8
再び静かになった部屋に、ヴーヴーというバイヴ音が低く響いた。
音の主はベッドに放置された、南沢の携帯だ。
「もしもし?」
南沢はこれまた遠慮せず、悟史の前で電話に出た。
「マスター?うん、そう…トラブって。西村だよ…おれ悪くないよ。あいつが勝手にさぁ…うん、今は友達のとこ。え〜そんくらい居るよ…うん、夜また出るから」
ピッと電源を切るとすぐ、またヴーヴーと携帯が震え出す。
南沢は舌打ちすると電源を押して、途中でそれを切った。
「あのー…いいの?」
「いいよ、別に。飛ばしだからどうせ2、3日したら使えなくなるし」
よくわからないが、いいのだろうか。
携帯はひっきりなしに鳴り続けている。
「ごめんね、ベッド取っちゃって。じゃあおれ行くけど」
南沢はそう言うと突然立ち上がった。
「え!?」
「だっていつまでもアンタんとこ居るわけにもいかないし。一晩泊めてもらっちゃったのも悪いしさ、さっさと出るよ」
「えっえ…え、あの、南沢、あ、朝飯食ってかない!?」
とっさに絞り出した言葉はそれだった。
悟史の中には少なからず、7年ぶりの南沢 直との再会を歓ぶ心がある。
それなのに嵐のように去っていってしまうなんて、まだ話したいことが、聞きたいことがあったのに…。
そうした葛藤の末に、引き留めようとして出てきた言葉だった。
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