音のない世界で(本編)
…[2]
▼鈴side
おなかすいたなぁ……。
どれくらい歩いたのかな。
こうやって考えている間も歩き続けている。
今まで一人きりでこんなに遠くまで来たことがないから不安。
まわりを見ても知らない風景。
ここ、どこなんだろ……?
どこまで行こう……。
僕は、どうしたらいいんだろう。
これからどうやって生きていけばいいのかな……。
何も分からない。
夕やけ空が、赤くて、さっき見た僕の家みたい。
きれい……。
そして前を向いたら、公園が見えた。
あそこに向かってもう少し歩いてみて、
公園についたら休もう。
◇
公園について、ベンチに座った。
わんこといっしょに人がいる。
このかっこなのは僕だけみたい。
つかれた……。
家、どうなっただろう。
みんな燃えちゃったかな。
みんな死んじゃったかな?
僕はほんとうにひとりぼっちになっちゃったんだ。たぶん。
学校のかばんをベンチにおいて、服の上からうでをなでた。ここには、母さんと父さんから受けたきずが残っている。
これがなくなるまでは、ひとりじゃない気がした。
僕はベンチに座って、ただじかんがすぎていくのを感じていた。夕やけ空が、暗くなっていくのをながめて、体にあたる風がつめたくなっていくのを。
◇
「こんな時間にひとりで何してるの?」
ユサユサ……
「……?」
「こんなとこで寝てたら風邪引くよ?」
体がゆれて、目がさめたら男の人がいた。
知らないうちに寝ちゃってたんだ。
「体冷えてるじゃん。家出でもしたの?君、学生でしょ」
この人だれ……?
「行くとこないなら俺んちくる?」
??
あかりで、うっすら見える男の人のくちを必死でよもうとした。この人の声が届かない僕は、くちの動きが頼りだからだ。
でも暗くて分からない。
「こんなとこでひとりでいたら危ないよ。行こっ」
「っ??」
手をにぎられてひっぱられて、起こされる。
びっくりして起き上がるときに、男の人にしがみついてしまった。
「……なんか君ふわふわしてるね。手冷たいよ」
「……ぁ……ゃ……さわ、な……て」
手をにぎにぎされて、こわい……。
「可愛いね。俺んち行こ?」
男の人は僕をつれて歩き出す。
ついて行っていいのかな。
何で。どこ行くの。そう言えたらいいんだけど。
僕は耳がきこえないし、しゃべることもうまくできない。
だからだまって……歩いた。
2017,4,14
2018,5,22…改訂
2018,9,22…改訂
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