大きく息を吐いた少年はペンを放り出し、山の上のカップに少年の白い手が伸びる。口をつけようとして、ふと水面に目を落とした少年は飲む気を削がれた様子で、また山積みにされた資料のてっぺんに戻した。
腕を伸ばして伸びをするとばきばきと体が音を鳴らす。思う存分伸び、息を吐いて脱力した少年は窓に目を走らせ、「今何時だ」とつぶやく。
窓の外はもうとっぷりと日が暮れ、真っ暗である。
左手の白衣を捲るが、そこには白い手首があるだけで、「あれ」と首を傾げた少年は机をまさぐる――が、早々に諦めた。ろくな時間ではないのはよくわかっている。
椅子のキャスターをごろごろとさせて移動して覗き込んだこの窓からは、寮の明かりも見えるはずだが、今はぽつりぽつりと見えるばかり。
少年の視線はふと下に下がった。目下に男子寮棟に繋がる道を進む、二つの影がある。
こんな時間に――時間は知らないがもうとっくに消灯時間は過ぎている――にご帰還とは勇気がある、と少年がぼんやりとその影を眺めていると、その一つが上を向いた。
暗くて顔までは分からないが、目があった、ような気がした。もうひとつの影もこちらを見上げる。
とりあえず少年が手を振ってみると、脱兎のごとく逃げられた。上げた手が虚しい。
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