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音のない世界で(本編)
…[4]


▼鈴side


「どないした、こんな時間に」
「??」
「まぁええ、こっちきぃ」


 背中におじさんの手が触れて、おされる。
 そのままどこかにつれて行かれるみたいだ。

 また不安が押しよせてくる……。
 もう真っ暗だし
 これからどこに行けばいいか分からない。
 だからこのおじさんにどこにつれて行かれるか分からなくてもついて行ってしまった。

 知らない人にはついて行っちゃだめ
 それは知ってるけど
 僕には知っている人でさえもういない。
 家族がいない。


「えらいしょんぼりしてよっぽど怖い目に遭うたんやろう。どこの子や? ほれ、ここ座って」


 おじさんとベンチに座る。
 僕が置き忘れていたかばんを、おじさんが手わたしてくれた。

「嬢ちゃん、もしかして耳悪いんか?」


 おじさんがまた僕に話しかけているみたい……。公園についているあかりでうっすらと口が動いているのが見える。
 それ以上は感じ取ることができない……。

 でも何か言わなきゃ……。
 なんて言おう……。


「おうち、かへれ、なぃ。……めな、さ」
「おうち帰れへんのか。なんでや?」
「……」
「やっぱり耳悪いんやなぁ。かわいそうに……。しゃあない、おっちゃんが何とかしたる」

 グイッ

「!?」
「おっちゃんのおうちにおいで」
「ひゃ……ッ ゃ」
「怖がらんでええ、いたずらするワケとちゃうで」


 おじさんに腕をつかまれてまたどこかにつれて行かれる。不安でしかたなかった……。







「ほらここや」


 付いて行ったらあかりがついた、小さなおうちがあった。おじさんが、扉みたいになっているものを開けて中に入っていく。

 引っ張られるままに、僕も中に入った。
 中はとてもあたたかい。
 ちょっと臭いけど……。


「おうち……?」
「お? 分かったか? そうや、ここがおっちゃんの豪邸やでぇ」
「??」
「すまんすまん。耳が悪いんやったな。
ここ、おっちゃんの、おうちや!」


 おじさんがゆっくり話してくれて
 明るいここでは、くちの動きがよく分かった。

 やっぱり優しい人なんだ。
 僕は安心して力がぬけた。


「おいさんの、おうち」
「どうや?居心地悪くはないやろう」
「はぃ……」
「ええ子やなぁ」


 おじさんは僕を見てにこにこしている。
 この人なら……助けてくれるかな……。
 僕は伝えたい。
 今とても困っていること。
 どうして生きていけばいいか分からないこと。
 いっぱい、伝えたいことがあった……。





2018,5,24


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