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フラン、仕事を始める
フランドールの初仕事(1)
〜フランドールの初仕事(1)〜

 紅魔館を飛び出した私。取り合えず飛行を続ける私の視界には、一面の青空が広がってる。お姉様は太陽が忌々しいと言ってたし、私もそういうものだと思ってた。だけど、今はどうだい。太陽を克服した私から見た太陽は。忌々しい? 否、ちょーキレイ!やふー!

「私は自由だー!」

 四肢をめいいっぱい広げ、大空に向かって大きく叫ぶ。咲夜とお買い物に行く時も空を飛んだりはしたけど、その時はこんな風に景色を楽しんだりはしなかった。あまり気にしてなかったのかもしれない。だけど、やっぱり今は開放感が違うのかな。気ん持ちいいー! く、なくなってきた。段々と。あかん、まだ抗日光の魔法に慣れてないみたい。そう言えば、私はすぐこつ掴んだと思っていたけど、本来は難しい魔法なんだってパチュリーが言ってた。

「うー、頭痛くなってきた」

 心無しかいつもより身体の調子もよくない気がする。あまり空を飛ぶと目立っちゃうし、時間は掛かるけどこっからは歩いて行こうかな。向かう場所は、やっぱり人里だよね。そこが一番仕事がある気がするし。

 日陰を求め、地面に降り立つ。ここらは丁度広大な森が広がっているので、暫くは直射日光が当たるようなことはないだろう。少しずつ抗日光の魔法も上達させていかないと。まぁ、それはぼちぼちやってくとして、なんか―――

「この森、凄い不気味」

 それが、降り立った森の感想だった。薄暗いし、歩きにくいし、どこ見ても同じような感じだし。そうかと思えばたまにお化けのような木も生えてるし。まぁ、明るいお日様に感動するのに暗い森を気味悪く感じる吸血鬼ってのもどうかと思うけどさ。まぁいいや。それより、人里に着くまでの間にこれからの事を考えよっと。

「人里着いたら先ずはなにから始めようかな」

 住むとこ探す? でもお金はないしな。まぁ、私だったら日光さえ防げれば野宿でも案外いけんじゃないかなとも思うけど。本当はベットが欲しいんだけどね。でも、お金どころか日傘さえ持ってきてないし。うん、その辺りもぼちぼち考えよう。
 じゃあ、取り合えず仕事を探す? それが良いよね。取り合えず人里着いたら仕事を探そう。でも、どうやって探すんだろう。紅魔館の図書館にも仕事の探し方なんて本なかったし。
 ってか、吸血鬼の私を雇ってくれるような人なんているのかな。なんか聞いた話私って気が触れてる吸血鬼とかいって人里にも知れ渡ってるみたいだし。失敬な話だよね。ぷんぷん。
 確かに一時期は能力に悩まされもしたよ? だって、知らない間に手に変なもの、しかも目ん玉みたいなものが握られてたら誰だって怖いでしょ? 慌てて投げようとしても手から離れたら消えちゃうし、かと思えばまた出てくるし。呪いかなんかだと思うじゃない。で、呪いなんかに負けるかーって握り潰したら、お姉様にプレゼントしてもらって大切にしてたぬいぐるみ吹き飛ぶし。でも、気は触れてねぇし。私至って普通だし。本当に傷付くわ。いや、待て、今まで引きこもってた私だ。実は普通だと思ってるのは私だけで、私は普通じゃないのかな?
 まぁ兎も角として、人里に着いたら吸血鬼だって事は隠した方がいいのかもしれない。紅魔館の人達にも見つかりたくないし、偽名でも考えとく? 偽名、偽名…… セラス・ヴィクトリアなんてどうだい。同じ金髪だし。あえて、私吸血鬼違うアピールで、アレクサンド・アンデルセンでもいいかもしれない。でも、吸血鬼じゃなかったら私なんてただの女の子にしか見えないし、もっと雇ってくれなくなるかもしれない。ばれたら後が怖い気がするし。

