サブ長編
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『えっと、中津菜月です、よろしくお願いします!』
教卓の前で、にこりと笑って自己紹介する菜月。
その笑顔に教室中、特に男供がざわめいたのは言うまでも無い。
休み時間になるとすぐ、菜月はクラスメートたちに囲まれた。
「えらく人気者っすね、イディオット。」
「ま、ただでさえ転入生ってのは注目されっからな。」
「あぁ…うん。」
隼人と山本の言葉に生返事で返す。
俺は、なんとも言えない虚無感に苛まれていた。
つい昨日出逢ったばっかりなのに何言ってんだ、と自分でも思うけど。
ただそれでも、昨日の時点で菜月を名前で呼び、あのきらきら輝く笑顔を一身に受けてたのは、この日本で俺だけだった。
だというのに。
「菜月ちゃんってイタリアから来たの?すごーい!」
「ねぇ中津さん、あとで俺たちが校舎案内してあげるよ!」
「菜月ちゃん携帯持ってる?俺とアドレス交換しない?」
今では菜月は沢山のクラスメートに囲まれて、名前もちゃんと呼ばれて。
クラスメートに隠れて見えないけど、多分笑ってるんだろう。
たかだか数メートルしか離れてないのに、なんだか遠く感じた。
「…まぁ、友達出来ていいんじゃない?菜月からすれば…。」
そんなことをふたりに言うふりをして、自分自身に言い聞かせる。
そして人だかりから視線を逸らし、窓の外をぼんやり眺めた。
しかし、わいわいがやがや、うるさい背後がどうしても気になる。
…あーなんでだ、なんで気になるんだ。
そしてなんで、胸がぽっかり空いたような気持ちになるんだ。
うんうん悩んでいると、くいくい、突然引かれた袖。
『ね、ツナ…ねぇってば!』
驚いて声の方を見ると、そこにはさっきまで囲まれていたはずの菜月がいた。
咄嗟のことに反応出来ない俺。
菜月はそんな俺を気にせず、俺の前の席に座った。
「…抜けてきたの?」
『うん、なんか疲れちゃって。すごい人数だし、みんないっぺんに話し掛けてくるし。』
そういう菜月は、本当にくたびれた表情。
『それにあんなに大人数に囲まれたの初めてだし…ビックリして、逃げてきちゃった。』
「…そっか。」
菜月の表情と言葉に、何故だか頭を撫でてやりたい衝動に駆られる。
今にも動き出しそうな右手を、菜月に見えないようにぐっと左手で抑えた。
俺が机の下でそんな努力をしていた時、
『それでさ…今度から休み時間の間、一緒にいていい?』
その言葉に思わず、へ、と間抜けな声を出して固まる。
『周り知らない人ばっかりで、ツナたちしか知ってる人いないから…。』
ダメかな、と心細気に見上げてくる菜月。
あぁもう、そんなの反則だ。
そんな顔されたら拒める訳ない。
「いや…俺はいいけど。ふたりもいいよね?」
「俺は構わないぜ。」
「十代目の仰るとおりに。」
俺たちの返事を聞くやいなや、菜月の瞳がきらりと輝く。
『やったあ!ありがと!』
あぁ幻覚かな、ひょこひょこ動く耳と、ぱたぱた振られる尻尾が見えてきた。
多分、犬に懐かれるってこんな感じなんだろう。
そんなこんなの間に鳴り響いたチャイム。
ガラリと教師が入ってきて、菜月は自分の席に戻っていった。
また菜月と話せるのは50分後。
…とりあえずそれまで、さっきの虚無感と衝動は何だったのか、考えてみよう。
―――その頃の俺は、それが独占欲と庇護欲だと気付いていなかった。
〜あとがき〜
今回気に入った言葉→ぷにぷに。
擬音大好きです。
ぷにぷにしたいし、されたいです←
てゆーかこの話はどういう方向に持っていけばいいんだろうか。
そのうち考えてみます。
では、ここらへんで。
またどーぞ!
寧音
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