[携帯モード] [URL送信]

新小説
2

「うーむ、派手にビカビカ光ってるからか、も少し近くに感じていたんだがなぁ。奴ら、随分遠いとこでやってるなぁ」

 戦場を走るディンとオスフロンド。その途中、オスフロンドが空を見上げながら呟く。
 ただでさえ戦火や轟音の絶えない戦場ではあるが、彼の瞳が向けられている場所は別世界だ。有り体に言えばとにかく赤い。空気が灼熱に染まり、一体が火の海になっている。絶え間なくほとばしる稲妻と合わさり、地獄のようだ。
 中心にいるのはそれを作った巨竜、アルトリス。帝国により生み出された生物兵器。それを倒すことが今の二人の最優先事項である。
 そしてオスフロンドの最終目標はアルトリスとたった一人戦っているらしいヴェルド-アースとの決闘だ。邪魔がいなくなったところで心置きなくやり合いたいのだろう。
 だが、正直ディンとしてはそんな危険地帯に向かっていること自体気が重い。

「しかし、ははは、ヴェルド-アースのやつはあの業火の中たった一人であの化物とやり合ってるのか! 愉快愉快! 噂通り、否、それ以上の戦士だな! だが待ってろよ。俺がついたからには一人で戦争の主役気取りにはさせまいぞ!」

 オスフロンドは心底楽しそうに大笑いしながらも、邪魔する者には苛辣な痛手を被らせている。
 槌で大地を弾き散弾銃のような石つぶてを見舞ったり、先程は狙撃してきた魔術師の集団に大岩を投げ付けていた。
 赤い瞳を満足そうに綻ばせながら敵を踏みにじっていく様はまるで戦神。その所業にディンはただただ顔を引きつらせた。
 オスフロンドは強かった。分かっていたつもりだったが、ディンの想像を遥かに超えていた。並の兵士では束になっても相手にならない。
 戦鎚による一撃は鎧ごと相手を紙切れのように引き裂いた。その身体の頑強さは化物じみていて、弓矢や銃弾はおろか強力な魔法さえ弾き返す。
 外見とは裏腹に俊敏さもある。というか身体能力が高過ぎる。駆ければ瞬く間に馬や魔物に跨る騎獣兵に追い付くし、20mは上空にいた有翼の魔物に乗った敵兵を跳躍一つで叩き落とした。
 砲兵が放った砲弾をボールのように打ち返し、カダス帝国の飛空艇に直撃させた時はディンも目を疑った。
 オスフロンドと行動を共にしてかれこれ10分以上経過してるが、これまでディンの出る幕は一度もない。最初は気付けば相手が倒されてたし、その後は挑んでくる者さえ少なくなった。役立つ所か、足を引っ張る間さえない。正直彼の足ついて行くのがやっとだ。それだけで厳しい。

「まぁあの竜は厄介そうだが、ヴェルド-アースと二人がかりならなんとかなるな。うむ、共闘、後に決闘! 心が躍る!がはははは!」

 豪快に笑うオスフロンド。なにがそんなに楽しいのかこれっぽっちも分からないが、これはチャンスかもしれない。

「なぁ。俺のペースに合わせてくれなくて大丈夫だから、一人先に行ったらどうだ。その方が断然早いだろ? 」

「そうはいかん。ディン、お前には我ら二人の決闘に立会ってもらう。その方が盛り上がろう?」

 意を決してやんわり先に行って欲しい旨を伝えたらきっぱり断られた。作戦は失敗だ。
 どうやら、彼の頭の中ではもう竜を倒してヴェルド-アースと戦うことは決定事項。そしてディンは勝手に立会人にされてるらしい。

「それに、お前はあやつと所縁の者だろう? だったら、お前も俺とあやつとの戦いを見たいだろう!」

「……別に」

「はっはっは! 心にも思ってないことを!」

 見透かされたのが腹立たしい。
 確かにあいつの決闘、それもこの男と死闘をすると言うなら、見たいか見たくないかで言えば、見たい。そりゃそうだ。別にあいつに特別な感情がある訳ではない。一緒に暮らしてるんだから、結末が気になるのは当然。万一くたばられでもしたら、明日から自分の身の振り方を考えなければならない。ただ、そういう話だ。
 だが、正直言ってあの男の心配なんてするだけ無駄だ。あいつが負けるなんて、死ぬなんて考えられない。あの男は正真正銘の化物だ。
 しかし、このオスフロンドも相当な化物。もしかしたら。そんな考えも頭に浮かぶ。

