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フラン、仕事を始める
フランドールの武道教習(8)
〜?視点〜

 あの男が何だったのか、それは未だに分からない。もしかしたら、あれは人間どころか、妖怪ですらなかったのかもしれない。

 俺が食らいついた先に手応えはなく、それは俺に一方的に言葉を告げると、忽然と何処かへ姿を消した。

 あれは、違っていた。あれは、人間とも、妖怪とも、違っていたんだ。

 決して、歯を立ててはいけないものだった。だが、今更後悔しても、もう遅い。

 この人外がひしめく幻想郷の中でさえ見た事のない、計り知れない圧倒的な、“何か”。

 それでも、強いて言うのなら、“あの妖怪”とは、どこか近しいものを持っていた。そう感じる。

 そいつは言った。


お前の中で渦巻いている、負の感情を晴らす力を与えてやろう――


 そして、気付けば俺は与えられていた。いや、植え付けられていた。

 膨大な魔力と、本来の我が種族が持っていたとされる、圧倒的な獣の力。そして、それらの代償を支払わされるように、止めどなく溢れ出る、どこまでもどす黒い負の感情を。

 それは、最後に俺が持っていた憎悪の心を爆発的に引き上げた。

 湧き上がる恨み、憎しみ、殺意、それら全ての怨念が、ある一人の相手へと向けられる。

 俺の食事の邪魔をして、俺の事を見下した、あの生意気な吸血鬼に。

 だが、それは好都合じゃなか。この怨念を持って、あのクソガキを血の海の中に沈め、今度こそは食らってやろう!


――いや、違う。俺は、ただ飢えていただけだった。ただ、飢えを満たしたいだけだった。

確かに、あの吸血鬼は気に入らない。

だが、まるで操り人形のように、俺ではない“何か”に支配され、リスクを犯してまでしてあれに挑むつもりなど毛頭ない。

そんな事をして命を危険にさらす位なら、墓でも漁り、死肉を食らって生活した方がまだマシだ。

俺はただ、生き永らえたかっただけなんだ。


だが、もはや、駄目だ。

(憎い)

どうする事も出来ない。

(あのガキが)

俺の頭の中に巣食った“何か”は、俺の思考を食い尽くし、

(憎くて憎くて仕方が無い)

次第に俺その者へと成り代わっていった。

(必ず食い殺してくれる!)

空腹とは別の飢餓感が湧き上がり、

(そうだ! 俺はこの力を持って、あの吸血鬼を殺す!)

俺は、復讐に取り付かれた、一匹の哀れな化け物へと成り果てていく。

( 殺す! 殺す! 殺しつしてやる!)



 ビシャリと、目の前に、血が飛び散り、そいつは悲鳴をあげながら懇願してきた。

お願い、許して――

 その言葉を笑い捨て、腹をかっさばき、飛び出した内臓に食らいつく。

 待ちに待った光景だ。悲鳴をあげ、顔を苦痛で歪めながら助けを乞うそれを見て、快楽が絶頂を迎えた。

 あの吸血鬼を血溜まりに沈める幻視が映し出され、自分の殺意が、耳触りがする程の幻聴へと変化して、頭の中を駆け巡る。

 これは、幻覚。俺の心の望みが映し出した、実体のないただの幻。

 歪んでしまった頭の中は、見えてる光景が夢なのか現実なのか、区別が出来ない程にめちゃくちゃで、吐き気さえ催す程の負の感情に支配されている。

 だが、そんな中でも、復讐という一点に置いては、俺はひどく冷静に思考をしてた。

確かに、俺は力を得た。

だが、それでも、まだあの吸血鬼には届かない。

準備が必要だ。

まだ勝てない。

あの吸血鬼を相手にするには、まだ足りない。

この蓄積したヘドロのような黒い感情をぶつけ、あれを真っ黒な絶望へと塗りつぶし、後悔と絶望の中で食い殺してやるには、まだ。



だから、この一週間、じっくりと観察させてもらった。

するとどうだ。

あるじゃないか、弱点が。

この吸血鬼が、大切にしている、ガラス細工のように儚い宝物が、二つも。

これは、使える。

あれらは、いい餌になる。

口元が、一人でに歪んでしまう。

準備は整った。
さぁ、始めよう。
この飢えに飢えた怨念を満たす為に、俺をこんな姿に成り果てさせたあの吸血鬼に、復讐を。





―― そうだ。始めろ。
さぁ、その憎しみを牙にして、存分に踊れ。
“あれ”を呼び覚ます為の、生贄として。


 頭の中で、“何か”がそう、呟いた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






〜フランドール視点〜




 翌日、私はだいぶ早起きをして、久しぶりにアドルフに会いに『緑山荘』を訪れた。美鈴に武道を習い始めてからは、中々アドルフの所へ顔を出す機会がなくなっていた。だけど、この所色々あって精神的に弱っていた私は、久々に彼の顔が見たくなった。

