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音のない世界で(パラレル)
…[4]

▼鈴side


 ゆうとはどうして僕に優しくしてくれるの?
 僕がゆうとさんって呼ぶと、ゆうとでいいからって言ってくれたり
 うまく話せなくても、ゆっくりでいいよって言ってくれる。

 優しさに慣れていなくてどうしていいか分からない……。優しくされると、甘えてしまいたくなる。

 ほんとうは僕、寂しかった。
 ひとりぼっちになって、寂しかったから……。

 初めて会った人なのに。男の人なのに。
 好きになってしまいそうで、怖い。


「りん?」


 どうしよう……どうしよう……。
 こわい。もう、喋れない……。


「話したくない? ……布団、入るか?」


 布団


「……と、して」

「寒くないか、ここ。せっかく布団あるんだし」


 何で嬉しいんだろ。
 こんなに優しくしてくれる。
 僕は耳が聴こえないのに。
 緊張しながら、頷いたら、ゆうとは一緒に布団に入ってくれた。

 寝転んで、あったかい布団の中で
 ゆうとはもっとあったかい。


 心臓がどくどくしている。
 こんな人は、はじめて……。


「りん」


 ゆうとの声はどんなのだろう。
 僕はこの人が初めてのお客さんなら、きっと教わった通りにできると思った。


 ぎゅ……
 抱きしめられて、頬がゆうとの鎖骨に当たる。


「今日な、俺へんなんだ。こんなことしに来たわけじゃなかったんだけど。そうゆうことする場所だけどな」


 ゆうとの体から声が震えて伝わる。
 なんて言ったのかは分からないけど、温もりと、ときどき震えるゆうとの声の振動で
 僕の緊張は解けていった。




 背中を撫ぜる手に反応して
 顔を上げる。唇の動きを読み取るために。

「なんでここで働いてる?」

 そうだ、ゆうとはお客さま。
 僕にはやらなきゃいけないことがある。
 それは、

「いきるために」


 ここしかないの。生きていける場所。
 生きていてもいい場所。


「りんは何歳?」

「16さい」

「子供と思ったけど高一か?」

「がっこ、いってやい」

「なんで……?」


 きかないで……。
 学校に行けるお金はないよ。
 母さん、父さん、おうち、僕には何もない。


「言いたくないならいいよ。なんか事情があるんだよな」


 ゆうとは。


「ゆ……」


 僕を買ってくれる?
 ここは、お金で人を買うところだって。


「ほくを買ってくやはい」


 ゆっくりと慎重に、勇気を出した言葉だった。
 やらなきゃいけないのは、からだを買ってもらうこと。

 ゆうとは真っ直ぐな眼で僕を見ていた。


「……いいよ。買い占めていい?」

「……ぅん……」


 ほんとうに?
 ずっと買ってくれるって、
 ほんとなら……ゆうとに全部、あげる、
 僕のことすべて、何ができるかなんて
 まだよく分からないけど……。

 おしえてほしい。

2018,5,10…続


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