「まぁーあれだ。あやつにはなるべく多く貸しを作ってやれば、あやつも俺の申し出を断りにくくなるだろう。だからなディン、お前があやつの元に辿り着けるよう手助けをする、という訳だ」

「……思ったんだが、あんた、俺の言葉疑わないのか? 実は俺とあいつとの間には縁も所縁もないかもしれないぜ?」

「む? それはなかろう」

「なんでそう言い切れる」

「勘だ! なっははは!」

「勘かよ」

「なぁに。お前を見た時から感じていたのだ。この小僧にはなにかある、とな。知り合いだと言われて納得が言ったわ。剣術や、俺を脅かした炎とクリエイトの連携魔術もあの男仕込みだな?」

「まぁ、ほぼ、正解、なんだが」

 肝心のあんたを脅かしたクリエイト魔術については大きな誤解だ。情けないので忘れたい。忘れて欲しい。
 ディンもそれなりに自分に自信があったのだが、オスフロンドと比べると足元にも及ばないだろう。ここまで次元の違いを感じたのはこの男で人生二度目だ。
 とはいえ悔しいとかは思わない。ただただあのまま戦いが続かず本当に良かったと思う。どう足掻いても勝てっこない。化物は化物同士で戦えばいいのだ。

「ディン。気を付けろ」

 高さ10mはあろう峡谷の合間を走っていた折、オスフロンドが足を止める。もう少しで辿り着けそうなのに、面倒な。そう思いつつディンも習った。
 左右の崖の上、そして前方の岩影に人の気配。言われなければ気付かなかった。
 はい、気をつけます。ありがとうございます。そう言って頭を深々下げたくなる思いだ。イヤリングが静かな今、なにより彼が頼もしい。

「隠れても無駄だ! 姿を見せろ!」

 オスフロンドの言葉で巣を壊された蟻のようにわらわら人があふれ出てくる。いつの間にか後方からもだ。
 完全に囲まれた二人。前後左右に10人ずつと考えてもざっと40人。実際はもっと多そうだ。剣士、槍兵、銃兵、魔術士と種類豊か。退路も塞がれてる上地の利は敵にあるという厄介この上ない状況だ。
 しかし、隣のオスフロンドは堂々としてる。

「この誇り高きウォーガン、ギヌ族が長、オスフロンドが相手になったからには貴様ら帝国群に勝ち目はない!」

 巨体が高らかと叫んだ。素直にかっこいいと思った。ディン一人だったら間違いなく絶対絶命の状況だが、この男がいるとどうにかなる気がする。本当にオスフロンド様々である。

「命が惜しくば道を開けろ! 俺に無駄な血を流させるな! 向かってくるなら容赦せず叩き潰すぞぉ!」

 聞くものの魂までも震え上がらせる落雷のような咆哮。常人ならば足が竦んでもおかしくない。
 だが、兵達は微動だにしない。そればかりか戦意をあらわに各々武器を構える。駆け出す白兵、そして銃兵も銃口を向ける。
 普通の兵はまずウォーガンを見ただけで躊躇いを見せるのだが、命知らずか、はたまた手練れ達なのか。

「やはり死人〈しびと〉に脅しは通じんか」

 オスフロンドの口調はため息のようだった。

「死人? あいつらアンデッドなのか?」

「違う。恐怖に負け誇りを捨てた者どもだ。分からぬか。奴らから薬物の臭いがする」

「薬? 麻薬か」

「で、あろうな」

 戦争による痛みや死への恐怖から逃げるため、あるいは身体能力、集中力、知的活動活性化などの目的で薬物に頼るのはなにも珍しい話ではない。数年前ならいざ知らず、今の世ではなおさらだ。
 それどころか、今では各国が資産を費やし戦争に有益な薬物の開発に勤しんでいるという。帝国開発のング-ダイト〈邪神の破片〉や王国開発のクー-パルク〈女神の血潮〉が良い例だ。
 ング〈邪神〉の名前がついたものを流通させる帝国の気がしれないし、王国もクー〈女神〉という崇高な存在を掲げようと、やってることは帝国とたいして変わらない。