 時間は早朝六時。日はまだ登り始めたばっかりだ。普段だったら私はまだ寝ている時間帯ではあるが、それでもアドルフはもう仕事をしているだろう。
 もし忙しかったらあまり話は出来ないが、それでも、働いている彼の姿を見れれば、心が元気付けられるかな。そんな事を思いながら、私はここを尋ねてみた。

 『緑山荘』自体はまだ閉まっていたものの、その回りではいそいそと働いているドワーフ達がたくさんいた。今から農家としての仕事があるのだろう。私は彼らにアドルフの所在を尋ねると、どうやら彼は今から畑作業をしにいく所だとの事だった。






彼らが言ってたサツマイモの畑って、多分ここだよね。アドルフは―― おっ、いたいた!

 案内してもらった畑に足を運ぶと、遠くには何人かのドワーフに混じって彼の姿が。麦わら防止を被り、首にはタオル、手には軍手と、いかにも農作業って格好をしているアドルフ。だけど、服はまだ泥塗れにはなっていない。どうやら、丁度今から仕事が始まるとこのようだった。

「アドルフーっ!!」

 私は手を振って彼を呼んだ。私の声が届いたみたいで、彼はこちらに首を向ける。そして、声の主が私と分かるや否や、嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってきた。

「フランドール、久しぶりじゃないか! どうしたんだ? こんな朝早く!」

「ん、まぁどうしてるかなと思ってね。それより、アドルフ、今から仕事?」

「あぁ、これから収穫時を迎えた芋を収穫するつもりだったんだけど――」

「そっか。じゃぁ、忙しいよね」

「まぁ、そう、だね」

 彼はすまなさそうな笑いを浮かべる。でも、それは仕方が無い。確かに今日、私は彼と久しぶりに話したくってここに来た。だけど、仕事の邪魔をしてまで彼に付き合ってもらうのは、申し訳ない。 ――そう思っていたんだけれど。

「大丈夫だよ、アドルフさん。あんたにはこの数日間本当に色々教えてもらったし働いてもらったからね。それに、紅魔館の妹さんもお得意様だし、相手してあげて。少しは休みなよ」

 なんと、私達の話をそばで聞いていたドワーフの一人が、彼に休憩の許可を出してくれた。





 私達は、初めて出会った日のように、道端に並んで座り込んだ。朝の新鮮な空気が気持ち良くって、私は思わず伸びをした。
 暫くの間、お互いに何も喋る事なく、田畑を見つめる。だけど、決して気まずくはなかった。そうしているだけで、少し沈んでいた心が落ち着いていく気がした。

 だけど、私は暫くしたら美鈴のとこへ行かなきゃいけないし、ぼんやりとしたまま彼の時間を奪い続けるのにも気が引ける。だから、何か喋ろう。そうだな、仕事は順調かとか、そんな事を聞こうかな。
 私がそう思っていると、彼の方から、先に私に話し掛けてきてくれた。

「フランドールは、元気にしてたか? 急に来なくなったから心配してたけど」

「心配って、全く、大袈裟だね」

 そうは言ったけど、本音としてはやっぱり嬉しい。私の事を気に掛けてくれる彼の事が、とても有難かった。

「んとね、人里で静流ちゃん、あ、人間の子供なんだけどね、その子と仲良くなって、鍛えて欲しいって頼まれたから武術を教えたりしてて、それで色々と忙しかったんだよ」

「そうだったのか。 良かったじゃないか!」

「うん!」

 アドルフは、私が人の子供と仲良くなった事を喜んでくれた。その反応が嬉しくて、私は話した。静流ちゃんと仲良くなった経緯や、上達の早さ、そして、あの子がどれだけ愛らしく、良い子で、一緒にいて心癒されるかを。

