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南沢はドアの前に立ったまま、少し首を傾げてみせる。


「んー……おれ、朝飯食べないんだよねぇ。低血圧だから。体だるくてさ」


悟史の脳内では既に「ありがとう」「そんなに食べる物ないんだけど」「別にいいよ」といった話の展開がされていた。


「うぇ…?」


思わず漏れた声に南沢が「くっくっ」と肩を揺らす。


「まぁ、せっかく久しぶりに会ったんだし、もう少し話そっか。って言っても中学の時は喋ったことなかったっけ。懐かしむほどの間柄でもないか」


そう言われ、聞き忘れていたことを思い出した。

一晩泊まり、その上シャワーまで借り、南沢の態度は赤の他人に対するそれとは思えない。

が、南沢が言った通り悟史は中学時代、南沢とほとんど関わりがなかったのだ。


「あの、南沢さ…俺のこと、覚えてる?」


南沢自身は良くも悪くも有名だった。
しかし彼の方は、悟史が同級生だということを覚えていたのだろうか。

すると南沢はにっこりと微笑む。

思わず見惚れるような、痛々しい傷跡さえも含めた、美しい笑顔だった。


「覚えてるよ。
市立第三の2年3年と、同じ3組に居た藤井でしょ?」


はっきりと、まったくぶれない答え。
どこも間違っていない。




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