「まぁ、もし偽名を使うとしたら神父の方にするとして、なんか考えるだけで前途多難だな。段々心配になってきたー」

 今更ながら、先か行きが心配になってくる。最初にパチュリーが住む場所や仕事を心配してくれたけど、どうしてもっと考えなかったのか。今になって悔やまれる。それに、お姉様に言われた、危険な力を持つ吸血鬼ということで私が傷付くという言葉、それが今になって怖くなる。
 やっぱり、もう少し計画を立ててた方が良かったかな。それに、多少紅魔館からお金とか持ってくれば良かったかな。いや、その前に、やっぱり家族を、お姉様をちゃんと納得させて来れば良かったかな。

「―――いや、いいんだ」

 そう、これでいいんだ。お姉様には、ちゃんと私が立派になったところを見せるんだ。私はお姉様の保護がなくても大丈夫なところを見せるんだ。それには、ゼロから始めてこそ意味があるんだ。

「よし、すんだ事は気にしない。考えるのはこれからどうするか。それに、大変なのは覚悟の上だ。この先の未来も、もっとポジティブに考えよう!」

 大きく手を上げ、えいえいおー! うん、なんか楽しい未来が待ってる気がしてきたよ!? 取り合えず、先ずは人里、行ってみないことには始まらないよね!? さぁ、いざ進めー! ―――あれ?

「このお化けの木、さっきも見たよね?」

 モチベーション上げた瞬間、私の目に入ってきたのはついさっき目にしたのと全く同じ形をしたお化けの木。おかしいな。真っ直ぐ進んでたはずだよね? 似てる木? 同じ木?

「ちょっと戻って、確認してみようかな」

 止めときゃいいのに、戻って確認しようとする私。あれ、そろそろあるはずなのに、見つからない。見つからないってことは、道はあってたの? 間違ってたの? あれ。あれあれ。怖くなった。やめよう。戻ろう。
 あれ、ない。あれ、さっきの木がない。今どこ。ここはどこ? 私は誰? 完全に迷った私。迷子の迷子の吸血鬼。あなたのお家は何処ですか。お家ーを聞いたら紅魔館。名前ーを聞いたらフランだよ☆
 いかんいかん、うた歌ってる場合ちゃうし。どうしよう。ここは覚悟を決めて、太陽の下に突撃いっとく?

「お、こんなとこに女の子たぁ珍しいじゃねえか」

 私が飛び立つ覚悟を決めた時、背後で低い声がした。そう思って振り返ったところにいたのは、人の体型をした、茶色のわんちゃん。

「貴方はだあれ? もしかして犬のお巡りさん?」

「犬じゃねえ! 狼だ! 聞いて驚くな。俺はこの森に住んでる狼男だ!」

「ふーん、まぁなんでもいいや。道が分からなくて困ってるんだよ。良かったら案内してほしいんだけど」

「そうかそうか、お嬢ちゃんは迷子になっちゃったんだな」

「そうなの、だからできたら人里まで ―――って」

 あれ、なんでこの人こんなよだれ垂らしてるの? なにぶつぶつ言ってるの? えっと、なになに。おにく、やわらかくて、おいしそう? それって私のこと? あぁ〜まぁね? 確かに私のお肉は柔らかそうだけど―――って。

「もしかして、あんた私食べる気?」

「勿論だ。人間のガキなんて久しぶりのご馳走だからな。逃がす方がどうかしてるぜ。ぐふふふ、ここ数日餌が取れなくて丁度腹減ってたんだ」

 はぁ? 冗談じゃない。ってか、私人間ちゃうし。

「あのねー、あんた、勘違いしてるけど、私は人間じゃないよ。吸血鬼だよ」

「嘘着いて逃げようったってそうはいかねぇな。なーに、そんな恐がるな。痛いのは一瞬だ」

 目の前の狼男はよだれを垂らすだけでは飽き足らず、私を見て舌なめずり。駄目だ、このバカ。空腹で冷静な判断力もなくなってるのか。さて、見逃してあげようと思ってたけど……

