[携帯モード] [URL送信]

音のない世界で(本編)
…[10]

▼勇翔side




 歯がないわけじゃなくて耳が聴こえないのか。……耳が聴こえない奴って……。


「…………」
「…………」


 つい、ノラを観察してしまう。
 ノラもじっと俺を見つめている。
 耳が聴こえない奴っていうのは、話すことも難しいんだとは知らなかった。周りにそんな奴がいないのと、関心もなかったから想像すらできないことだった。


 ノラに関して分かったことは、耳が聴こえないことと話すことが困難なこと。あとは……


「(何歳なんだ?)」


 だいぶ華奢でちっこいけど。制服着てるから、中学上がりたてくらいか。
 

 俺はノラから鉛筆を奪って、そこに書き足した。


 “なんさい?”


 冷静に考えてみれば本当に困る話だった。
 ノラはどう見ても未成年だろ。

 俺は一人勝手に焦っていた。


 “16さい”


 16歳? 16って高一じゃないのか?
 高一には見えねぇけど……。


 “高校生?”


 そう書き足すと、ノラは俯き加減に小さく頷いた。まぁ、小さくて華奢でも歳不相応な奴はいるのかな。

 ノラに関して少しずつ分かってきた。
 あとはどうして死のうとしていたのかってことか……けどそれを振り返してまた変な気でも起こしたらと思うと、訊ねる気にならなかった。


 “家族が心配してるんじゃない?”


 代わりの質問にこう訊ねてみたら、ノラは首を横に振った。心配してないって……そんなことはないと思うぞ。


 “送ってあげるから、どの辺りに住んでるのか教えてよ”


 ノラはまた首を横に振った。
 まさか自殺するために家出でもしてきたのかよ……。

 身構えていると、ノラは俺が握っている鉛筆の天辺にそっと触れた。ノラに手渡してやり、手元を見つめた。


 “いえもかぞくも”


 ノラの手はそこで止まった。


 家も、家族も?
 その続きは?
 焦ったくなり、俯いているノラの顔を覗き込む。

 ノラは涙を滲ませていた。
 俺は心臓が跳ねるほどに驚いて、ノラから離れた。

 まさか、俺が泣かせた?
 ど、どうす……。


「……ふ……ぅ……」
「!!」


 ノラは俺に背を向けて、肩を震わせていた。
 啜り泣く声が心臓を締め付けてくる。
 こんなとき、どうしたらいいかなんて分かるわけないだろ。

 泣いている男相手にどうしろって……。
 泣き声が大きくなると俺はいよいよ焦り、また家を飛び出したい衝動に駆られたが何とか堪えた。

 堪えて、ノラに歩み寄り、ノラの頭に掌を乗せた。

 乗せて、いた。


2018,8,27
2018,9,22…改訂
2019,2,22…改訂


[*前へ][次へ#]

10/16ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!