「フランドール、楽しそうにしていたんだな。本当に良かったよ」

「――ん、ありがと」

そう。確かにこの数日は、楽しい時間もいっぱいあった。それは間違いないんだ。だけどね、嫌な事、それに、頭がこんがらがる事もいっぱいあった。それに、心配で、不安なんだ。あの子の事が、とても。

「フランドール?」

「ん? どうしたの?」

「――いや」

 彼は、もしかしたら私の暗くなった感情を感じ取ってくれたのかもしれない。だけど、私は、つい誤魔化してしまう。本当は、彼に聞いて欲しいはずなのに。

「しかし、武術か。フランドールも武術とかやるんだな。吸血鬼だからそんなもの必要ないイメージだったけど、少し意外だな」

「んー、まぁ私もまだ始めたばかりなんだけどね。身内にそういうのが達人級に凄い人がいるから、静流ちゃんを鍛える為にその人に習い始めたんだけど、やってみたら中々面白いんだよ」

「そうだな、分かる分かる。ああいうのって技術一つとっても中々奥深くって、本当に熱中させられるものがあるよな」

「え? もしかして、アドルフも武術やってたの?」

「まぁね。僕の場合は武術じゃなく格闘技なんだけど、趣味で少しね。二十歳の時は日本の大会で優勝もしたなー」

「大会で優勝って、趣味ってレベルじゃなくない!? 凄いじゃん! でも、へー! そうだったんだ。 ちょっと意外! ドルフって農業一筋ってイメージあったのに!」

「まぁ、ほとんどそんな感じだよ。格闘技は、僕にとって数少ない趣味だから」

へーへーへー!! 外見以外は草食系と思っていたのに、意外や意外、彼の新たな一面を発見! なんだかとっても驚きだ。 トリビアの泉にでも出そうかな?
でも、確かに言われてみれば、そんな感じの身体つきかもしれない。がっしりしてて、たくましくって!

 私は、せっかくだから、彼が格闘技をやってる姿が見たくなる。

「ねぇねぇ。せっかくだから、なんか私に教えてよ!」

「いや、流石に吸血鬼の君に教えられる実力があるかどうかは――」

「大丈夫だよ。私武術始めてまだ四日でほぼ初心者だし、それに、身体能力も外見相応にまで落とせるから!」

「そ、そんな事まで出来るのか。器用なんだな」

 私はえっへんと胸を張る。本当に偶然手に入れる事が出来たアドルフと共通する趣味。これも、静流ちゃんのおかげだな。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「本当に始めて四日間!?」

「う、うるさいな!」

 青い空の下、私の苛立った叫び声が響き渡る。

「やっぱり凄いな! 身体能力は完璧に人間の女の子になってるのに、技術はもう熟練してるし」

「ほ、ほめてもらったって嬉しくないよ!」

 何で、一見有難い言葉を掛けてくれてるようにも聞こえるアドルフに苛立った対応をしているのか。理由は単純、悔しくて悔しくて仕方がないから。






 アドルフは、格闘技を教えるに辺って私が今どんなレベルか、取り合えず動きを見て判断したいと言ってきた。
 そして私が習った打撃の動作を一通り見てもらうと、彼は信じられないと驚いていた。

「流石は吸血鬼だなぁ」

「えへへ。先生が優秀なんだよ」

「でも、基礎的な形はしっかりしてるし、教えられる事なんてあるかなぁ。強いていうなら、戦略とか――」

「戦略ってなに!? 知りたい知りたい!!」

「でも、それって中々言葉だけで説明はできないし」

 彼は最初困った顔をしていたが、やがて私を怪しむように聞いて来た。

「一応聞いておくけど、本当に身体能力って人間並に調節効くの? 急に上がったりしない?」

「ん? まぁ多分平気だけど――」






 ――そんで、今、私は彼と組手っていうのをやっている。それを通して、戦略っていうのを体で教えてくれるみたいだ。
 組手とは、どうやら模擬戦闘みたいなもんらしい。どうやら私が分身体を使ってやっていたあれがそれに当たるようだ。

 私は勿論、身体能力を人のそれに落としてはいる。だけど、それでも体を動かす感覚は人間より優れている自信はあるし、正直、人里で彼を襲った時のイメージが頭から離れず、「まぁそれなりにいけんべよ」位に考えていた。所がどうだ。





「こんのぉ!」

「だからそれじゃ僕の間合いに入れないって」

 私が前に出た瞬間を狙って放たれる回し蹴り。それは、私の体を捉え、突進した私を弾き飛ばす。

「よっ、ほっ」

そこに、軽いジャブが二発来る。タッチする程度に軽く出してくれてる為、これ自体は悠々かわせるんだけど――

「あだっ!」

 足払いを掛けられ、転ばされてしまう。どうしても、意識が上に持っていかれてしまい、この後の追撃がよけられない。

 かと思えば、次は反対だ。蹴ってきたと思って防御をしたら、上段に突きが飛んできたり。そういやぁカウンターも何発か入れられた。悔しい事に、全部寸止めにしてもらってるけど、そうでなかったら確実にくらってる。ちくしょーっ!!

