音のない世界で(パラレル)
…[1]
▼鈴side
住む家も、家族も亡くした日。
何もなくてどうしていいか分からなくて
ただひたすら歩いていた。
知らない人に声をかけられた。
行く宛もないから付いて行った。
大きな屋根の家に着いたら、今日からここが僕の家なのだと言われた。
今日からここが僕の家。
だけどそれは何もせずにご飯が食べられるわけじゃなかった。
僕は朝から晩まで働くことになった。
自分の身体を売って、人に買ってもらい
満足させることが、僕の仕事になった。
何も分からないことだらけ……。
知らない人ばかり。
何もない僕が生きていくには人の役に立つことをしなくちゃ。
だから頑張ろうと思ったんだけど。
「ほくは、耳が、ひこえません」
「ああ? 耳が何だって? おまえ声が聴き取り辛いんだよ」
初めて僕を買った人は、最初から怒っていた。それは僕が耳が聴こえないから。ここの偉い人は、そのことを伝えていなかった。
僕は口の動きを見れば、読み取れる。
けど今みたいに、怒っている人や早口な人の言葉は分からない。
だから……悲しくて
黙り込んだ。僕の悪い癖。
こうしたら人はもっと怒るのに。
◇
「なんだ、何してる?」
「おこらへ……」
「あん? 勝手に抜け出してきたのか。今日から客取るって教えたな? ちんぽ奉仕して跨って腰振りゃいいんだ。そんな簡単なことできんだろ」
「んーんー、……」
「戻れ! ツンボ!」
つんぼは嫌だからって
代わりの子を呼んで来いって言われたから戻ってきたのにな……。
戻ってもきっと怒られる。
戻らなきゃもっと怒られる。
僕はどこに行けばいいの?
▲鈴side end
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