 私は多少痛めつけてやろうと魔力を高める。そんな時だった。

「妹様ーっ! フランお嬢様ーっ!!」

「げっ、咲夜!!」

 森の上空では私を探す咲夜の姿が。それを見た私は慌てて魔力の放出を止める。咲夜はすぐに頭上を通り過ぎて行ったが、咲夜の勘の良さは尋常じゃない。下手に力を解き放てば、離れていても速攻で私の居場所がばれてしまう。
 目の前のバカは…… ちっ、目がいっちまってるわ。完全に私を食べることしか考えてない。そんな汚らわしい目で私を見ないで!
 しょうがないな。ここは逃げるしかない。それに、考えれば、咲夜も闇雲に私を探したりはしないだろう。きっと、私が行く可能性が最も高い場所へ向かうはず。それはどこ? そう、人里さ! つまり、咲夜が飛んでった場所を目指せば、ゴールにたどり着くこと間違いなし!

「ごめんね、狼男さん。私、あなたの期待に応えてあげることは出来ないの」

「あっ待て、俺のご飯!」

 咲夜が飛んだ方向へと私は駆け出す。待てって言われて誰が待つかーい。私はこれでも吸血鬼。例え魔力を解放しないでもあんたみたいな低級妖怪にゃ捕まえられないもんねー。あなたに美味しそうって褒められたこと、それだけはありがたく受け取っておくわ。もう二度と会うこともないでしょう。アディオース!!






「あかん。狼増えとる」

 走って走って辿り着いた先、そこは切り立った岩壁で囲まれたような場所。そこには、ひいふうみーよー。計五頭の狼男。いきなり走って近づいてきた私を見て首を傾げている。よし、まだ敵意はなさそうだ。今のうちに、それとなく立ち去ろう。

「すみません。知り合いかと思ったんですが、人違いだったみたいで。お邪魔しましたー」

「はぁはぁ、やっと追いついた。もう逃がさねぇぞ。ガキ」

「げっ」

 うまく誤魔化して立ち去ろうとした私の前に、最初に会った狼男が立ち塞がる。息を切らせながらも執拗に追ってくるその姿は、もはや完全にストーカーだ。

「ちょろちょろと逃げ回りやがって。しかし、アホなガキだ。わざわざわ俺達の巣に飛び込んでくるたぁ」

 あ、あんたにアホとか言われたくないな。まだ人間じゃないって分からないの? 翼あるの見えないの? 他の狼さんは分かってくれるよね? ほら、ほらほら。翼パタパタ動いてるでしょ?
 あれ、いつの間にか皆私見てよだれ垂らしてる。なんでそうなるの? そんな私美味しそうなの! ? 喜べばいいの? 誰かに自慢すればいいの!?
 狼男の群れは私を囲みじりじりと距離を積める。どうしよう。流石にこのままだと逃げられないし。飛んで逃げるか、一瞬だけ魔力解放させるか…… お?

 私が次にどのような行動を取るか考えていた時だった。突如森の奥から小さな物体が狼男に向かっていった。それは、よく見ると小さな可愛らしいお人形。けれど、その手には物騒な剣を持ち、一頭の狼男を容赦無く切りつけた。その人形は叫び声を上げる狼男を尻目に、他の仲間も次々と切り伏せていく。そのスピードは風のように早く、とてもあの狼男ごときでは防げない。

誰だろう?

 私はその人形を操っている魔法の糸を見つけ、それを目で追ってみる。その先からは、金色の髪をした、やや背の高い綺麗な女性の姿が。

あの人、強い。

 体から溢れさせる魔力を感じ、私はそう判断する。そんな彼女は、狼男達に殺気をぶつけながら、悠然とこちらに向かって歩み寄ってきた。

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あきゅろす。
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