[携帯モード] [URL送信]

小説
黒キ妖ト赤キ華(グロ注意/オリジナル)


―――平安京。


華やかで優雅な人間の世界。
しかし、それは表の世界であり裏では妖などが人を喰い、それを退治すべく陰陽師が夜の都を駆け回っていた。




だが、私にとってそんなことはどうでもよい。
ただ私は己の―――妖の本能のまま人を喰らうだけだ。














私はその日もいつも通り、昔喰った18歳位の女の皮を被り外を出歩き、近づいてきた男達を喰らってやっていた。



だが、その日はいつもと違い近づいてきた男の中に変な男が1人いた。



「君妖だよね!」



急に話しかけられ驚きながらも、私はすぐに男が何を言っているのか理解できた。
目の前にいる20前後の若い男は私の正体を一目で見抜いてしまったのだ。



私の直感が言う。



こいつは陰陽師であると―――。




殺らないと殺られる。
私は女の皮を脱ぎ捨てようとした時――、





「俺と友達になってくれないかな?」





そいつの口から耳を疑うような言葉が飛び出してきた。




今なんて言った?この若造は。
妖と陰陽師が友達になるって?




「貴様………私を馬鹿にしているのか?」




「え?ぁ……いや、別にそういう訳じゃなくて……。俺、人と妖が共存出来る世界を創りたいんだ。」




ヘラっと困ったような情けない笑顔をする陰陽師を私は見据えた。
虚言ではなそうだ。
だが嘘じゃないにせよ、言ってることがおかしいのには変わりはない。





「えーっと、やっぱり無理…かな?」





陰陽師は私が黙っているのが不安になったのだろう。
弱気になりながらもう一度意思を聞いてきた。


変なん奴だ。
だが―――、




「なかなか興味深い話だ。よいだろう、貴様と友達とやらになってやる。」




私の中にこいつに対しての興味がわいたのも、また事実。






「へ?……本当に?じゃあ、これからよろしくね!」




良い返事を予想してなかったらしい陰陽師は間抜けな顔をした後、またヘラっと情けない笑顔をした。





変な奴だ。











それから1ヶ月間陰陽師と私は別に何をするわけでもなく、ただ一緒に同じ場所で同じ時を過ごした。
でも、おかしな話だ。
陰陽師であるこいつと妖である私が友達だなんて。
笑い話もいいところだろう。
だけど、私はこいつといつもいた。



そして今日も私はこいつといた。
いつも通りこいつは、私にヘラっと情けない笑顔を向けていた。




だが、その笑顔はいつもと少し違った。

確かにいつも通り情けないのだが、顔は青白く弱々しいうえに、呼吸は荒々しく不規則だった。



笑顔だけじゃない。

地面に仰向けになって倒れている彼の腹部には、何かに抉られたような生々しい傷が付いていた。
呼吸をする度おびただしいほどの血がそこから流れている。
おそらく、もう手遅れであろう彼の目の前に、私は呆然と立ち尽くしていた。





どういう事だ?
なんでこいつが倒れている?
なんでこいつが死にかけている?



「……!?お、ぃ……?」


意味もわからず駆け寄ろうとする私の視界に入ったのは、見覚えのある人外の黒い手と足。


あぁ、私は今人の皮を被ってないのか。


そんな事を呆然と考えながら、改めて手に視線を戻すと何か違和感を感じた。
いつも通りの黒い手なのだが、何か…液体で濡れているようだ。
黒と同調してわかりにくいがその色は――――





――――血のような赤色。





あぁ、そうか。
これはこいつの血だ。
私がこいつを殺したのだ。


私は驚く程冷静に事を整理出来た。
私の本能が彼を殺したのだ。
私の、妖の本能が。



ふと私の耳に、倒れている彼が荒い呼吸に混じって何か発しているのが聞こえた。


何か伝えたいのか?


私は彼の傍まで寄り、声が聞き取れる位置まで来るとしゃがみ込んだ。



彼はそれを見て薄く笑うと、ゆっくり言葉を紡ぎ出した。



「……ご、めん…ね……?…悲し、ま……、して。」



別に、悲しんでない。



「…ぉ、れ……の、事……忘れ、て……い、いか………ら……。……だ、から……………笑っ……………、て…………………………………ね…………………………。」



そう言うと満足したのか、またヘラっと消えてしまいそうな笑みをした後彼は動かなくなってしまった。







だがしかし、私には言葉の意味が伝わっていなかった。
意味が分からないのだ。
私は別に悲しんでないし、そもそも何故こいつの事を忘れて笑わなければならないのか。





私が言葉を理解しようと頭を使っていた時、突然の大声が夜の都に響き渡った。


「化け物が…!その陰陽師の代わりとなって我らが仇をとってやろうぞ!!」


「……!?」



気付けば、周りには私の妖気を嗅ぎ付けたらしい数人の陰陽師が私を中心に囲んでいた。
なるほど、今さっきの声はこの陰陽師の中の1人が叫んだものだったのか。



私は冷静に状況を確認すると、狂喜の含んだ笑みを零し地を蹴った。
































もしあの時、私に話しかけなければ―――



「君妖だよね!」


―――こいつは死なずにすんだのか?







もしあの時、私が興味を抱かなければ―――



「俺と友達になってくれないかな?」



―――友達になんてならなかったのに。






もし、私が妖でなければ―――








―――まだこれからも一緒にいられたのだろうか?




















そして妖は天を舞う。

黒き身を己の血で染めて――。



そして妖は夢を観る。

叶わぬ思いを胸に抱いて――。





そして妖は微笑んだ。

瞳に、光る一粒の水を宿して――。







end.

[次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!