NOVEL
09
「なあゾロ。してもいいよ。何度もしていいから泣かないでくれよ。嫌だよ、ゾロ。ゾロ…」
そう言って、泣きながら自分の服を脱いでいくオマエの腕を掴み動きを止めた。
「サンジ、そんな事しなくていい。いいから。オレはオマエにそんな事をさせてえわけじゃねぇ。…オレが欲しいのは、オマエの本音だ。聞かせてくれ。オマエが抱えてるもんをオレに分けてくれ」
こぼれ落ちてくる涙をそのままに、ひどく幼く見えるオマエの心にどうか届けと願いながら、オレはただ只管オマエからの返事を待った。
その後オマエの口から出たのは、オレの意外な言葉だった。
「テメェ、ガキ好きだったんだな」
一瞬自分の耳を疑った。
それは非道く今この場面に相応しくない言葉に思えた。
「はあ?何言い出すんだ。そんなつまらねぇ事じゃなくて、オマエの」
「レディはいいよな…」
言い掛けていたオレの言葉を、オマエの驚く程に寂しげな声が遮る。
それは余りにも弱々しくて儚げで、まるで今にもオマエが消えちまいそうな気がした。
咄嗟に言葉が出て来ないオレに対し、オマエの独白のような言葉が更に続く。
「テメェさ、今までオレんナカに何百回も出しただろ。…バカみてぇ。…オレなんかのナカに何度出したって何も出来ねぇのに…。終わった後ただ掻き出して捨てて終わりなのに。テメェのタネが何かとくっつく事も、結果実を結ぶ事もねぇ。オレにはテメェのタネを受け止めてやれるハタケがねぇからさ…。なあ…もうオレなんかに無駄遣いしねぇでさ。…いいんだぜ、…素敵なレディに使っても。テメェのは無駄に濃いからよ。直ぐにガキの一人や二人…作ってくれんだろ。…父ちゃんになれんだぜ。…よかったな…」
そう言って自虐的に微笑むオマエの姿に、横っ面ぶん殴られた位の衝撃を受けた。
オマエのあの涙の意味が。
痛々しい位の悲しみの意味が。
今はっきり分かった。
…重い。
なんて重いもんを一人で抱え込んでいたんだ。
オマエの性格からすると、多分押し潰されそうな位ウダウダと考えたんだろう。
それなのに、何でもねぇように笑って。
知らなかった…
…オレはオマエの何も理解していなかった。
オレは今迄ガキが好きだと言った覚えはねぇし、勿論欲しいなんて言った事もねぇ。
正直ガキは苦手な方だから、特に父親になりてえとか望んではいねぇ。
オレは最初からオマエと一生共に生きて行くと決めていたから、ガキなんて必要ねぇと思っていた。
でもオマエはそうは思っていなかった。
否、引け目を感じていたんだ。
男の自分にはどうしても出来ねぇ事。
オレを本気で愛してくれているからこそ、それがオマエには苦痛だった。
もし自分がオレの子を産めたらどんなにいいだろうと。
それが出来ねぇなら、せめてオレにその機会を与えてやりたいと。
もしそうなっても自分は一人耐えてみせると。
あの涙には、オマエの胸を抉るような様々な葛藤が込められていたんだ。
心の底から溢れ出す涙を止めようもせず、オレは自分の胸の内をぽつりぽつりと声に出していった。
…サンジ。
オレがオマエ以外愛せると思っているのか?
オマエ以外抱けると思ってるのか?
もし例え抱けたとしても、オレがそれを望んでいると思うか?
なあ、サンジ。
オマエはオレの事を馬鹿だと言ったが、馬鹿はオマエの方だ。
だってな、オレはオマエのナカで出した何百回を決して無駄だとは思ってねぇ。
ソレが何も作り出していねぇとは思わねぇ。
オマエがソレを受け止めてねぇなんて思ってねぇよ。
気が付いてくれサンジ。
オマエもオレも何も間違っちゃいねぇんだ。
ガキが出来ねぇのはよ、体質みてえなもんだ。
女でも居るだろ。
ガキが産めねぇのは。
産めるのに作らねぇのも居るな。
ほらな、みんな人其れ其れなんだ。
オレ達は愛し合ってるけど子供は作らねぇ。
そういう主義なんだ。
そう考える事は出来ねぇか?
だってよ、ガキなんか出来たらオマエを独り占め出来ねぇだろ?
オレの半端ねぇ独占欲はオマエも知ってるだろ。
オマエをガキに取られるなんて我慢出来ねぇよ。
ガキにピーピー泣かれたら、おちおちオマエの身体堪能出来ねぇじゃねぇか。
オマエ分かってるのか?
オレはオマエと何日もセックス出来なかったら荒れるぞ。
そうなったらオレはガキよりよっぽど手が附けらんねぇぞ。
いいのか、それで。
それにな、オレはガキよりオマエの方が大事だから、例えガキの前でもオマエを抱くぞ。
そりゃ教育上良くねぇだろ?
でもオレは止めるつもりはねぇよ。
なあ、こんなオレが親になんかなれる訳ねぇだろ?
オレはいつまでもオマエに甘えていてえんだ。
誰にもそれは譲れねぇよ。
こうしてオマエを抱きしめていいのはオレだけだ。
そう言ってオマエを目一杯自分の胸に抱きしめた。
壊してしまう程の強い思いで、包み込むような優しい力で。
精一杯の想いを込めて、ただひたすらオマエを抱きしめ続けた。
オレの言葉とこの想いが届くように…。
こんな言葉の羅列じゃ、あのオマエの悲しみの代価にはとても及ばないと分かっていたが、少しでもオマエの心の傷を癒してやりたかった。
せめてオレの胸の中でオマエを思いっきり泣かせてやりたかった。
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