「流石の俺もあいつら全てを引き付けられん。自分の身は自分で守れよ、ディン」

「分かってる」

 言われずとも、流石にこの人数全員からオスフロンドに守ってもらうのはあまりに格好が悪過ぎる。自分も少しは手柄を立てなければ、後でアースになにを言われるか分からない。
 二人は合図もなく、背中を向け合い飛び出した。激しく大地を揺らしながら前方に駆け出すオスフロンド。対するディンはくるりと反転し後方へ向かう。
 奇声が聞こえた。前方、そして左右の崖の上からも駆け落ちるかのように兵士の群れが降って来る。

「なんだこいつら」

 意味不明な叫びを上げ、隊列も関係なく、焦点があってない瞳を血走らせ、理に適わないめちゃくちゃな走り方で迫ってくる。およそ正気とは思えない。狂ってる。薬とはここまで人を変えるのか。聞いている話以上だ。
 更にディンが目に付いたのは兵達の格好や服装だ。明らかにおかしい。カダス帝国の兵の中、アスランダ王国や、その友軍の兵隊が混じってる。一体どうなっているというのか。
 まぁ元々カダス帝国側だったオスフロンドがちょっと交渉しただけでこっちについた位だ。そんなこともあるのかもしれないが、嫌な予感がする。

「なんにしろ、やるしかないか」

 命が惜しくば考えている暇はない。後ろからは既にオスフロンドが暴れる様子が音となって耳に伝わってくる。ディンも負けていられない。
 兵達との距離がおよそ10mまで近付く。射程圏内。左足で急ブレーキをかけ、右手をかざす。

「クトゥグア・ラヴ・アルヴ・マルナ・フレア・トー・レイス」

 小言のように素早く詠唱。熱気を帯びた赤い球体が解き放たれた。オスフロンドに使った爆炎魔法だ。先の失態に習い、間合いを活かしきって使用する。
 それは先頭にいた兵の足元に着弾し、爆発。土塊と一緒に衝撃波が肌にぶつかる。申し分ない威力のはずだ。
 ほら、被弾した兵士は下腿部が“欠落”してミミズのようにはいずってるし、衝撃波で後ろの兵士達も大地に尻を着けている。今がチャンスだ。好機は決して逃さない。
 ディンは一気に飛び掛かると、尻餅をついてる兵の顔面に飛び蹴りを浴びせなだれ込んだ。
 その後ろにいた兵は迎撃を試みている。剣を用いた上段からの袈裟斬り。だがディンの方が早い。相手の刃が頭頂に到達するより早く横に薙ぐ。
 剣を握っている両腕が鎧ごと切断され宙を舞う。胴に横蹴りを入れ蹴り倒すと次の相手へ。
 相手の剣を低い姿勢で避けながら足へと切り込み、バランスが崩れた所を肩から突っ込み弾き飛ばす。

「ディン! やるなら確実に息の根を止めろ!」

 崖の上から怒鳴り声がした。
 オスフロンドは既に前方の兵を仕留め終わっているらしく、いつの間にやら崖の上で暴れている。どおりで魔術や銃弾などによる敵の支援攻撃が少ない訳だ。
 オスフロンドの口調はまるで隊長が部下に叱咤を飛ばしているかのようだ。
 ありがたい助言にはありがとうと感謝の意を伝えたい。だけど少し待って欲しい。
 確かに、ディンが攻撃を加えた兵はいずれもまだ息がある。だが、ディンとてなにも相手の命を気遣っている訳ではない。戦争で相手の命を奪う事に抵抗はない。慣れている。だが。