「しっ! やぁ!」

「うぉっ! やっぱキレはめちゃめちゃいいな!」

「えーい、うるさい! 気が散る!」

 驚いてるような台詞を吐きながらも、彼は簡単に私の全力の攻撃をあしらってみせる。くー、そんなに余裕しゃくしゃくに言われたって全然なにも嬉しくないよ!
 こうなったら、美鈴も褒めてくれたあれで!

「しっ!」

 私はわざと大きなストレートを繰り出す。そして、防御の為にガードを固めた隙を付き、下段を狙って回し蹴りを繰り出す。だけど――

「きゃっ!」

蹴りを出した瞬間、また軸足を刈られて簡単にこかされた。

「あー! ここまで通用しないと本当に悔しいー!」

 私は叫び声をあげながら、がばりと上体だけ起こした。

「まぁ、フランドールはわざわざ僕に合わせてくれてるんだろ? それに体格差も結構あるし、仕方が無いよ」

「それでも悔しいもんは悔しいの!」

 今まで優男と思っていた彼にこのままあしらわれ続けるのは、ちょっと私のプライドが許さない。よし、こうなったら、少しだけズルしてやろう!

 私は、体に少しだけ魔力を宿す。そして上昇した身体能力を活かし、手で地面を突き放し、跳ね起きるようにして飛び掛かった。

「しっ!」

 私はそのまま空中から彼の頭部に回し蹴りを撃ち落とすが、ちっ! ぎりしゃがんでかわしやがった!

「お、おいおい! なんかさっきと明らかに動きの質が大分変わってるんだけど、これって本当に人間レベル!?」

「さっきまではね!」

「ちょっと待て! 当たったらどうするんだ!」

「寸止めするよ!」

「攻撃明らかに振り抜いてるよな!?」

「当たらないからいいじゃない!」

「でも当てる気なんだろ!?」

「もちろん!」

ちーくーしょー!
な・ん・で!
当たらないんだー!

「ちょっ、これ以上は本当無理! タンマタンマっ!! いだっ!!」

よしっ! やっと一発私の蹴りが下段にかすった! よし! 追撃のストレーとを――って!?

「ひゃっ!?」

 私が空いた上段にストレートを打ち込もうとした瞬間に、アドルフは思い掛けない行動を取ってきた。そのあまりに突拍子もないその行動に、私は思わず上ずった声を出してしまう。

な、なに!? いきなりこの人何してんの!?

 私は顔を真っ赤にし、どう反応していいのか分からなくって固まってしまう。だけど、次の瞬間、世界が目まぐるしく反転し、

「いたっ!」

 気付くと、地面に投げられていた。

「もうストップ! 本当ストップ! 防具もないのにこれ以上本気出されたら、マジ怪我するから!」

「ね、ね、そんな事よりさ、今のなに? 私が教えてもらってない投げ技なんだけど」

「教える! 教えるから、今日の組手はここまでにしよう!」

「えー? でも、戦略ってのまだ教えてもらってないし」

「それも合わせて教えるから!」

 懇願するように頼んでくるアドルフ。どうやらよっぽど怖かったらしい。ちぇっ、結局一発も入れられてないのにさ。勝ち逃げじゃん。ぶーぶー。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 そして、彼は私が、さっきやられた投げ技と、それから戦略っていうのについて教えてくれた。

 彼曰く、私が彼に攻撃を当てられなかったのは、私の行動パターンが単調だったかららしい。私的にはフェイントも織り交ぜたりと工夫していたつもりなんだが、それは戦略としてまだ浅いみたい。
 彼は、そこからもう一歩踏み込んだ事を教えてくれた。少し難しかったけど、何となく理解出来た気がする。

