「おお、それが名前の船か」 「おう!格好いいだろ!」 「ストライカーに比べたら全然だけどな!」 「うっせェ」 モビー・ディックは既に港を離れていた。 俺が船を出たときから準備はしていたから、そろそろだと思っていたが早すぎだろ。 飛んで帰ってきて、「俺を置いて行くなよ!」って言うと、「あ、起きてたんだ」と逆に驚かれた。ですよねっ。 ウイングロードを持って、ゴロゴロしていたエースの元へと近づき、叩き起こす。 どうだ格好いいだろ! 「てか単純な船だな。これによく全財産かけれたな」 「単純でもいい素材使ってるって言ってた。それに金に固執したくねェ」 「変な奴。あ、名前はあんのか?」 「ウイングロード!オッサンにつけてもらったんだ!」 「そうか、格好いいな」 「だろ!」 「ストライカーの次に」 「この野郎!」 でも普段は使わないから、ストライカーを収めているところに一緒に収めるようにした。 しかし収める前にやることがある。そう、ウイングロードの処女航海! 航海ってほどじゃないが、海へ浮かべてみたい! エースも見たいって言うから一緒になって海面近くに降りる。 「小型だからバランス取るのも難しいぞ。気をつけろよ」 「解った!っと…、あぶっ…!」 「おいおい、大丈夫かよ…」 「大丈夫大丈夫!」 「落ちても助けねェぞ」 「助けろよ!」 「無理」 「せめて人呼んできて下さい」 波の衝撃を直に食らうから、揺れやすい。落ちたらヤバいな…。 バランスは取りにくいが、慣れたらそうでもなかった。 まずは立ったまま、エースがストライカーに乗るみたいな体勢で後ろに風を送る。 おお、これはなかなか。 「初めてにしてはうまいじゃねェか」 「俺もビックリだ。でもまだむずい…」 「そりゃそうだ。慣れるまで走ってろ。俺もストライカー出してこよ」 「じゃあレースしようぜ!」 「ほう…。この俺に勝てると思ってんのか?」 「勝ってやるさ!」 不敵に笑うエースに、俺も不敵に笑ってみせた。 すぐにストライカーを出してきて、並んで浮かぶ。 やっぱウイングロードはちっせェな。それでも機能に問題はねェ! 上からサッチが「何してんだ?」と顔を出してきたが、無視だ無視。 「モビー・ディックの周囲を走ってくる。これでいいか?」 「ああ、構わねェよ。最初に言っておくが、勝つのは俺のストライカーだ」 「ざけんな。風が火に勝てるわけねェだろ」 「勝つさ。何せコンビ歴が長いもんでね」 「上等!この名の通り、風の道を見せてやる!」 どこまでスピードが出るか楽しみだ。 二人して船に立ち、真っすぐ海を見つめる。 あ、スタート合図誰がすんだ? 「またバカなことやってんだね。俺が掛け声かけてあげようか?」 「おお、イゾウの旦那。いつの間に」 「サッチに呼ばれてね。上では賭けごと始まってるよ。エース、頑張れ」 「イゾウは俺の味方だな!」 「酷いよイゾウの旦那!」 「名前、沈め」 「酷すぎるよイゾウの旦那!」 じゃあいくよ。と銃を空へ向ける。 真剣な顔に戻り、また海を見つめる俺とエース。 足に力を入れ、いつでも飛びだす準備はできている。 さあこい! 「スタート!」 「「いっけェ!」」 エースと見事ハモって、スタートを切る。 スクリューに一気に風を送ったおかげで、最高のスタートを切ることができた。 だけど行きすぎた! アッという間にモビー・ディックの船首まで辿り着き、通り過ぎる。 ま、曲がれない…!難しいなこれ。 「ダハハ!やっぱまだまだだな!」 「なっろォ…」 エースはそれが解っていたのか、余裕で曲がる。 すぐに背中を向け、そして一気にスピードを上げ、俺との距離をさらに離した。 一度船を止め、向きを直して、またスピードをあげた。 スピードは十分。だけどエースみたいに小回りがきかない。 これは何度も乗って慣れるしかねェな。 「おいおい名前。もっとスマートに乗れねェのかよ」 「うるせェ!こっちは必死なんだよ!」 「フッ…、ガキにゃあ早かったな。オモチャの船で我慢してろ」 「んだとソバカス!空も飛べねェくせに粋がんな!」 「おい、俺のことはバカにしていいが、ストライカーをバカにするのは止めろ」 「露出狂の変態バカ」 「俺をバカにすんじゃねェ!」 「どっちなんだよ!」 怒って攻撃してくるエースに、俺も攻撃してやる。 だけど運転と攻撃ができるほど器用じゃねェから、思ったところに当たらず、ストライカーの船体を少しだけ傷つけた。 一瞬の沈黙後、エースがウイングロードの船体を燃やしやがった! 「覚悟はできてんだろうなトランクス野郎」 「覚悟はできてんだろうなソバカス野郎」 「火拳!」 「鎌鼬!」 飛んできた火拳を、鎌鼬で両断してやると、モビー・ディックに直撃。 大穴があいた船体…。 これはヤバイ。そう思ってエースを見ると、エースも「ヤベェ」と言った顔で俺を見てきた。 「どこのどいつだ!俺の船を傷つけた奴は!」 「オヤジ、名前とエースだよい」 「出て来いハナタレ小僧ども!」 オヤジのモビー・ディックへの愛はとても深いことに気がつきました。 [*前へ][次へ#] |