船の完成と別れ
一週間なんてあっという間で、船ができあがる約束の日になった。
それまで色んなことがあって心が折れそうになったが、船を思えば吹き飛ぶぜ!
俺だけの船が今日手に入る!
それを思うと昨日の夜はなかなか寝付けず、朝も珍しく早く起きれた。
飯もさっさと終わらせ、まだ人が少ない大通りを走る。
(風になってもいいんだけど、それだと基礎体力がつかないからしないようにしている)
「おはようございます!船できてますか!?」
朝早いから開いてるか不安だったが、入口は開いていたので、声を張って聞いてみた。
息子は椅子に座っていて、俺の声に驚いて落ちる。
オッサンは少し疲れた様子だったが、最後の調整を行っているみたいだった。
船はまだ見えない。まだ見たくない!
「あ、ああ君か…。おはよう、早いね」
「おうよ!楽しみで昨日寝れなかったんだ!朝も早く起きちまうしよ」
「気持ち解るよ。親父」
「待ってろ」
ワクワクしながら「早く早く!」と急かす。
そしてお披露目!
「おおおお!かっけェ!」
「気に入ってもらえて嬉しいよ」
ストライカーみたいな形だが、それより小さい!
船尾は鉄に包まれた大きなスクリューがついており、その上に座ることができる。
帆もないそれを、誰が船だと思うだろうか。
「滑走型だが、ちゃんと海にも浮かぶことができる。あと、ある程度の速さで走っても耐えれる素材を使った。だけど重くねェからスピードも出る」
「おお…」
「この床はちょっと特殊でね。風は通すけど、水は通さないんだ。艦底にその風が万遍なくいくからちゃんと陸で浮くことができるよ」
息子から長い説明を受けた。ようは、
スクリューの上に座って、足から風を後ろか下に送れということ。
後ろに風を送れば、スクリューが動いて海を走る。
下と後ろの両方に風を送れば、浮くことができ、陸を走ることができる。
まァストライカーと似たような感じだな。あとは実際に動かして身体で覚えよう。
唯一違うのは、俺の船のほうがもっと小さく、そして陸も走るということだ。あと帆がない。
「あとサービスで白ひげのマークをいれさせてもらったよ」
「おおおお!」
黒い船体に、白い海賊旗。格好よすぎだろ…仕事しすぎだろ…。
「あとは名前だ。好きにつけな」
「名前か!そうだな…。でもせっかくだし二人がつけてくれよ。親なんだろ?」
子供の名前をつけるのは親の仕事。
ニシシ!と笑うと、息子も笑った。オッサンは背中を向けていたから解らなかったが、多分笑ってる。
「俺らはウイングロードって呼んでたよ」
「ウイングロード?」
「そのままの意味だ」
「風の道かァ…。格好いいな!」
まさに俺、風人間に相応しい名前だ!
「オッサン、あと兄ちゃん!ほんとにありがとな!マジ感謝してる!」
「気に入ってもらえてよかったよ。大事に使ってくれ」
「おうよ!」
「さっさと帰れ。壊しやがったらタダじゃおかねェからな」
「壊したらここに持ってくるから助けてくれよな!」
「壊すんじゃねェ!」
最後の最後でオッサンから一喝もらって、店を出た。
大金払ったおかげで格好いい船と名前をゲットできた!
嬉しくてとにかくニヤけちまうぜ!
ここでは乗りたくはないから風の力で持ち上げ、走ってきた道を帰る。
人も多くなり、歩きにくかったが今はどうでもいい。
なんたって俺は格好いい船を手に入れたんだからな!
浮いている船を物珍しそうに見てくる。それすら気持ちいいぜ!
「お、ありゃあ…」
浮かれながら歩いていると、目の前に見知った奴が歩いていた。
最初に見たときと変わらねェ恰好。まだこの街にいたんだ。
「おーい、シュライヤー」
名前を呼ぶと、凄まじい殺気を放ちながら振り返る。
遠くを歩いているのにすげェ…。
浮かれていた気持ちもそのせいで吹き飛び、俺の身体に緊張が走る。
何であんなに機嫌悪いんだ?もしかしてあれっきり会わなかったからか?いやいや、約束してねェし…。
足を止め、色んなことを考えてみるが、俺がシュライヤを怒らせるようなことをした記憶がなかった。当たり前だ、あれっきりなんだし。
するとシュライヤは近くにあったベンチに手をかけ、脚を壊した。
「どわっ!」
壊したかと思ったら、それを勢いよく投げつけてきやがった!
避けると後ろにいた男に当たってしまったが、心配している場合ではない。
「おいシュライヤ!何すんだよ!」
「お前、海賊だったんだな」
「……バレたか…」
「死んでもらう」
「それでも一緒に飯食った仲だろ!」
「海賊は海賊だ」
容赦なく街中にあるものを投げてくる。
それを避けながら後退したが、海賊処刑人がそれを許すはずもなく、ついには俺目がけ走り出す。
どうする!逃げる?逃げるか!うん、逃げよう!シュライヤと戦う理由なんかねェもん!
「俺から逃げれると思うなよ」
「おい、本気か!?」
「当たり前だろ」
「くっそォ…。ダチになれたかと思ったのに…!」
「止めろ、虫唾が走る」
「しゃあねェ!これ使うか!」
最初の船出は、もっとゆっくり行うつもりだった。
船に飛び乗り、シュライヤを振り返る。うわ…、殺気が怖い。
「俺海賊だけど、シュライヤは好きだ」
「黙れ!」
「また会えたら飯奢ってやる」
「逃げるつもりか?!」
「おう、戦う理由がねェ」
きっとまた会える。だからこれは「さよなら」じゃねェ。
足だけ風になる。出港準備は万端。
「またなシュライヤ!」
と同時に、スクリューと床に風を送った。
空をも走るか。最高だぜ!
シュライヤが何か叫んでいたが、俺はそれに答えなかった。
顔も見ることなく、真っすぐモビー・ディックへ向かう。
最悪な別れだったが、うん、そういうときだってあるさ。
「次に会えたときはまた一緒に飯が食えますよーに」
俺が奢ってやるからさ!
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