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新しい部屋の扉を開けた瞬間、俺は佐伯と佐伯の友人を恨んだ。


男子校の男子寮。
周りに麗しい女子はいない。気取る必要もないし緩んでもしかたない。
そう思ってはみても、これはない。この汚なさはない。ありえん。


恐らく共同スペースであろう目の前の空間は、酷く荒んだ状態だった。
空気は息苦しい程に淀み、思わず鼻を摘まみたくなる程の異臭を放っている。
埃、汗、カビ、湿気、煙草、腐臭、それら一つ一つでも臭いのに、合わさると物凄い破壊力を発するらしい。そしてその破壊力抜群の異臭をマイルドに包み込んでいるのは、品のある高級な香水の香りだ。
はっきり言おう、吐き気がした。

この臭いの原因は探さずとも目の前にあった。
脱ぎ散らかした服に食べ残された物体。溢れて灰皿からこぼれている煙草の吸い殻。至るところに固まっている埃。
それらがあちこちに散らばっていた。

俺はたぶん5分はその場に止まっていたと思う。
だって入ろうにも玄関もそんな状態だったから。

でもまぁ入ったよ、決死の覚悟で。
そんで比較的散らかってない方の扉を開けた。そっちが俺の部屋だと思ったから。まぁ案の定そうだったわけで、汚されてもないし、臭くもなかった。
心底ホッとした瞬間だ。


俺は鞄を寝室に放り投げて、共同スペースの片付けを始めた。
当たり前だが、本音は片付けなんかしたくない。
だがこんな汚い所で生活していくなんて御免だ。綺麗にしてやれば、新しい同室者に恩を売れるし、初っぱなから俺の株が上がる。そうなれば今後同室者と付き合い易くなる。


片付けを始めて暫くした頃、俺の寝室ではない方の扉が開いた。
現れたのは、この世の者とも思えない程に美しく妖艶な少年だった。
だらしなくよれたTシャツも、ずり落ちそうなスエットパンツも、露出された肩や腰に視線が惹き付けられて、だらしないというよりも、妖艶に映った。

少年はトン…と扉枠に右肩を預けて、くわえていた煙草を指に挟んだ。それから緩慢な動作で俺を見た。
その視線は決して力強い物じゃなくて、寝ぼけ眼に近い。
それでもその視線にはかなりの破壊力があり、瞬間呼吸を忘れる程少年の美しさに魅入られた。

ふと我にかえったのは、少年の愛らしくも色気のある唇が開いた後。

「あんた新しい同室?名前何?掃除してくれてたんだ優しいね。ついでにさ、風呂と便所もやっといてよ、超汚いから。あと俺の寝室もね。で、名前何?」
「…舟木次郎」
「冴えない名前。あんたフナムシっぽいしフナムシね」

煙草片手に怠そうに喋る美しい少年。
呆気にとられて立ち尽くす俺に少年は言った。

「何してんのフナムシ、早くしなよ。そんなんじゃ今日中に終わんないじゃん。勘弁してよ、ったく」

俺はこの時心底思った。
「佐伯の友人よ、お前よく一年耐えたな」と。けれどそれと同じくらい、佐伯の友人を呪った。



とまぁ、先日の春雨さんとの出会いを振り返ってみた訳だが、改めて言わせてくれ。
こいつ性格悪過ぎ。

今も俺が毎日掃除してるお陰で綺麗な共同スペースで、俺の膝を枕にして寝転んでテレビ見ていやがる。
怠そうに半目を開けてお笑い番組にニヤつく姿は、やっぱり妖艶で堪らんものがあるが、俺はそれに冷めた視線を送っている。

「フナムシうざい。その不細工な面で見つめんのやめて。こっちまでフナムシになりそう」

誰かこいつをマグロ漁船に乗せてやってくれないか。

「春雨さん、くどい位言ってるけど性格悪過ぎ」
「あんたの顔よかまし。フナムシはフナムシらしく黙って家政婦してな。煙草とって」
「は?吸うなら退いてくださいよ」
「何言ってんの、嫌にきまってんじゃん」
「煙いんだよ、分かるでしょうが」
「可哀想だね。で、早くとって日が暮れる」

こう言う人だって知ってたら、絶対部屋換えなんかしなかった。







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