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音のない世界で(本編)
…[15]

▼勇翔side



 講義が終わってバイトに行ってやっと帰る時刻になった。一日中何をしていても鈴のことが気になって仕方なかった。出掛けるときに見た、あの顔とか頭から離れなくて、ずっと考えていた。


 何でこんなに気になるのか理解できないけど気になるものは気になる。


 駅に着いて、そこからアパートまでかなりのスピードを出して走った。





 カチャ……キィ……

 玄関扉を開いて、琉晟の靴を確認するのと同じくらいのタイミングで、「おかえり」が聴こえてきた。俺も返事を返しながら部屋に上がる。


「おつかれー」
「ありがとな」


 俺の留守中、約束通りに鈴の傍にいてやってくれたことに感謝。毎回は無理でも、俺が遅くなる日なんかは琉晟が来てくれるとマジで助かる。


「鈴くん寝ちゃったよ」



 それは見れば分かった。
 布団がかけられて小山になっている。



「疲れて寝ちゃったみたい。一緒にカレー作って、掃除したり、一通りの家事やって。鈴くん頑張ってたよー」
「へぇ……」


 家事……。そういえば何か片付いてんな。
 綺麗になっていながら、置かれていた物が移動しているわけでもなく同じ場所にある。


「て、お前がほとんどやったんだろ?」
「俺も手伝ったけど、鈴くんが率先してやったんだよ」


 それは驚きだ。鈴は何もできないものだと端から決めつけていたから……。


「……」
「可愛いよなぁ」


 鈴の寝顔を覗き込む琉晟はクスクス笑って言う。


「なんかさ、何をやるにも一生懸命だったよ。俺の言葉、取り零さないようにするのもそうだし。お前に喜んでもらえるように、必死だったんじゃない?」


 ……分かってる。鈴が一生懸命なのは知っている。だからほっとけねぇんだ。


「カレー食えば?」
「後で食べる……」
「じゃあ、俺帰るわ」
「ああ、助かった」
「これから飲みに行くけど、流石にお前は来ないだろうしなー」


 見透かされている通り、鈴を残してこれから飲みに出る気にはなれなかった。


「今度鈴くん連れていこっか、飲み会」
「ダメに決まってるだろ……」
「アハハ、冗談」


 飲み会に鈴を連れて行く。それを想像してみたら、オドオドしている鈴が目に浮かんだ。そして実際にそうなるだろう。琉晟は本気でやり兼ねないからマジレスしてしまった。



「また都合があえば鈴くんに会いに来るからさ。連絡してー」
「わかった」



 俺は琉晟を玄関で見送って、扉が閉まると鍵をかけて戸締りをした。

 今日は琉晟が来てくれたから良かったけど、これからまた留守にすることもあるし
 不安は尽きそうにねぇな。







 リビングに敷かれた布団で眠る鈴を
 隣に寄り添って見つめる。
 ふと、今日は俺もここで寝ようかと思ってしまった。





2018,10,13



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