 時間が空いたら、早速分身体で試してみよう。まぁ、静流ちゃんにここまで教えるのは大分先の話になりそうだけどね。
 いや、でも、そろそろ実戦練習も少しずつ取り入れていってもいいのかもしれない。

 私は、彼に教えてもらった戦略を、これからの指導にどう活かすか考える。静流ちゃんの為に、指導内容を考える。それは楽しい。あの子はどんな反応をするかなとか、上達を喜ぶ顔を想像したりとか、それだけで、心が暖かくなってしまう。

「ん?」

 私はアドルフの目線に気が付く。

「どうだ? 動いてる内に、ちょっとは気が晴れたんじゃないか?」

「え?」

「何か、あったんだろ?」

「――なんで?」

「何となく。今日会った時から、そう思ってた」

「……」

やっぱり、気が付いてくれていたんだ。
何で分かったんだろ。
言ってもないのに、私が、悩んでいた事を。

でも、確かに、体を動かしている内に、少し軽くはなった気がする。もしかして、その為に組手もやってくれたのかな。

「まぁ、ちょっとね。色んな事がたくさんあって、頭が混乱してるっていうか、どうしたら良いのか分からなくなっているっていうか」

「――静流ちゃんって子の事かな?」

鋭いんだな。この人。

「うん、まぁ、それだけでもないんだけどね――」




 私は、話をした。自分から言う勇気は中々出てこなかったけど、話したかった。そうだ、私は、誰かに聞いて欲しかった。抱えているものを少しでも打ち明けて、楽になりたかったんだ。

 ――内容が内容だけに、全部は言えなかった。けれど、私は言える範囲で打ち明けた。
 静流ちゃんが何か大きな悩みを抱えているのに頼ってくれない事。そして、お姉様の態度が最近おかしく、そして、他ならぬ私も疑心暗鬼に陥ってしまっている事を。

「――だから、私、どうしたらいいのか分からなくなっちゃってたんだ。それで、むしゃくしゃしている内に、段々アドルフの顔が見たくなってさ」

「そっか」

 アドルフは全てを聞いて、黙り込んでしまう。でも、別にいい。ただ、話を聞いてくれるだけでも、心強い。
 私たちは、また、ただ静かに座り込む。やがて、彼は言った。

「フランドール、今日、あとどれ位ここにいられるんだ?」

「ん、あと、30分ってところかな?」

「そっか、じゃぁ……」








なんで??


 私は、急な成り行きに着いて行けずに、手渡された物を見ながら首を傾げる。

焼きイモ・・・

 どうやらドワーフさん達が取れたてを焼いてくれたみたい。農家では取れたてを身内で試食したりするのはよくあるみたいだけれど、あの流れからなんで焼き芋? しかも、こんなにたくさん、食べきれないよ。ほ、本当に、アドルフは何を考えてんのか分かんない、変わった奴だなぁ。まぁいいか。せっかくだから、一つ頂こう。

おぉっ!!

 ぱっくり割ると、黄金色の中身が出てくる。一口齧ると、そんじょそこらのと違って、なんかめちゃめちゃ甘い! フルーツみたいだ!

「でも、なんでいきなりプレゼント?」

実に意味分からない。
まぁ今に始まった事じゃないけど。

「美味しい食べ物って、人と人を繋ぐ役目があるんだよ。だから、話し合うきっかけを作る為に、お土産にどうかなと思ってね」

「え?」

「お姉さんとも、その子とも、ちゃんと話してみないと、何も分からないぞ。あの日の僕と君が、まさにそうだったじゃないか」

――そういう事ね。全く、お節介な奴だな。

「でも、この成り行きでイモはちょっとないんじゃない? やっぱりアドルフって変わってる。面白いよ」

 私は彼を見てくすくす笑う。それを見て、彼も笑い返す。


「でも、美味しかっただろ? ここの芋ってって凄い良い品種なんだよ」


「まぁね、美味しかったよ。だから、せっかくだし、ありがたく使わせてもらうよ」

「あぁ、そうしてくれ。また来いよ。その内、いつかは僕が作った奴を食べさせてあげるから」

「あはは、それは楽しみ。期待してるよ。それじゃ!」

 私は、彼からもらったプレゼントを片手に飛び立った。

うん、そうだ。
私、教わったじゃないか。
妹紅と輝夜から、ちゃんと向き合って話す事の大切さ。
だから、私、お姉様とも、静流ちゃんとも、ちゃんと向き合って、話してみよう。

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