音のない世界で(本編)
…[14]
▼琉晟side
「それじゃあ鈴くん。先に晩飯作っちゃうね」
お、こんなジェスチャーも通じるんなら……。
スプーンを持つ手で食べる動作に、包丁でトントンって手話っぽいことをやってみたら
ちゃんと通じたみたいだ。
鈴くんは何度も頷いていて、やっぱり俺にはどうも無理をしているというか緊張?しているように見える。けど、勇翔から聞いた話もあるから、この子なりに必死なんだろう。
勇翔はこれからこの子と、どうコミュニケーションを図っていくつもりなんだろう。難聴の子と一緒に暮らすってことの苦労とか、先のことまで考えられているとは思えない。
キツくなって放り出すわけにはいかないんだぞって俺は思ってるけど。あいつはそんな中途半端な奴じゃなかった。心配しすぎかな。
俺が障害者に関心があったこととか、難聴者が手話で会話することだとか、知ってるとは思わないだろうなあいつ。
ちょっと気になってた、程度だけど。
“ばんごはん、カレーにするね”
「……」コクコク
“ぼくもてつだいます”
「でも火使うしなぁ」
作業中は流石に構えないし。
困ったなぁって顔に出ていたのか、鈴くんのやる気の勢いが萎んでいくのが分かった。
「それじゃあ、おいで、こっち」
俺が手招きして呼ぶと、鈴くんはちゃんと付いてくる。
「ここ。鈴くん、皮むき、して。これとこれ」
手話もどきをしつつ……
コンロ側には俺が立つ。
鈴くんには人参と、ジャガ芋の皮剥きを任せることにした。できるのかなぁ……ちょい不安なんだけど……。
鈴くんを観察していて思うのは、
見た限りじゃ障害があるように見えないってことだなぁ。ちょっと目がボーッとしてるとこあるけど可愛い顔してる。あとこの痣ってやっぱただの怪我じゃないよな。すっげぇ気になる。
「……」チラ……
「皮むき、できる?」
皮むきのジェスチャー付きで訊いてみると、鈴くんはやっぱり頷いた。
気になるなぁ……。
勇翔が心配するのも分かる気がするわ。
あいつ絶対心配してたもん。
ワケありだなぁ……。
う〜んとあれこれ考えながら、俺たちは晩飯作りに取り掛かっていった。
2018,9,16
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