[携帯モード] [URL送信]

サブ長編
優しいね、委員長
人気の無い路地裏。

目の前には、柄の悪い男達。

私は追い詰められていた。






助けを求めたいけど、喉が強張って声が出ない。

スキを見て逃げようにも、無駄だという事が解っている。

なら、後は…祈るしかない。

《雲雀さん…雲雀さん…助けて…!》

ほんの気休めにしかならないけど。

もしかしたら来てくれるかも、という一縷の望みを信じたいから。

でも、その望みも尽きかけている。

「じゃ、もういっちゃうか?」

男の声がした。

「そうだな、じゃ俺から〜。」

そして再び腕を掴まれる。

腕の動きは封じられ、オマケに恐怖で身動きも取れなくなった。

やだ……!

涙が溢れそうになる。



終わった…。



でも。

突如鈍い音が響いた。

それと同時に鉄の臭気も漂う。

そして、耳に届いた涼やかな声。

「君達、何してるの?この町の風紀の乱す奴は…」

その声の主は、私が待ち焦がれた人物。

「…咬み殺す。」

誰でもない、風紀委員長・雲雀恭弥だった。






「こ、こいつ…!」

「ただの中坊じゃねぇぞ!」

突然現れた雲雀さんに、男達がざわめく。

雲雀さんは血に濡れたトンファーを一振りすると、素早く男達に近寄った。

そして次々と男達を葬っていく。

それは、ホントに一瞬の出来事。

私はただただ唖然としていた。

溢れかけた涙もあっという間に収まり、雲雀さんが来てくれた事を喜んでるヒマも無かった。

そしてふと、雲雀さんから声が掛けられる。

「菜月、こいつらに何かされた?」

『…っ、いえ、まだ何も…。』

その会話で我に返った私は、もう全て終わっていた事に気付いた。

辺りは血の海と化し、あの男達がひとり残らず横たわっている。

雲雀さん…すご…。

『あの…ちょっとやり過ぎじゃ…?』

ここまで痛め付けなくてもいいんじゃない?

そう言ったら、雲雀さんは目を細めた。

「無礼だね。折角助けてやったっていうのに。」

『はい!すいませんっ!』

ヤバい、怒らせたらマジでヤバい。

折角助かったのに、私も咬み殺されちゃうよ!

とにかく、怒らせたらいけない…てか、私まだお礼言ってないじゃん!

お礼はちゃんとしておこう。

『あの、雲雀さん…。ありがとうございました、助けてくれて。』

そう言って頭を下げる。

すると、雲雀さんは突然踵を返して歩きだした。

『え、ちょ、どうしたんですか!?』

「見回りの続きに決まってるでしょ。早くおいで。」

そう言うと、私を待たずに行ってしまった。

やだ、こんな所に置き去りにされたくない!!

『待って雲雀さーん!置いてかないでくださいよ!』

私は急いで雲雀さんの後を追った。

…今日何回目だろ、これ…。






夕暮れの迫る並盛町。

黄昏の中を雲雀さんと歩きながら、聞いてみた。

『そういえば雲雀さん、何で来てくれたんですか?あそこは私の担当で、雲雀さんは別の場所にいたハズじゃ…?』

そう、不思議に思っていた。

私の祈りが通じた…訳無いか。

雲雀さんが答える。

「あぁそれは、そこが菜月の担当場所だったからだよ。」

『…どういう事ですか?』

首を傾げたら、雲雀さんはそっぽを向いて言った。

「菜月ひとりに見回りを任せて大丈夫な訳が無いだろう。不安だったから行ってみたんだよ。」

そ…そんなに不安に思われてんの私!?

うわ〜ちょっとショック…。

でも。

来てくれたのは、私を心配してくれてたからだよね。

『そっか…雲雀さんって、ホントは優しいんですね!』

顔を緩めて、雲雀さんを見上げる。

だけど、雲雀さんはチラッと視線をよこしただけだった。

「何言ってるんだい…今日はここまで。もう帰っていいよ。」

そして軽く手を振ると、並盛中の方向へ帰っていった。

その後ろ姿に手を振り返す。

『はい!お疲れ様でした!』

なんか満ち足りた気分の私の足取りは、いつにも増して軽かった。






ひとりで歩く帰り道。

さっき言われた言葉と、無邪気な笑顔を反芻する。

『雲雀さんって、ホントは優しいんですね!』

『優しい』なんて言われたのは、初めてだった。

言われたいとも思わなかったし、そもそも、そんな生温い言葉は好きじゃなかった。



でも…この気持ちは何だろう。



心の奥底から暖かくなるような、この気持ちは。



彼女の笑顔を思い出し、思わず口元が緩む。



…面白い奴が転入して来たな。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!