「分かってるけど、あんたと違って余裕ねぇんだよ」

 数でも体格でも上回る兵を相手に善戦してるが、それでもディンはまだ15の少年だ。確実にとどめを刺すまでの余裕はないし、相手が先頭不能になれば十分だ。
 ディンは迫る兵に手をかざし、再び爆炎魔法を放つべく詠唱した。

「なっ!?」

 その時だ。急に足首を引っ張られ、倒されそうになる。最初に魔法で足を吹き飛ばしてやった兵士だ。おかげで爆炎魔法は狙いを外れ、空へと消えた。

「こ、の!」

 足に縋り付く兵の背中に剣を突き立てる。剣は鎧を貫通し、地に刺さる。背骨を貫通した手応え。だというのに、握る力は一向に弱まらない。
 その間に別の兵の剣が迫る。

「どうなってんだよ!」

 ディンは兵の顔を反対側の足で兵の手を蹴飛ばしながら前方に飛ぶ。くるりと前転。剣が背中の鎧をかすめ、火花を散らした。
 起き上がるディンに三人の兵士が殺到する。その中には先ほど大腿部を切り裂いた兵や前腕部を切り飛ばした兵も混じっていた。彼らは決して浅くない、むしろ致命傷というべき傷を負っているというのに、狂ったような叫びを上げて迫ってくる。早い。詠唱も追い付かないし、逃げても追い付かれるだろう。
 ディンはこの時になり、ようやくオスフロンドが確実に息の根を止めろと言った理由を理解した。

「冗談だろ」
 
 オスフロンドの例えた死人という言葉、言い得て妙だ。まるでネクロマンサーに操られるゾンビのような有様である。
 ディンは薬物に対し、こと戦争に限って言うなら、断固としてまでは否定的な価値観を持ってない。
 死は怖い。痛みを伴うのも怖い。その恐怖から逃げようとするのは当たり前だ。
 だが、共に暮らしてるいるウェルド-アースは断固として否定的である。頭痛、吐き気に始まり、幻覚、常習性、性格変貌等の危険な副作用について散々説かれた。だからディンも恐怖から逃げる為とはいえそれらに手を出したいとは思わない。
 しかし、生き残るためにはなんでもやれ、と言う男にしては随分甘いことを言うとは思ってきた。
 実際にそれで生き残れるなら、戦争の勝率が上がるのなら、戦時下において拡まるのは当たり前だ。だからこそ各国もしのぎを削り開発に勤しんでいるのだろう。後は使用する本人の問題だ。
 そう思ってきた。だがこれは。
 いざ目の当たりにしてみれば悪魔の所業だ。
 確かに敵の立場に立ってみたら厄介かもしれない。しかし、自らの命を顧みず、理性の欠片もない化物に成り下がるなど、それはもう死しているのも同然。自らの命を手放しているようなものだ。
 だがその効果は絶大。ディンは瞬く間に追い詰められていく。
 なんとか相手の剣撃をいなし、背中を切るが鎧の上で効果は薄い。その間に囲まれる。

「やっ、べ」

 横から迫る剣撃。ステップして避ける。
 そこに迫る袈裟斬り。剣で防ぐ。型もなにもない力任せの一撃だというのに弾かれ、足がもつれる。凄まじい膂力だ。
 そこに腕を失った兵士が飢えた野獣のように口を開いて突っ込んできた。
 剣を片手に持ち替えナイフを抜刀。側面から首に突き刺す。
 しかし勢いのまま押し倒された。

「嘘だろ」

 ナイフで首を貫かれ、腕と口から血を溢れさせながら、なお兵士はディンに噛み付こうとしてくる。押して逃げようと試みるが、引き剥がせない。
 覆いかぶされ動けないディンの前後から、二人の兵士が雄叫びを上げ、剣を振り上げてくる。この状況では無理だ。避けるにしても間に合いそうにない。

「あー」

 思わず死を覚悟した。振り返ってみればくだらない人生だっし、ここで死んでも仕方ないと思う。
 『ゴシャ』っという鈍い音がして、兵の頭部が吹き飛んだ。見ると大地にオスフロンドの戦槌がめり込んでいた。

