小説
お側(BASARA/伊達夫婦中心/愛視点)
「政宗様が城を抜け出さないように見張っといてくれ」
そう小十郎様に頼まれたのは一刻ほど前。
なのに――。
「(何故私はこのような場所に政宗様といるのでございましょうか)」
午の刻、私は政宗様に手を引かれながら山を登っていた。
伊達軍の軍師として指揮をとり、竜の右目と呼ばれ伊達政宗が信頼して背を預ける――まさに文武両道といえる片倉小十郎。
そんな小十郎様が私に――。
「頼みごと、でございますか」
「…あぁ」
「?」
私の部屋に訪れた小十郎様は、いつもと違って困ったようななんとも言えない表情で私のことを見つめていた。
「(私何か良くないことしたのでしょうか?それとも私の顔に何か付いているのでございましょうか??)」
そう思い立つとなんだか不安になり頭や頬、その他いろいろな所を触ってみるが特に変わったことがないようで…。
「???」
頬に手をあてた状態でわからないまま私は小首を傾げた。
けれど、ふと視線を感じて顔を上げてみると―――。
「………」
小十郎様はびっくりしたような表情で固まっていた。
が、少しすると何か思い当たったようで少し笑って言った。
「いや、悪い。少し考えてごとをしてただけだ。」
「考えてごと?」
別に私の顔に何か付いてるわけじゃないらしい。
少し安心すると同時に小十郎様の頼みごとが気になり早く聞きたいと思ってしまうが―――。
「……………」
小十郎様はそう言ったきり考え込んでいるのかうつむいてしまっている。
気になるからといって悩んでいる小十郎様に決断を催促するのもひどい話。
仕方なく黙って待っていると決心がついたのか小十郎様が口を開いた。
「俺はこれから少し城をあけなきゃならねぇ。…その間政宗様を見張っといてくれないか?」
「え?」
無理にとは言わねぇ、と付け加えながらまた小十郎様は苦笑した。
私は別に頼まれたことに反感を持ったわけではない。
前から小十郎様にはいろいろ無理を言ってさせてた所もあるし、政宗様との間柄も気にしてくださってた所もある。
いつも世話になっている小十郎様にお礼に何かしてあげたかったから逆に頼まれたことは嬉しい、のだが―――。
「………えっと、小十郎様の頼みでしたら私に断る理由などございません。喜んでやらせていただきます、が………その…『見張る』とはどのような意味でございますか?」
頼まれた内容の意味がわからなかった。
お側に仕えるとかじゃなくて『見張る』なんて、まるで政宗様が間者や罪人みたいな言い方だ。
その疑問に小十郎様は答えることなく苦笑というより呆れたような笑顔して―――。
「気にするな。あんたはただ政宗様の側にさえいればいい」
そう言って軽く私の頭をなでると部屋から出て行ってしまった。
「………」
今私の髪は乱れてしまっているだろう。
だけど私は髪を整えようともせず、ただなでられた場所に手を添えて小十郎様の足音に耳を傾けていた。
「(なで、られた…?)」
姫というのは政略結婚の為の道具。戦乱の世に翻弄される人形。
愛姫自身も今まで大事に扱われはしたが育てられたことはなかった。
もちろん頭をなでられたことも。
だからか、私は疑問など忘れて初めての感覚に呆然としながらひたっていた。
「………」
今度は自分で頭を少しなでてみると、今さっきと同じ感覚が蘇ってきた。
不快じゃない、くすぐったいような心地よさ…まるで心に羽がついて飛んでいるような感覚。
いつの間にか私の頬は自然と笑みをこぼしていた。
そして遠くなっていく足音を追うように私は自室を出た。
「政宗様。愛でございます」
小十郎様を見送ってから私は早速政宗様の所へ訪れていた。
しかし、私は部屋まで来ていてまだ小十郎様の言っていた『見張る』という意味がわかっていない。
原因として小十郎様に上手く誤魔化されたのもあるが…頭をなでられ嬉しさのあまり疑問を忘れていたなんて事もあったりするので情けないものだ。
私はそれを思い出しながらいろいろ後悔していると中から政宗様の声がした。
「Ah〜…入っていいぜ」
「失礼いたします」
そう言いながら襖を開けてみると、疲れているのか暇なのかごろごろ寝ころんでいる政宗様が目線だけこちらに向けていた。
用件を言うのを待っているようだ。
「小十郎様に政宗様の見張りをするように頼まれ参りました。」
「小十郎が?」
「はい。しばし城を空けるように伺、ぃ…!」
「Really!?」
最後まで言い終わる前に、いつの間にかそこで寝ころんでいたはずの政宗様が素速い動作で私の目の前に座っていた。
「っ!?」
私は少しの間驚きのあまり声も出ず目を見開いていたが、すぐに政宗様の顔と私の顔の近さに気づき一気に顔に熱が集まった。
すぐに離れようとするも、私の両肩を掴んでいる政宗様の手がそれを許すような気がしなくてすぐにその考えは捨てることになってしまった。
私がそうこうしている間も政宗様は子供のようにキラキラした無邪気な笑顔で私の返事を今かと待っていた。
南蛮語はわからないが…なんとなく真偽を確かめるような目をしていたように見えたので、私は真っ赤な顔を縦に振った。
そしたら、政宗様はその答えを待ってましたといわんばかりのいたずらっ子のような笑みをこぼすと―――。
「Let's go out!!」
「ふぇ??!」
私をまるで人ではなく荷物か何かのように軽々と片手で小脇に抱えるように抱きかかえて―――。
「Ya――ha―――!!」
「ぇえぇぇ!!??」
部屋を飛び出し、城の城壁を飛び越えた。
城から飛び出して政宗様に手を引かれながら歩くこと一刻。
途中で目的地を聞くが楽しみは後に取っておくとのことで聞けずじまい。
それでも一刻も歩き続けてまだ到着しないところをみると、とても小十郎様が帰ってくるまでに帰れそうもない。
外にほとんど出たことのない私にとって気持ちが舞い上がるぐらい嬉しい状況なのに罪悪感が胸の内をかき回していた。
「せめてなにも起きなければよろしいのでございますが…」
そう思っていると急に政宗様が足を止めてこちらに顔を向けた。
その表情は先ほど見たような幼い子供のようなものではなく、大人びたどこか哀しそうな真剣な表情だった。
「政宗、様……?」
「外に出たくなかったか?」
「…!」
政宗様のその一言で目が覚めたように一つの感情の渦が襲いかかってきた。
それは楽しんでない気持ちが表情に出ていたこと、その私に向けられていた政宗様の視線に気がつかなかったこと―――それら今までの自分の行動に対しての後悔ではなく、彼が傷付いたという事実に対しての悲しみだった。
「…そのようなことはございませぬ」
「Ha!そんなfacial expressionで言ったって信じるやつなんてたかがしれてるぜ?」
精一杯の笑顔で言った否定の言葉は政宗様に軽く笑い飛ばされてしまった。
おそらく今どの様な言葉を言っても彼に信用されないだろう。
それ以前に、とてもじゃないが次に笑う時は堪えていた涙が溢れ出してしまう。
何も言わない私を見て政宗様はばつが悪くなったのかsorryと小さく呟いた。
そして、少し気持ちが落ち着いたらしく私を見て薄く微笑んだ。
「じゃあ、愛は何がしたかったんだ?」
「…!!」
落ち着いた政宗様とは逆に、私はその言葉が合図だったかのように目から次々と涙が溢れ出してきた。
「…ぉ、い!」
涙でよく見えないが、急に泣き出した私を慌てなんとかしようとする政宗様の気配がしている。
やはり彼は優しいのだ。
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