なんでもない!ごちそうさまっ!」
それを見ながらチルノは有事の際には連絡を取ろうと考えた。
「ごちそうさまー!そんじゃ士郎、行ってくるね!」
「ごちそうさまでした。私も朝練が有るので、行ってきますね」
「あ、ちょっと待ってサクラ!ちょっと話したい事が有るんだけど、少しでいいから時間を貰えない?」
「?大丈夫ですけど・・・」
「先に行ってるね、桜ちゃん!」
「ここじゃアレだから、場所を変えよう」
朝食を終えた大河と桜は互いに高校に向かおうとする。
それを同じく朝食を終えたチルノが『話したい事が有る』と桜を引き止め、誰にも聞かれないように居間からある程度離れた場所に移動した。
「それで、お話というのは・・・?」
「サクラ、何か蟲的な物に寄生されてない?しかもすごい数」
「ッ!!」
チルノから飛び出した言葉に、桜は目を見開き身体を硬くする。
「・・・何の事でしょうか?」
「隠しても無駄。あたしには聞こえるんだから。蟲の蠢く音がハッキリとね。中でも心臓に寄生してる蟲の音が一番大きいけど」
「・・・有り得ない。そんな事人間に出来るはずが・・・」
「『人間なら』ね。さて、それはさておき・・・その身体中を蠢いている寄生蟲を全部取り除いてあげようか?」
「・・・そんな事、出来わけないじゃないですか!」
チルノの言葉に一瞬身を硬くした桜であったが、すぐに落ち着きを取り戻し笑顔でしらを切る。
それを見越したかのように寄生蟲の蠢く音が聞こえていると返し、人間では到底不可能である芸当を事もなげにやって退けるチルノに桜は底知れぬ恐怖を感じる。
が、その後飛び出してきた言葉により、それは一瞬で霧散する事となる。
なんと自身の身体に蠢く蟲逹を取り除いてくれると言うのだ。
自分の細胞から全く別の人物を作り上がられるチルノからすれば造作も無い事なのだが、それを知らない桜は声を荒らげる。
「ふざけて言ってんじゃないんだってばー。あたしこれでもあらゆる博士号持ってるんだよ?この程度訳ないって。それに傷跡が一切残らない事を保証するよ」
「で、でも・・・何で会ったばかりの私を助けようとしてくれるんですか?」
「誰かを助けるのに理由が要るの?」
「・・・ッ」
「後、これを聞くのはちょっと気が引けるけど・・・何でこんなに寄生されてるか教えてくれない?じゃないと治療に支障をきたしちゃうし」
「・・・本当に、刻印虫を取り出せるんですか?」
「刻印虫っていうのね・・・絶対に大丈夫全部取り除くから」
「・・・分かりました、お話します。私が何故刻印虫に寄生されたかを」
チルノに促される形で、桜は話し始める。
自分が凛の妹である事、幼い頃に遠坂と同じく魔術師の家系である間桐の家に養子に出されそこで凄惨過ぎる目に遭い続け、黒色であった髪が菫色に変わってしまった事を話した。
「・・・最っ低」
話を聴き終わったチルノは、強い怒りを滲ませながらそう吐き捨てる。
元々チルノは古いしきたりや掟に対して強い反発心を持っている。
まだジェダイ騎士団が存在していた頃がその最たる物で服装や結婚、出産等掟で禁じられている事を次々にやってのけていた。
故に予想よりも遥かに愚かで下らない魔術師という連中に怒りを覚えているのだ。
しかし、チルノの抱いた怒りはそれだけではない。
チルノは凛にも怒りを抱いていた。
妖精である為、肉親が存在しないチルノは家族というものに極めて強い思い入れが有り、家族に手を出した者は星を焦土に変えてても殺す程に家族に対する愛情が深い。
故に、姉である凛が何故桜を助けようとしない事が理解出来なかった。
実は家同士の盟約により凛は桜を助けに行く事が出来なかったのだが、桜もチルノもそんな事を知る由もなかった。
「今日の夜、来れる?」
「大丈夫です」
「分かった。詳しい事は今日の夜に話しましょう」
「・・・はい。よろしくお願いします」
今日の夜に摘出が行われる事となり、桜はチルノに深々とお辞儀をして去っていく。
そしてチルノも何かを決心した様な表情で居間に戻っていく。
その頃、前の聖杯戦争の跡地に一人の女性が立っていた。
その姿から、バイクに乗り冬木市に来た女性であるのは分かったが、ヘルメットを着けておらず端正な顔立ちが見てとれた。
「・・・強力な呪いね。それにこの場に漂う無念怨念・・・このせいで草木が生えないのね」
この女性・・・名をパチュリー・ノーレッジと言う。
彼女は研究の末に第三魔法に至った魔法使いで、かつては魔術師逹の総本山である時計塔で教鞭を取り多くの優秀な魔術師を育て上げた偉大な人物である(凛の父である遠坂時臣もパチュリーの教え子である)。
そんな彼女が冬木市に訪れたのは、友人のチルノの搜索と『どこかに有る大聖杯の永久的な機能停止』の為である。
元々聖杯の正体と、その中身が汚染されている事知っていたパチュリーは、聖杯戦争を『お遊び』と呼び嫌っていたが、10年前に発生した聖杯の中身による火災やあまりにも早過ぎる聖杯戦争の開始等により、『大聖杯が暴走しつつある』と感じたパチュリーは病を理由にチルノに薬品の調合を任せ、永遠亭で喘息を抑える薬を貰って冬木に向かっていたのだが、その途中で紅魔館置いてきた使い魔からチルノが行方をくらました上、冬木に居るらしいと伝えられ、同時進行でチルノを探す事となったのだ。
「聖杯の呪いがこれ程とはね。さあ、浄化するとしますか・・・『レイズ・ガイア』」
カッ!
パチュリーは聖杯の呪いにより不毛の大地となったこの広場全体の再生魔法を掛ける。
第三魔法は簡単に言えば『魂を物質化し死者を蘇らせる』魔法である。
魂は有機物、無機物問わずに存在し、草木もそれは同様である。
又、逆に生命を奪う攻撃魔法としての一面をも持っており、不死の相手や神族、幻想種が相手の場合絶対的優位に立てるのだ。
尚、パチュリーの使ったレイズ・ガイアは大地を汚染する呪いを浄化して草木を生やし、さまよえる魂を成仏させる魔法である。
シュウウ・・・
「これで終わりね・・・もし、大聖杯が完全に暴走すれば、これよりも遥かに大きい被害が出る。何としても大聖杯を止めないと・・・」
大地から呪いが消え失せた事を確認すると、そう呟いてパチュリーは去っていく。
その後、ここには一面に草木が溢れ、人々を癒す憩いの場となったのだが、それはまた別の話である。
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