「ぼやっとするな! とっとと立て!」

 オスフロンドはディンを守るため、わざわざ崖の上から己の武器を投擲したようだ。これでは呑気に死んでなんかいられない。
 迫るもう一方の兵士の攻撃を、覆い被さる兵を強引に引っ張り盾にして防ぐ。その前身負傷した血だるま状態の兵士を、追撃しようとしている兵に向かって蹴り飛ばす。もつれた二人に爆炎魔法を詠唱。
 狙いは胸部から頭部にかけて。オスフロンドの言葉に従い、確実に殺す。
 爆発。まとめて吹き飛ぶ。人としての形が著しく欠損、流石に起き上がってはこない。
 ディンは起き上がるとオスフロンドを見上げた。

「まったく冷や冷やさせおって」

 オスフロンドが胸を撫で下ろしたように呟く。耳には届いてなかったが、その様子からなんとなくディンもオスフロンドの心中を察した。

「悪い! 助かった!」

「おーう! 次はないぞ!」

 オスフロンドは相変わらず危機感のない笑みを浮かべ、手を上げた。まるでピクニックを楽しんでるようだ。

「オスフロンド! 後ろ!」

「む?」

 背面から隙をつき、素早い影が動いた。湾曲した巨大な刃がせまる。
 オスフロンドは振り返るや否や獲物を握る相手の前腕を掴んだ。驚くべき反射神経だ。
 しかし、相手はオスフロンドを相手に力負けをしていない。押し合い、互角を保っている。オスフロンド程ではないが体格もあるし、握られた湾刀も大きい。2m半ばはあろう大男で、大刀も斧のように分厚く、刃渡りは1m以上ある。

「お前は」

 オスフロンドは相手の顔を見て目を丸くした。
 人ではない。全身に灰色の短い体毛を生やしている。頭頂部にある尖った三角の耳や吊り上がった瞳、黒と淡い桜が混じった色の丸い鼻、そこに生える長い髭や特徴的な口など、全体的にネコ科動物の特徴がある。露出が多い点ではオスフロンドと同じだが、ウォーガンとはまた異なる、ソウと呼ばれる亜人種だ。

「ぐふっ!?」

 ソウの鋭い前蹴りがオスフロンドのみぞおちをとらえた。オスフロンドの巨体が軽々と宙を舞い、崖の上から転落してくる。
 ソウはそれを追って跳躍した。四つ脚で大地を蹴り勢い良く飛び出かかる様は、獲物を狙う肉食獣そのものだ。
 野生の本能を剥き出しにしたようなソウの湾刀による斬撃がオスフロンドの首元を狙い振り下ろされる。
 オスフロンドは身をよじり、斬撃の軌道から外れる。狙いを外す湾刀が通り過ぎる。その隙にオスフロンドはソウに向かって右の剛腕を振り回した。
 だが、ソウも甘くない。自身の斬撃を追いかけるように蹴りを放っていた。
 互いの攻撃が交錯し被弾、弾かれるように吹き飛んだ両者は地に叩きつけられる前に宙でくるんと回転した。両足で大地を激しく揺らしながら着地するオスフロンドに対し、四つ脚で羽のように軽やかに着地してみせるソウ。両者に明確な違いはあるものの、どちらも異常なまでの身体能力である。

「待て待て、ベルティシア」

 オスフロンドはソウに語り掛ける。

「お前、王国に雇われた側だろう。俺も色々あり、今はそっちに着いてるんだ。今回はウォーガンとソウの間にある因縁は一旦忘れ、共に戦おうぞ」

 オスフロンドの様子を見る限り、二人は知った間柄のようだ。
 対話で解決出来るのであれば話は早い。だが、ベルティシアと呼ばれたソウは言葉を返す素振りを見せない。
 背中を丸めて身を低くすると、獲物の隙をうかがう肉食獣のように、ゆっくりとオスフロンドを中心に回り始めた。
 吊り上がった瞳に違和感を感じる。オスフロンドはそこに、他の兵士達と同じ特徴を見つけた。

「馬鹿な」

 瞳の焦点が定まっていない。そして、ベルティシアから漂う特徴的な匂い。
 オスフロンドが珍しく青ざめた。

「ベルティシア。お前も死人になったのか?」

[*前へ]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!