5
「ちょっと藤井君、キョロキョロしてないでさっさと歩いて!」
「は、はいっ!すみません!」
夜。
仕事が終わり、悟史と高橋は結局二人で二丁目に出向いていた。
高橋は何だかんだと言って、面倒見がよく放っておけない性分なのだ。
「このビルの五階ね。行くわよ」
「はい…!」
繁華街の中の、細長いビル。高橋が先導して入っていく。悟史も慌てて小走りにそれを追った。
一階に降りてきたエレベーター。チンと鳴って出てきたのは、青年とスーツ姿のサラリーマンらしき男だ。悟史は思わず凝視してしまう。高橋がその腕を強く引いた。
五階のボタンを押し、高橋は腕を組む。
「あのねぇ、藤井君。あんまり珍しいもの見るような顔しないで。失礼だし、私も恥ずかしいわ」
悟史はまた謝って反省した。
エレベーターはすぐに五階に到着し、扉が開く。開いてすぐに店内という形だった。
全体的に薄暗い中に、バーカウンターとソファの席がいくつか。静かな店だ。
「いらっしゃ……いませ」
カウンターの奥のマスターは、悟史と高橋を見ると一瞬戸惑い、何とか出迎える。
カウンター席に座った何人かの男性のうち一人が振り返り、悟史と目が合った。
「みなっ」
「わーっ、藤井!うわー!来てくれたんだ!」
速攻で立ち上がった男――南沢が駆け寄ってくる。今までにないテンションに驚いていると、南沢はぎゅっと抱き付いて来た。
あわあわとする悟史の耳元で声がする。
「ここではナオって呼んでくれる。名字禁止」
そう言うと南沢はゆっくりと体を離した。
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